42話『甘い薬』
私は熱を出したシリウス王子に付き添い、彼の寝室まで送り届けている所だ。
その途中で王子の秘書に状況を伝える。
「という状況ですので、シリウス王子はしばらく執政は無理です」
「……すまない」
シリウス王子が、朦朧とした様子で話す。
「そうですか……了解しました、執務の事は我々にお任せを。シリウス様のご看病は、アンジェリカ様が行った方がよろしいでしょうね、お願いできますでしょうか?」
「は、はい。私でよろしければ是非!」
「ではそのように」
秘書の方は、シリウス王子と同じようにキビキビした様子で、執政できない間の段取りを整えてくださるようだ。
これで王子の仕事については一安心、なのだがそれよりも……
(シリウス王子の看病を任された、という事は私たちの関係が周囲にも知られているという事ですよね)
私はそう思われていたことに、恥ずかしくなってしまった。
肩を支えているシリウス王子を意識して、体温が上がっていくのが分かる。
(いえっ アンジェリカ何を色気づいているのっ)
と頬を軽く叩き、私は気持ちを切り替える。
まずはシリウス王子をベッドに寝かせ、彼を寝間着に着替えさせた。
「シリウス王子、お薬ですよ」
「んぐ……苦いな。これは」
「そうですよ。良薬苦し、です」
ルクス王子に煎じてもらった解熱剤を飲ませると、楽になったのか彼はすぐに眠ってしまったようだ。
名残惜しさを感じながらも、私は彼の眼鏡をそっとはずした。
「ふぅ」
手持無沙汰になり、改めて彼の部屋を見渡すと、豪華ながらもシックな部屋であることが分かる。
暖炉やシカのはく製、革張りのイスなど、彼の性格のように落ち着いた佇まいだ。
(夜に暖炉の前で静かに本を読む、シリウス王子の姿を想像しちゃいます)
改めて王子の顔を見ると、彼は静かに寝息をたてている。
インテリイケメンの無防備な寝顔に、私の胸がときめいた。
(眼鏡、なくてもかっこいいですね。かけていた方が私は好きですけど)
しばらくすると解熱剤が効き始めたのか、シリウス王子は汗をかき始めていた。
私は彼のボタンを外し、服を脱がせタオルで汗を拭きとっていく。
彼の裸体を意識して、少しだけ変な気分になってしまう。
(ああ、シリウス王子……あの夜を思い出します)
彼の素肌にうっすらとムチの後が見え、私は思い出と一緒に傷を撫でた。
お前を手に入れると言われた事、豪華絢爛な舞踏会、そして酒乱とムチ。
「ふふふ。私、やっぱりシリウス王子が大好きです」
私は静かに彼の頬にキスをした。
数時間してシリウス王子が目覚め、私が作った梅とオカカのおかゆを食べた彼は、ゆったりとベッドの上で横になっていた。
さきほどからシリウス王子が私の顔をじっと見つめてきて、どうにも落ち着かない。
彼のアメジストのような瞳が、私を捕らえて離さないのだ。
「シリウス王子、読書などされますか?」
「いやいい。今は集中できない。それよりもお前の……」
「はい?」
「お前の……いや。歌が聞きたい。あの童謡だ」
シリウス王子は珍しく言いよどむと、私に歌を要求した。
私は彼のささやかな願いに微笑み、そんな事でしたらと、答えるのだった。
「いかがでしょう?」
「ああ、これだ。私が求めていた、相変わらず下手な歌だ」
噛み締めるようにシリウス王子は呟いた。
「もう、ひどいですよ。せっかく歌って差し上げたのに」
目をつぶったシリウス王子は、気分良さそうに笑う。
私も王子とこのやり取りに慣れたもので、思わず笑ってしまった。
「下手だが、私にとっては先ほどの薬よりも何倍も効く。やはり苦い薬よりは甘い薬のほうがいい」
「最近、苦い薬を飲みすぎなのではないですか? 歌声は以前にもまして美しいですけど、なんというか最近の王子は必死過ぎて……怖いというか」
「怖いか……私が目指していた感想とは違うな」
少し声を落とし落胆した彼を見て、私は失言に気づいた。
「し、失礼を……申し訳ありません」
「いや、いい。やはり私が目指すべき歌は楽しいという事だ。それが私にとっての甘い薬なのだな」
シリウス王子は合点がいったようで、何度もうなずいてる。
そして情熱を燃やした目で私を見ると、こう言い放ったのだった。
「私シリウス・ヘングストは、コンクールで一番になる事を誓う。そしてその暁には、アンジェリカ。貴様にプロポーズする」
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