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51話『灰色の女王アンジェリカ』

「では、この沙汰(さた)はそのように」


 冷たく濁った瞳で、王座から女王が(ひざまず)いたジークリット王子を見下ろしている。

 ――ここは動物の国、王の間。

 今はウサギの女王が治める、冷たく暗い灰色の国だ。


「……女王陛下、このままでは戦争になってしまいます。どうかご再考を」


「ジークリット・シューティア、くどいですよ」

 

 近年即位した彼女は、その冷徹(れいてつ)で手段を選ばない方法によって瞬く間に国を彼女色に染め上げた。

 その手腕を誰もが恐怖し、灰色の女王アンジェリカと恐れられていたのだ。


「……分かりました。ところでこのアンクレットなのですが、女王陛下の持ち物だとお見受けします。壊れていた物を僭越(せんえつ)ながら私が直しておきました」


「なんですかそれは、そんなもの不要です。捨ておきなさい」


「っ……はい」


「では、次」


(げに恐ろしき女王ですな、ここまで人が変わるとは)


 この国の宰相、ヒッポリーニは恐怖に震える。

 鏡の呪いを一身に受けたアンジェリカは、まるで別人のような人格と変わり果てていた。

 彼女は様々な障害を跳ね除け、儀式を受けた者として動物の国の女王に即位したのである。

 その表情はどこまでも冷たく暗く、淡々とただ政務(せいむ)をこなしていく。


「して、次の案件はいかがしますかな女王? どちらの国と条約を結んでも利害がありますが」


「なるほど、であればどちらとも結んで二つの利益を得ましょう」


「そ、それでは両国への面目が立ちませんぞ」


「私は優柔不断ですから。どちらか一つなんて選ぶことができないのです。ですから両国と条約を結びます」


「……承知しました」


(こ、これですぞ……灰色の女王……誰とでも仲良くするが一方で誰とも仲良くしない)




「寒い……」


 私はぼんやりと一人、とほうもない暗闇の中で膝を抱えていた。

 ここは、すごく暗くて、すごく寒い……

 どこまで行っても何もなくて、どこまで行っても何も聞こえない。


「何も思い出せない……何も分からない……」


 私は苦しさと切なさの中で、ずっと虚無に耐え続けていた。

 そうしていると、暗闇の中にぼんやりと小さな光が灯り、ゆっくりと私の前へとやってくる。


「アンジェリカ……こんな事になってしまうとはね」


 どこかで聞いたことがあるような声だが、やっぱり私には思い出せなかった。


「今なら、全て無かったことして人間に戻ることもできるけど、君はそれを望むかい?」


 私は凍り付いた心でその言葉をゆっくりと咀嚼(そしゃく)し、ただ一つだけ覚えていた事を返した。


「いいえ。これは私が望んだことのはずです。こうする事によって誰かが幸せになる、というのが私の望みだったはずなのです」


「そうか……君は強いんだね」


 そういってその光は小さく(まばゆ)き、消失した。


「……」


 私は再び訪れた虚無に耐えながら、心に残った小さな一かけらに、ずっとずっとすがりついていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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