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47話『こうして、ウサギはオオカミに食べられてしまうのでした』

(一体、どこに向かっているのでしょうか)


 馬上で背中に彼の体温を感じながら、私はずっと考えていた。

 普段通り城で働いていた私は、話がしたいとジークリット王子に無理やり連れ去られ、目的地も告げられず今に至るという訳なのだ。

 彼に行先を聞いても教えてくれない。

 それなのに、


「山に入ったが、少し寒いか?」


「いえ、大丈夫ですよ」


「無理はするな、ほらこれを羽織れ」


 彼は妙に私に優しいのだった。

 そのまま私たちはどんどん城から離れていき、ついに人気のない山の中までやってきたのだ。


(これはもしかして……)


 いきなり駆け落ちのような流れに私は浮足立ってしまい、手首につけたアンクレットをなで続けていたのだが、しばらくしてやっと目的地が分かった。


「ここでしたか」


「そうだ、俺たちが出会った場所だ」


 近くに小川が流れる、ボロボロな小さなあばら家。

 あれから時間が経った今でも健在だった。


(ここで私は怪我をしたジークリット王子の看病をして……)


 私はあの夜の出来事が、彼の息使いと体温、暗闇の空気感が鮮明に蘇ってきていた。

 ここでの話というのは、きっと何か特別な意味があるはずだと私は心構えをする。


「では、説明して頂けますか?」


「お前に、この場所で礼を言いたかったんだ。アンと出会ったこの場所で俺の運命は変わったんだ」


 神妙な様子でジークリット王子が切り出した。

 真剣な瞳で私を見ている彼の短い前髪が、風に揺れる。


「お礼、ですか」


「ああ、思えば今までアンとは色々あったな」


「そうですね、オバケ騒動とか」


「その事はそれ以上言うな、コホン。とにかくお前には世話になった、大会の時はお前のおかげで将軍になれたし、おふくろの事も本当に感謝している」


「はい、本当によかったですよ。あれからお母さまのお体はどうですか?」


 ご病気について私がアドバイスして以来、ジークリット王子のお母さまはすぐに元気を取り戻していた。

 しばらくは様子を見ながら経過を送っていたのだが、彼女はもりもりと回復しているとの事だ。


「ああ、元気過ぎて前の方がよかったんじゃないかと思うくらいだよ。この間なんて畑に出ようとしてな、流石に止めたが。あと帰るたびにアンジェリカを呼んで来いってうるさいんだ」


「うふふ、お母さまらしいですね」


「正直、お前には言葉だけでは感謝しきれない。元々俺が王を目指していたのも、おふくろを城に呼んでもっと楽な生活をさせてやりたかったのが大きいからな」


「そうだったのですね」


 ジークリット王子が面倒見の良いお方だという事は分かっていたが、この言葉で家族を第一に考えていたというのがじみじみ伝わってくる。

 今まで彼と彼の周囲を手助けすることができて、私は本当によかったと思うと心が明るくなる。


(私のやってきた事は、正しくて良い結果につながったんですね)


「だからよ。お前、責任とれよ」


 腕を組んだジークリット王子が照れながら、そっぽを向く。


「ふふ、なんですか(やぶ)から棒に。それって女性が言うセリフじゃないですか」


 私は既に彼の言いたいことが分かっていたが、王子のあまりの不器用さに笑ってしまった。

 私の言葉にますます顔を赤くしたジークリット王子が、少し怒り出してしまう。


「うるせぇ。お前のせいでもう王を目指す理由もなくなっちまったんだ。俺の人生どうしてくれんだよ」


「人生ときましたか、王子人生の責任なんて私には途方(とほう)もないですよ。じゃあジークは、私にどうして欲しいんですか?」


「俺の、家族になれ」


「まどろっこしいですね、もっと具体的に(おっしゃ)ってくれないとわかりませんよ」


「……俺は、ただお前が欲しい」


 彼は生唾を飲み込むような決心と共に、私にそう告げた。

 その言葉だけは、確かにしっかりと私の目を見据えて。


「じゃあ……奪ってみせてくださいよ」


 いよいよ私も彼のまっすぐな愛情に恥ずかしくなり目の前のあばら家へと逃げ込んだ、いや誘ってしまったのかもしれない。

 シリウス王子が後ろから歩いてきて、そして私を抱きしめる。

 彼の愛情と香りと、そしてお互いの心音だけが暗闇の中で聞こえてきた。


「んっ ぁぁ……」


 シリウス王子は私の首筋にキスをして、そのまま肩まで唇をずらすと甘噛みをする。

 ピリリという痛みとその感覚に、私はとてつもなく興奮してしまう。

 なぜならば、初めて彼とここであった時に噛まれた場所と同じ所だったのだ。


「お前は、俺の獲物だ」


「こうして、ウサギはオオカミに食べられてしまうのでした……」


 私たちは、思うままにお互いの愛を確かめ合ったのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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