52話『叔母の没落④』
「はぁぁっ……はぁぁっ……ついに私は、生きてここへぇ……」
ハダカデバネズミの獣人と化したアンジェリカの叔母が、狂笑を浮かべながら動物の国の門をくぐる。
彼女の声はかすれ、体はぼろぼろに薄汚れ、もう何も持っていない。
獣人になったことで、もはや元の国にはいられず雑草と夜露で道中をしのぎ、命からがらここまでたどり着いたのだった。
「なんなんだ、あんたはっ せっかく助けてやったのに!」
叔母の姿を見て助けてくれた住人にも、あまりにも酷い性格からすぐに突き放されてしまう。
彼女はすぐに、城下町で有名な浮浪者として悪名を轟かせた。
「ふざけるなっ おかしい……この世界はおかしい! なぜ私の思い通りにならないの!」
今日も生ごみを漁りながら、目だけを異様にぎらつかせ路地裏でわめきちらす。
時には大胆に盗みを働いて、今ではまさにドブネズミのような生活を送っていた。
皮肉にも獣人になった事によって、匂いを嗅ぎ取る能力や身体的な素早さ、夜目が効くようになり、そのおかげで生き延びることができていたのだ。
「あああっ! そうよ! 結局アンジェリカっ あいつが全部悪いのよっ!! そうよ! 責任は全てあいつにぃ!」
――太々しさここに極まれり。
彼女はアンジェリカの事を見下し恨みながらも、アンジェリカをダシにして城でやっかいになろうと考えたのだった。
「王子とよろしくやっているなら、ちょっとくらい金を持っているでしょうっ それに、私の気品があれば今からでも王子達と、私の方が仲良くなれるはずだわ!」
意気揚々と盗んだ衣服で着飾った叔母は、城の門を叩いた。
本来であれば門前ばらいという所なのだが、叔母はなぜかそのまま通さると、少しくたびれているニワトリの獣人――メイド長が対応した。
「はぁ……あなたのような人は度々いらっしゃるのですよ。遠い親戚とか、友達とか嘘をついて」
「おほほほ、嘘ではありませんのよ。確認していただければ分かりますから」
(なによこのニワトリ女が! くびり殺してスープにしてやろうか?)
「アンジェリカには会わせる事はできませんが、この城の雑用としてなら、あなたを雇う準備があります」
「もう何でもいいから、そうしてくださいな」
しかしなんと、叔母の甘い考えを見透かされながらも城で働くことを取り付けてしまったのだった。
なにも叔母の交渉術がすばらしいわけではない。
女王アンジェリカ政権下では、来るもの拒まずという方針があったのと、女王の見境のない人使いによって人手不足だったのだ。
(あとは適当に、アンジェリカと顔を合わせれば何とでも……ふふ)
そんな事もつゆ知らず、世界に愛されていると再び勘違いした叔母は余裕を取り戻す。
しかし当然ながら彼女は満足に仕事をこなす事ができず、周囲になじられ続けた。
現女王その人がアンジリカだと知るや否や、彼女は幼稚な我慢を崩壊させ、わめきながら王の間へと闖入するのであった。
「貴様! 止まれっ」
「何をするのっ 私はあの娘の叔母なのよ!」
叔母は瞬時に兵士に束縛される。
その様子を冷たく見つめたアンジェリカが、王座から声をかけた。
「あなたは……誰ですか?」
「この顔を忘れたというの!? 私よっ あなたの、叔母よ!」
「だって、あなた。ネズミじゃないですか」
「それはっ あなたと同じ魔法にかかっているからよ! 声が一緒でしょ! よく思い出してっ」
兵士たちに膝をつかせられながら、叔母は唾を飛ばして無残にアンジェリカに嘆願する。
その表情はしわしわに歪み、あまりにも醜い様子だった。
「かわいそうに……心の病気の方でしたか、顔つきもそれに合わせて歪んでいらっしゃるようですね」
淡泊に無表情に、アンジェリカは叔母を見下した。
「おまえぇぇぇっ!!! 私をキチガイ扱いするなんて! お前、いいかげんにしろっ ぶち殺すぞブスがぁっ! てめぇ分かっててやってンだろっ イジメられたのをいまさら恨んでんのかっ!? 最低だなっ この汚い血がっ!」
「女王陛下になんて口を聞くんだ!」
兵士たちが怒り、叔母の顔面を床に叩きつけ頭を下げさせる。
バギリという衝撃音が響くと、叔母の前歯が折れ飛んだ。
「ぎゃぁぁぁっ 痛いっ 痛いぃぃぃっ!!!」
叔母は口から血を流し、痛みに叫び声を上げる。
元より醜かった彼女の顔は、この世の者とは思えないような形相と化してしまった。
「申し訳ありません女王陛下! すぐにこの者を退出させます」
すぐに兵士たちが叔母を連行しようとするが、女王アンジェリカはそれをやんわり止めるのだった。
「これからは、こういう方でも積極手的に働く場所を与えてあげなくてはいけませんね」
先ほどまでのやり取りを特に気にしたようすもなく、その瞳はどこまでも機械的であった。
叔母はアンジェリカが自分を見ていない事にいまさら気が付き、心の底から恐怖を覚える。
「アンジェリカ……あなた本当に……アンジェカなの?」
「あなたのような下女はやっぱり働いてこそですからね。それが幸せなのですよ」
どこかで聞いた事があるようなセリフを、その灰色の女王は冷たくつぶやいたのだった。
ここで叔母はやっと、自分と彼女の間にとてつもない隔たりがあることを理解する。
「ア、アンジェリカっ この、叔母さんにいじわるしないわよね? 助けてくれるのよね?」
「いいえ。働く場所と最低限の保証はしますが、それだけです。なにより私を侮辱したのは少しだけ許せませんね」
「待ってアンジェリカ! ごめんなさいっ謝るから! どうか私を許してっ」
「この人に拷問を。その後は地下で囚人たちの世話をさせなさい」
「ひぃ! やめなさい! 拷問って何っ!? 私は男爵なのよっ! 上流貴族なのよ! アンジェリカっ アンジェリカぁぁぁぁぁっ!!!」
その後いじわる叔母さんは拷問によって、女王を罵った舌を失い。
死ぬまで城の汚い地下で、ドブネズミと囚人たちと一緒に暮らしたとさ。
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