57話『花の結婚式』
外務大臣となったアルベティーニは、花園の城を復活させていた。
忙しい政務の間を縫って、案内役兼マスコットとして庭園を駆け回っているらしい。
お花のプリンスが花園に現れると、どこからかファンがあつまってきて売り上げが結構伸びるという噂だ。
「わぁ……以前よりも沢山っ これはすごいですねっ」
私は久々の休暇に、お隠れで城の庭園を訪ねていた。
そこには多種多様な草花が咲き乱れ、南国風の珍しい花なども多く植えられているようだ。
外務大臣の立場を使って、アルベティーニはいろんな国の花を集めているらしい。
(ほんと、ちゃっかりしてますよね)
私が庭園を見て回っていると、誰も女王である私を気にした様子はない。
皆が楽しそうに、各々の家族や恋人と過ごしている。
(地味なのはいい事なのですかね……でもまぁ、慣れない拝謁を受ける日々も飽き飽きしてしていた所ですし)
たまにはおもいっきり羽を伸ばそうと思った矢先に、桃色の羽が私の前に広げられた。
「ンアンジェリカじゃないかっ」
私は例のプリンスに補則されてしまったのだ。
彼の珍妙な姿を見た私は思わず吹き出してしまう。
「へ? ぁっ、あはははっ なんですその恰好は」
「どーだいこの恰好は? 妖精のイメージだよっ 僕にぴったりだろう~?」
ばっちりとバレエのポーズを取るアルベティーニは妖精の仮装をしていたのだった。
頭には触覚をつけ、羽は蝶のような模様で装飾がされている。
(間違いないです。この獣人は、人生を謳歌していますね)
私が内心冷めていると、彼は妖精をイメージしたのだろう、腰に手を当てウザいステップをふみながら私に近づいてくる。
そしてそのまま私のアゴを持ち上げた。
「ンアンジェリァ、二日ぶりだねぇ! スコッティ寂しくて死んじゃいそうだったよ」
「それはウサギの専売特許ですよ」
そう言って私は冷たくあしらうと、彼から一歩離れた。
「相変わらずつれないねぇ! 昔はあんなにもウブだったのに」
大仰なポーズで泣き崩れる彼を改めて見ると、派手な化粧の下にそのイケメン具合がうかがえる。
私は森での彼の素を思い出して、悔しいが少し胸をときめかせてしまったのだった。
「ところで例のオブジェは見てくれたかい?」
「例のって、なんです……?」
「ぉぉっと、それじゃあ準備しないとね。少し待っておくれよ」
どこかへと急いで向かったアルベティーニが、すぐ戻ってくると有無を言わさず私を抱きかかえた。
そしてそのまま空へと羽ばたいたのだった。
浮遊感が私を包む。
「ちょ、ちょっと待ってください。アルベティーニ王子っ これはっ」
空中で焦ってしまった私は、思わずアルベティーニを昔の王子呼びしてしまうのだった。
そんな私の様子を見て彼は微笑むと、乱れた私の前髪を払った。
「ふふん、王子呼びはやっぱりいいね。そして腕の中には僕の姫というわけか」
「何を言ってるんですか! 女王命令です、すぐに降ろして下さいっ」
彼にお姫様抱っこされた私は、空の上で顔を真っ赤にして叫ぶことしかできなかった。
数十秒後に到着したそこは、屋外のチャペルだった。
この庭園にふさわしく純白の花々と白いシーツで装飾されたもので、女子であればそのバージンロードに誰もがため息をついてしまうようなすばらしい出来栄えだった。
「うわぁっ 素敵ですね!」
それを見て一瞬にして機嫌が直った私は、分かりやすく喜んでしまった。
今だけは、素直過ぎる自分の性格が悔しいです……っ
「だろう? そうだろう? 次はこっちを見たまえ」
アルベティーニが手をかざした方向には、さっきから気になっていた4,5メートルほどのシーツをかぶせられた何かがあった。
彼がキザに指を鳴らすと、ばさりとシーツが外される。
そこにはなんと、真っ赤なバラで作られた巨大な男女のオブジェがあったのだ。
「これって……もしかしてアルベティーニと私ですか?」
「おおっと、モデルについては企業秘密なんでね。深堀しないでくれたまえ」
それはウサギとフラミンゴカップルのオブジェで、等身が異様に高くざっと見ても12等身くらいはあった。
その二人がバレエのポーズで熱烈にキスをしており、作品名には「燃えるような純愛」と書かれている。
「……」
誰が考案したのかは言うまでもない。
私が呆気に取られていると、とつぜん頭の上に白いヴェールが乗せられ、純白のブーケが渡された。
「えっ、えっ!?」
気が付くと、私とアルベティーの周りには聖歌隊が立ち並び、パイプオルガンの音がなり響く。
いつのまにか、彼に手をとられた私はバージンロードを歩き始めていたのだ。
「ちょっと、これは何なんで……ぷはっ」
私たちの上に降り注がれるはずだった花びらが、私の顔面にぶつけられたのだった。
相手は天使の恰好をした見た目はかわいらしい子供だったのだが、あのぶっきらぼうな顔は絶対わざとですよ。
「もぉっ 次々とっ つっこみが追い付きませんっ」
私の脳は怒涛の展開に停止寸前だ。
そうして神父の前に立った私のヴェールをアルベティーニが持ち上げた。
「すごく綺麗だよ……アンジェリカ」
定番のセリフとイケメンの笑顔に私の胸が思わずゆれてしまう。
心は照れながらも、それを正常に戻そうと私の頭が必死にわめている。
(いやいや、私の心よっ 神よっ 今は場に酔っている場合ではないですぅっ)
「それでは新郎新婦は、指輪の交換を」
いつのまにか知らぬ所で、着々と式が進行していっている。
台座に乗せられた指輪は、なんと生花でできたものだった。
微笑んだアルベティーニが私に指輪を差し出す。
「悪いねアンジェ。急な事で、これしか準備できなかったんだ」
「いやいや、何を流れるように結婚式をあげてるんですか!」
私はもう、この式をめちゃくちゃにしてやろうという想いで、彼の差し出した指輪を食べてしまった。
(どうですか! これで少しは思い知りましたかっ)
「へぇ……君の所ではそうするんだね。じゃあ僕も」
そういってアルベティーニは私に習い花の指輪を食べたのであった。
(なんという事なのっ 変人奇行では彼に叶わないというわけですかっ……)
私が愕然としていると、ついに式がクライマックスを迎えようとしていた。
鳴り響くオルガンとコーラス。横では神父がいついかなる時でも~という言葉を並べ立てている。
ついに私はブチ切れてしまい、それを無視してアルベティーニの頬に両手を添えた。
「アンジェッ……!?」
「こんなことをしなくても! 私はあなたを愛してますからっ!」
そう言って、盛大に新婦側からキスをしたのだった。
イライラしてしまった私は、周囲にアピールするように盛大に音を立てて彼の唇を吸ってやった。
顔を真っ赤にしたアルベティーニが驚きに顔を歪め、パクパクと口を開閉させている。
「結婚式終わり! それじゃあ、失礼しますっ」
私は唇の横に付いたリップを手の甲で拭った。
そのまま、驚きで固まっていたさっきの子供にブーケを押し付け立ち去ったのであった。
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