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33話『雨とウサギの耳』

「すごい規模ですね……」


 私は今、公園をまるまる使った花園で行われている、大規模なパーティーへとやってきていた。

 フラワーロード、お花を使ったオブジェ、お花で作られたアーチ。

 池の周りには枝垂(しだ)れ桜、一面の菜の花畑など、多種多様で素敵なお花たちが彩られている。


「やぁアンジェリカ、僕のパーティーへようこそ」


 声をかけてくださったアルベティーニ王子の顔色は優れない。

 それもそのはず、なんと今日は雨であった。

 前日から降っている雨の影響で、本来は優美に咲きほこっていたはずの花達は、無残(むざん)にも花びらを散らせていた。

 

「本当だったら、もっと綺麗でしたのにとても残念ですね……」


「……ああ」


 私たちは傘を差しながら、花園を見渡した。

 天気のせいか、なんだか全体がどんよりして見えてしまう。

 アルベティーニ王子は、パーティーの主催である。

 彼は私財と労力を投げうって、王選抜の為に自らの宮廷での立ち位置をアピールするはずだった。


「あ、お嬢さん方まだ帰らないで? これからもっと楽しい事があるよ」


 王子が、帰ろうとしているご婦人方を引き留めた。


「ごめんなさい、アルベティーニ王子。雨脚も強くなってきたようですし私たちはこれで失礼しますわ」


「そうかい……」


 雨天で野外のパーティーである。

 いかに王子主催とはいえ、客足が遠のいてしまうのは当然だった。

 積極的に花を見る人も少なく、参加者はテントに集まって雑談をしている状態だ。


「……悔しいね」


 憂い顔の王子が目を閉じた。

 大衆の前で顔を暗くする彼を見るのは、初めてかもしれない。

 誰が見ても、今回のパーティーは完全に失敗である。


「王子……元気をだしてください」


「そうだね」


 花というのは生き物だ、今回のパーティー用に満開のタイミングをそろえているのだ。

 さらに、このまま雨が続けば完全に散ってしまった公園でのパーティーになってしまう。

 王になるための権威が欲しいアルベティーニ王子は、こんな状況でも開催を強行(きょうこう)するしかなかったのだろう。


(以前のピクニックでの出来事が、原因なのでしょうか……)


 4人の王子たちが私の前で王になる事を誓った日以来、それぞれが情熱を燃やしてきた。

 今回の失敗の要因が私にもあると考えると、ズキズキと胸が痛むのを感じる。


「私、折角ですから見て回ってきますね」


「あぁ。一緒にいきたい所だけど、今日はやることがあるからね。ごめんよアンジェリカ」


「おきにならさず!」


 私は王子の気持ちを少しでも無駄にしたくなくて、雨の中公園を回る事にした。

 せっかくおめかししてきた足元も、傘から少し飛び出してしまう長く大きな耳も、5分もたつと雨で濡れてしまうのだった。


「あの娘、アンジェリカといいましたか?」


「そうそうメイドの!」


 生垣の向こうからとつじょ、私の名前が聞こえてくる。

 ギクリとした私は思わず立ち止まってしまった。

 雨の音と共に、その会話がクリア聞こえてきてしまう。


「卑しい身分で王子と懇意(こんい)なんて、きっとお下品な方法で取り入ったのよ! アルベティーニ王子は女性に肝要(かんよう)ですからねぇ」


「そもそも元人間って話じゃないですか。ああ、気持ちが悪いわ」


 私は今日ほど、ウサギの獣人になった事を悔やんだことは無い。

 足早に立ち去ったはずだったが、かなり離れるまで雨の音が私の耳には聞こえてしまっていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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