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43話『リーチ』

 数日後、シリウス王子は無事快調し政務(せいむ)に戻られた。

 私は王子が言い残した「プロポーズ」という言葉がずっと頭から離れず、時々思い出しては顔を赤くする毎日だ。

 目標を定めたシリウス王子は、以前にもまして精力的に仕事をこなしているように見える。


「ふふ、コンテストが楽しみだ」


 王子が甘い薬を飲んでから、ときおり塔の上で自信ありげに含み笑いを繰り返している。

 以前のような状態を脱したのはよかったが、これはこれで王子が何かをやらかすのではないかと、私はハラハラしてしまうのだった。




 しばらくして、ニワトリのメイド長からスケジュールを言い渡される。


「アンジェリカ、来週からはシリウス王子のコンクール付き添いです」


「は、はい」


 シリウス王子の命令なのだろう、数日の間私は王子付きのメイドになるようだ。

 待ちわびたコンクールという大イベントに、まるで自分の事のように緊張や期待感が高まっていく。


「これをお持ちなさい」


 前置きなくメイド長から手渡されたのは、赤い袋に入ったお守りだった。

 そこに書かれていたのは、


「え? これ子宝祈願(こだからきがん)って書いてありますけど」


「うまくやるのですよ」


 私の肩にポン手を置くと、妙なうすら笑顔と共に去っていく彼女だった。

 意味を理解した私は、顔に火が付いたように赤くなる。


(もうメイド長ったら、へんな所に気をつかうのですから……そういえばメイド長はシリウス王子推しでしたね)


 私は思わず、王子との赤ちゃんが生まれたらどんな生活を送るのか想像してしまう。

 髪の色はどっちに似るのかな、とか。

 きっと忙しくてあまり赤ちゃんの面倒はみてくれないんだろうな、とか。

 でもたまに相手をしてくれたり、しっかりプレゼントとか、大事な日には一緒にいてくれるのだろうな、とか。


(そういう事ですか……)


 その妄想の中で、メイド長が立場にかこつけて(しゅうとめ)ムーブをしているのが見えた。

 彼女はシリウス王子と接点を持つために、私を使う気なのかもしれない。


「将を射んと欲すれば……という事ですか」


 彼女のしたたかさに、私は心の中で舌を巻いたのだった。




 私を含むシリウス王子一行は、数日をかけて馬車で開催の国へと揺られる。

 できれば二人旅といきたかったが、保安上それは不可能だったのが残念だ。


「付き添い、頼むぞ」


「はいっ」


 旅の中で私は王子の後ろにピタリと控え、しっかりとお世話をしていく。

 シリウス王子はコンクールだけが目的ではなく、要人との打ち合わせや事業計画の会議なども旅の合間に行っていたのだ。

 集中すべき大事な時にでも政務(せいむ)をしっかりこなしていく、鉄の男と言われる所以(ゆえん)である。


(でも、新婚旅行みたいで楽しいかもです)


 シリウス王子と四六時中一緒に過ごすというのは、新鮮でトキメク体験である。

 国外ということで立場や人目を気にせず一緒にディナーを食べたり、空いた時間で街を歩いたり、寝る時間以外はずっと一緒にいられたのだ。

 彼を観察していると、一日の中で短い睡眠を繰り返して休んでいたり、ときどき空気を飲み込む変な癖があるというのも分かった。


(完璧超人なイメージでしたけれど、王子の人間的な部分に触れられて、もっとシリウス王子を好きになれた気がします)


 夢のような日々は過ぎ去り、いよいよコンクール当日になった。

 会場である豪華な大ホールの控室で、シリウス王子が発声練習をしてる。


「ララララ」


 彼は今日も澄み渡るような、美しい歌声だ。

 この後シリウス王子が観客に喝さいを受ける姿を想像して、私はワクワクする。


「調子、よさそうですね」


「ああ上出来だ。アンジェリカ、私を見ていてくれ」


 王子も高揚(こうよう)した様子で笑った。

 今日の彼の衣装は遠くからでも目立つように、金の装飾が入った(きら)びやかな制服だ。

 濃い目の化粧をした王子は、まるでアイドルのように輝いて見える。


「は、はいっ」


 コンクール本番前に、私の方が緊張してきてしまう。

 だってここで王子が一番になったら、プロポーズなのだから。


(つ、ついにこの時が来たのですね)


 自信に満ちあふれた背中を見送り、私は舞台袖から王子を応援した。


「キャァ! あれがシリウス王子よ」

「王子~」

「シリウス王子っ」


 王子のステージ入場に黄色い声が、会場のあちこちから上がった。

 しかしシリウス王子は(おく)することなく威風堂々(いふうどうどう)としているようだ。

 スポットライトを浴びた王子が呼吸を整え、ついに歌い始める。

 その瞬間に世界が切り替わったかのような、まるでシリウス王子がこの会場を支配しているような感覚だった。


「本当に、素敵ですよ……」


 一瞬でシリウス王子の歌声と世界観に緊張感を吹き飛ばされた私は、思わずうっとりしてしまった。

 既に国外まで名前を馳せていた王子は、下馬評(げばひょう)でも一番人気。今回のコンクールでは優勝候補筆頭である。

 その存在感と歌声に審査員含め、会場の全員が聞き入っていた。


「どうですか! シリウス・ヘングストの歌声はっ」


 王子が歌い終わった瞬間に、割れんばかりのスタンディングオベーションが巻き起こった。

 私は自分の事のように誇らしくなってしまい、こっそりガッツポーズをとる。

 歌い終えた課題曲は当然の第一位だった。


(皆さんが(とりこ)になってしまうのは、無理ありませんね)


 素人目に聞いても、あきらかに王子の歌声は抜きん出ている。

 何より彼は華があるのだ。


「うむ。当然の結果だが、満足だ」


「やりましたね! シリウス王子」


 私は喜びのあまり思わずシリウス王子に抱き着いてしまった。


「おい、はしゃぎ過ぎだぞ」


 口ではそういうシリウス王子だったが、まんざらでもなさそうだ。

 コンクールの審査は二回行われ、課題曲、そして次が自由曲になる。

 それぞれが評価され、最終的に総合順位がつけられるのだ。

 つまりこれでプロポーズまでは、


「リーチだ、アンジェリカ」


「……はいっ」


 彼が抱き着いた私の耳を手袋越になでる。

 その言葉と感触に、私の胸がはち切れんばかりに高鳴り続けていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


ポイントをモチベーションに頑張って書いていております。

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