54話『甘い男』
本日物語クライマックスのため、このあと20時にも連続投稿をします。
今日は灰色の女王アンジェリカの誕生日パーティ。
豪華絢爛な会場には、煌びやかに着飾った貴族、高級料理が並べられ、優美なオーケストラが演奏されている。
アンジェリカは漆黒のドレスと黒い真珠がはめ込まれたティアラをつけて、王座の上から無表情に来客の挨拶を受けていた。
「女王陛下! お話があります」
とつじょ会場を割ったような声が響き渡り、4つの影が女王の前へと躍り出る。
それは、ドレスコードに身を包んだ元王子達の姿であった。
「あなたたちはっ この期に及んで何をする気ですかな?」
4人を見たカバの宰相ヒッポリーニが、声を荒げる。
しかし、女王アンジェリカはそれを静かに遮ったのだった。
「まぁヒッポリーニ、まずは彼らの話を聞きましょう」
「我々4人はこの国の戦争に反対です。今日は元王子4人、その旨を女王陛下に陳情申し上げます」
「またその話ですか」
シリウスの言葉を受けても、あくまで無表情に無関心に女王アンジェリカは冷たく返答をする。
その凍った瞳を、8つの燃え滾った瞳が見つめ返す。
オオカミの王子が信念を叫んだ。
「将軍である俺の命令がなければ軍は動かない、利権のための戦争なんて断じて許す事はできない!」
フラミンゴの王子が高らかに宣言した。
「こちらの内情は諸外国に伝達ずみなのさ、もし開戦するなら即座に連合軍が立ち塞がる手はずになっているよ」
ネコの王子がからかうように告げた。
「作った兵器には全て欠陥をいれてあるにゃ、その気になればすぐに全部こわせるにゃ~ お姉ちゃんが悪いことをするなら、みんなにそれを教えちゃうにゃ!」
ウマの王子が謡うように報じた。
「既に国の資産の内32.3%は海外に逃がした、私の承認がなければまともに戦争できないぞ」
「貴様ら謀反を起す気かっ! 女王陛下の温情を無下にしおって!」
口角泡を飛ばしながら、顔を真っ赤にしたヒッポリーニが叫んだ。
それとは真逆に、あくまで冷徹な態度を崩さず女王は4人を見下ろした。
「何を言い出すかと思えばその程度ですか。残念です。ただちに彼らを拘束しなさい」
女王の命令で、控えていた女王親衛隊の兵士たちが4人を地面に組み伏せた。
最後まで抵抗していたジークリットが、もがきながらも必死に叫ぶ。
「女王っ! いやアンジェリカ、どうか俺たちの話を聞いてくれっ!」
「いいえ。これ以上の会話は不要です」
(……これでもダメか……っ)
限界と判断したシリウスが作戦開始を告げた。
「今だっ!」
その掛け声と共に、とつじょ空中に桃色の羽が舞う。
アルベティーニが拘束を抜け出し羽ばたいたのだった。
「何をしているのですか! ちゃんと拘束をするのですっ」
ヒッポリーニの怒声が響き渡る。
弧を描くように空中に羽ばたいたアルベティーニが、兵士たちの槍を華麗に回避すると、ルクスを拘束していた兵士に飛び蹴りを食らわせたのであった。
「悪いね、僕の交渉術にかかれば兵士の一人なんて簡単に丸め込ませられるのさ」
「よーしっ やっちゃうにゃ~」
拘束を解かれたルクスが、ニヒヒと笑った。
懐からボールサイズの玉を取り出すと、それに火をつけて空中へ放り投げる。
さく裂した玉から、一瞬にして大量の泡がモコモコと噴き出し一帯を包み込むのだった。
「なんだこれは……っ メーレスザイレか!」
「見えないぞっ」
「グァッ」
泡の中から、悲鳴とうめき声が聞こえる。
数秒後、ルクスによって改良された泡はすぐに萎んでいった。
その後には、4人を拘束していた兵士達が打ち倒されおり、元王子達が勝ち誇っていたのである。
「うーん、いまいち美しくはないけど、まぁ僕の舞う姿を見せられたなら及第点かな」
「やっぱりカレー味はあんまり美味しくないにゃ~」
「ルクスおまえっ 味はつけなくていいんだよっ 目に染みるじゃねぇか」
「おい、油断をするな。ところでどこかにいった私の眼鏡を探してくれ」
「殺しても構いません! とにかく今すぐに! 王子達の動きを止めるのですっ!」
焦ったようにヒッポリーニが叫ぶと、残っていた周囲の兵士たちが一斉に4人に襲い掛かり、そこは乱戦となった。
ジークリットが激しい剣劇で兵士たちを制し、
アルベティーニが間を縫うように飛び回り、
ルクスがコショウを投げつけ牽制をし、
シリウスが徒手空拳で追撃をした。
その喧噪の中から、一陣の風が突き抜け女王アンジェリカの下へ向かっていく。
風となったジークリットは立ち塞がった兵士たちをなぎ倒しながら叫んだ。
「そこを、どけぇぇぇぇぇっ!!」
ジークリットの手には魔法殺しと呼ばれる魔剣が握られている。
刀身から金色の粒子があふれ出ており、それによって魔法を断ち切る事ができる国の宝剣であった。
それを見たヒッポリーニが赤い冷や汗をかきながらも、二人の間に身を挺して立ち塞がる。
「それで呪いごと女王を殺す気ですかっ! 国の為にやらせはしませんぞっ!」
「そんな事はどうでもいいっ」
緩慢なパンチを避け、ジークリットがヒッポリーニを踏み台にする。
踏みつけられたヒッポリーニは地面に伏しながらも叫んだ。
「そんな事って、なんなのですっ!?」
ジークリットは空中で体制を立て直し、そのまま直滑降に宝剣を女王アンジェリカに突き刺そうとする。
刀身がいっそう眩いた瞬間、ジークリットの頭の中には昨晩の会話が蘇っていた。
「この剣で刺すと、アンジェリカは死ぬかもしれない。でもこのままでは確実にこの国とアンジェリカは破滅してしまうだろう。その為にはこれで救うしかないのだ」
「……俺にしかできないんだろ」
「お前にできるのか」
「もちろんだ、任せろよ」
ガギリという鈍い音が会場に響き渡る。
しかし、その剣は微動だにしなかったアンジェリカの横をすりぬけて、地面に突き刺さったのだった。
「俺にはっ……できないっ!」
「やはり、甘い男ですね」
女王アンジェリカは、無表情に裏拳を振り払った。
ジークリットはそこから発生した闇の魔法で数メートル吹き飛ばされ、柱に背中から叩きつけられる。
「ぐがぁっ……!」
玉座からやっと立ち上がった女王アンジェリカが、取り落とされた魔法殺しの宝剣に手をかざす。
一点に集中させられた彼女の魔法によって、宝剣は粉々に打ち砕かれたのだった。
「さて、手ずから私が殺してあげましょう」
あくまで無感情に機械的にそう告げたアンジェリカは、その手を今度はジークリットへと向ける。
その様子を朦朧とする意識の中で、スローモーションのようにジークリットは見つめていた。
(おいおい、本気で俺を殺す気なのかよ。つーか体いてー普通に死ぬ。ていうか、黒いドレスに合わねー、無表情も怖いし、せめて笑えよ。そういえばいつもこいつ笑ってたな、あーまじで今までアンと過ごせて幸せだったんだな……いや待てよ、こいつ俺の家族になるんだろ、こんな所で終わっていいわけないだろ、お前は……俺の獲物だぞ)
「アンジェリカァァァァァッ!!!!」
叫び声を上げ突撃するジークリットに、なぜか女王アンジェリカはビクついてしまう。
それによって魔法は、本来の狙いとは少しズレた場所に放たれたのであった。
その隙を見逃さず身をかわしたジークリットは、そのまま女王に突っ込んでいき衝突する。
鈍い音を立てながら二人は地面を転がっていき、最後にはジークリットが押し倒す形となった。
「「はぁはぁはぁ」」
二人の吐息の後ろで喧噪が聞こえてくる。
それでもなお、アンジェリカは無感情に、
「そういえば昔、こんな事がありましたね」
ぽつりと、そうつぶやいたのだった。
頭から血を流したジークリットが、胸のポケットから手製のアンクレットをとりだしてアンジェリカの腕にそっとくぐらせた。
「俺からの誕生日プレゼントだ。頼むアンジェリカ、目を覚ましてくれ」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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