35話『笑顔と汗』
――アルベティーニ王子と私が森でキスをしてから数日後。
私たちは時間を合わせ、城下町にドライポプリ用の香料を買いに来ていた。
「今日も相変わらず、ここは賑やかですね」
「ああ、そうだね」
王子が少し曖昧な返事をした。
あのパーティー以来、アルベティーニ王子の元気は戻らない。
派手に失敗して自粛をしているのもあったが、彼は以前のようなナルシスト然とした大立ち回りをしなくなっていた。
「でもよかったです、皆さん協力して頂けて。これからきっと良くなっていきますよ」
「そう、だといいな」
少し冷たい風が、木枯らしを吹かせる。
王子は無表情で、口元にはいつものような笑みは無かった。
「もう、アルベティーニ王子! しっかりしてください」
「ごめんよ、だけどもう少し……」
王子の言葉が途切れる。
私が提案したポプリ作りの花びらを集めるために、今日までに城で働くメイド、そしてお嬢様たちに協力していただいてかなりの花びらを集めてきた。
王子の為とはいえ、直接の肉体労働に参加してくださる方は少ない。
それがアルベティーニ王子の人気低迷を表しているようで、王子の自尊心を傷つけてしまっているのではないかと私は心配していた。
「あ! スコッティ王子だ!」
「ミンゴのおうじさま!」
「さま!」
街の子供たちがアルベティーニ王子の周りに集まってくる。
純粋無垢で無慈悲な瞳が、いつもの派手な王子像を求めていた。
彼のエンターテイナー的な性格は、この国では女性だけではなく万人に認知されているのだった。
「あ……皆、今日はちょっと……」
「王子! あれやって! 荒ぶるフラミンゴのポーズ!」
「あとダンスも!」
「も!」
私は子供たちの姿を見て、妙案を思いつく。
子供たちの元気に合わせ、私も大きな声を出した。
「見たいみたい! 私も見たいですよ! 王子のポーズ!」
「あ、アンジェリカ……っ?」
困ったようにアルベティーニ王子は私を見つめた。
「アルベティーニ王子! アルベティーニ王子! アルベティーニ王子!」
私が手を叩いてはやし立てると、子供たちも一緒に合わせ始めた。
「ぼ、僕は……」
「ほら、王子様。皆さん期待してらっしゃいますよ」
私は王子の手を握り、彼のエメラルドグリーンの瞳をじっと見つめる。
アルベティーニ王子が息を飲んだのが分かった。
「あなたが落ち込んでいるのは似合いませんよ、アルベティーニ王子」
私は彼への想いを強く、頷く。
「……っ ああ!」
そこから王子は踊る様に子供たちの前へ飛び出した。
バサリという羽音と共に彼の羽が宙に舞う。
全身を使ってフラミンゴのポーズをしたのだった。
「荒ぶるポーズだーっ!」
「「きゃはははは!!!」」
子供たちが王子の面白い動きに爆笑している。
今、太陽の下でアルベティーニ・スコッティが輝きだしたのだ。
「すごく、眩しいですね」
私は笑いながら太陽に手をかざす。
こうして私たちの雨は上がったのだった。
「明るくなったねぇ……」
(どなたですかっ!?)
杖をついたレッサーパンダの老婆がとつじょ現れ、私に話しかけてきた。
なんだか、ただならぬ雰囲気をだしていらっしゃる。
「ええ、これから暑くなりそうですよ」
しみじみしていた内心のムードを壊したくない私は、ジークリット王子のようにスカした。
だって、これから私はアルベティーニ王子と盛り返していくのですから!
「ほほほ、夏も終わったというのに、面白い。そうではなくて王子の昔の事よ」
「昔、ですか?」
「ええ、ご存じ? アルベティーニ王子は子供のころ、病弱で、内気で、いつも独りぼっちだったのよ」
「その話、詳しく聞かせて頂けませんか?」
「勿論よ」
ねっとりとした流し目で、老婆は私を見て微笑んだ。
老婆は子供たちにおもちゃにされるアルベティーニ王子を見ながら語り始める。
「ちょうどこの広場だったかしらね、いつも一人でベンチに座って、本を読んでいる少年。それがアルベティーニ王子だったのよ」
「今では想像もできません……」
「ええ。彼はね、家の跡目争いのいざこざで家に居られなかったの、だからここでいつも独りぼっち。友達も作らない、いえ作れなかったのでしょうね」
「幼くして両親は他界し、彼の居場所は家にますます無くなった。まさに寂しさの絶頂といった所かしら。それを埋めるように彼は女遊びを始めたのよ」
老婆はその濁った眼で、ため息をつく様に遠くを見つめた。
「あなたは一体……」
「アンジェリカ! こっちに来てくれ! 僕だけじゃ子供たちを相手しきれないよ!」
遠くでアルベティーニ王子が、子供たちとじゃれあっている。
その顔は笑顔満開といった様子で、キラキラと輝いていた。
「いってらっしゃい、アルベティーニ王子をよろしくね」
「……? はい!」
私は謎の老婆を気にかけながらも、王子達に小走りで近づいた。
今やアルベティーニ王子は、子供たちに組み付かれている。
自慢の羽は乱れ、髪も乱れていた。
「ふふ、アルベティーニ王子、大人気ですね」
「当然僕は人気者なのさ、君も僕を好きになってくれていいんだよ?」
子供たちが覆いかぶさった変な体勢で、王子は無理に髪をかき上げるようにキメた。
不格好でも、確かに返り咲いたアルベティーニ・スコッティを見て私は嬉しくなる。
「もちろん応援していますよ! 王子」
「そういう意味じゃないんだけどなぁ……」
彼の笑顔と汗を見て、これからは本当に熱くなりそうな予感がした。
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