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32話『王子たちに囲まれて』

「うん、いい天気です!」


 私は部屋の窓を開け、差し込む朝日をめいっぱい受けた。

 今日は王子達とのピクニックの日、お休みを頂いて準備万端だ。

 私は軽い食事と着替えを済ませ、早めに待ち合わせ場所に向かったのだった。


「思えば、王子たちとは色んな事がありましたね」


 キザだが実は面倒見がよく、細マッチョなオオカミの獣人――ジークリット・シューティア王子。

 ナルシスでたおやかだが、実は努力家で繊細な――アルベティーニ・スコッティ王子。

 元気いっぱい自由奔放(じゆうほんぽう)、他人への思いやりがある――ルクス・メーレスザイレ王子。

 キリキリして一見怖いが、有能眼鏡で、歌の上手い――シリウス・ヘングスト王子。


(はぁ……役得ですねえ。今日は皆さんと一緒に過ごせるなんて)


 王子達に思いをはせた私は、胸を躍らせた。

 この城で働き始めた頃は、ただ1メイドとして過ごせるだけでも楽しかったのに。

 まさか4人の王子様と懇意(こんい)な関係になれるとは思ってもみなかったのだ。


(私、今の生活が本当に楽しくて幸せです!)


 私は、さらなる幸せへの一歩を踏み出した。

 のはずだったが――


「おいおい、まじかよ」

「これは困った事になったね」

「あれ? おかしいにゃ」

「どういうことだ?」


 気が付くと、待ち合わせ場所で4人の王子に私は問い詰められていた。

 王子達がぐるりと私を取り囲んでいる。


「皆さんどうしたのですか?」


「俺はお前と二人きりだと思っていたんだぞ」


 あ、ジークリット王子、今日も黒いジャケットファッションでかっこいいです。引き締まった体が良く映えますよ!


「そうだよ、わざわざ僕がこのために準備してきたというのに」


 アルベティーニ王子は白のタキシードですか。うんうん、あなた様にしか着こなせないですね!


「あれ? 言ってませんでしたっけ、今日は王子の皆さんで懇親会(こんしんかい)のためのピクニックですよ」


 私はわざとらしく小首をかしげた。


「えー聞いてないにゃ! 今日の為に難しい論文を終わらせて来たのににゃ~」


 ルクス王子はカーキ色の短パンにオレンジのネクタイですかぁ! 似合ってます! 似合ってます!


「まさかアンジェリカ、貴様計ったな?」


 シリウス王子、いつもの貴族服ですがスカーフが新品です。

 今日の為に用意してくださったのですね!


「皆さんはこの国を担うお方ですから、仲良くしなくてはいけませんよ! 僭越(せんえつ)ながら私が中継(なかつ)ぎをさせていただきます」


 私は元気よく笑顔で答えた。ここでネタ晴らしである。

 ちなみに今日の私は中央にボタンが並んだ若草色のノースリーブワンピースを着ていた。


(いやいや、お前のせいで喧嘩になるのだが?)


 ここにいる王子たちは、一様に心の中で突っ込んだ。

 考えてみれば一人の女性に王子たちがぞっこんなのは、国政上大変に問題があったのでは、と後の歴史家は語る。


「……それでも私は行くからな、時間がもったいない」


「ルクスもにゃ! みんなでデートもきっと楽しいにゃ~」


 まず二人が馬車へと乗り込んだ。

 私は引き続き満面の笑顔で、残りの二人を見つめる。


「君にはほとほと適わないな」


 はい、困り顔のフラミンゴイケメン一丁あがり!

 さて残りの一人は……?


「っち、お前の顔を立てる為だからな。今度は二人でどこかにいくぞ」


 私の頭に手を乗せながら、オオカミ王子もしぶしぶ乗り込んだ。

 最後に私が乗ると、馬車がゆっくりと動き始めた。


「うふふ、楽しいピクニックに出発ですよ!」


 私は馬車の中を改めて見渡した。


(う、これはすごいかも、です)


 多少は想像していたが、馬車の中で王子たちが私だけを見つめている。

 そんなシチュエーションに私はたまらなくなって、いつものようにウサギの習性で鼻をフガフガさせてしまうのだった。


 しばらく揺られ、目的の湖畔(こはん)に着いた。

 陽気も良く、太陽の光をキラキラと湖面が反射している。

 遠くには万年雪が積もった山々が見え、周囲一帯には私たち以外だれもいない。


「うーん! 美しい景観ですね」


 私は大きく息を吸った。

 周囲の清廉(せいれん)な空気が私の肺に入り込んでいく。

 なんて気持ちがいいのでしょう。


「水泳の訓練に丁度いいかかもな、ここまで兵士たちと走ってくるか」


「まったく野暮だね君は、こんなに綺麗な土地なら買い取って、別荘で過ごすのも悪くない……」


「まて、折角買い取るなら観光地化するのはどうだ? ボートやキャンプ、釣りなどできるだろう。国のために収益化するのだ」


「あ、蝶々にゃ! にゃにゃ? こっちには一杯お花が咲いてるにゃ~」


 ふふふ。

 皆さんを連れてきた甲斐がありました。

 私は胸の前でパチリと両手を合わせる。


「さて、早速ですけどお茶にしましょう」


 シートを広げて、私たちは楽しい楽しいお茶会の準備をした。

 しかし――


「む、公爵家の私に逆らうのか?」

「立場なら、僕だって公爵家だよ」

「ルクス、お姉ちゃんの隣にゃ~」

「あ、待て! アンの横は俺だ!」


 王子達は子供のように座る場所を取り合っている。

 こんなにムキになるなんて大人げないなと、私はクスリと笑ってしまった。


「ではジャンケンで」


 私の一声で、激しいバトルが繰り広げられた結果。

 右隣りがジークリット王子。

 左隣がアルベティーニ王子。

 正面がシリウス王子。

 そして何故か、私の後ろに抱き着くようにルクス王子という組み合わせとなった。


「おいルクスだけ、なんか近くないか?」

「だったら僕も近づくのさ」

「はいお姉ちゃん、あーんにゃ」

「待つのだ、やはりおかしいぞ!」


 和気あいあいと王子たちに密着され、私は困りながらも状況を楽しんでいた。


「も~皆さん、落ち着いてくだいよ」


 以前であればこんな事、想像もできなかっただろう。 

 今日の出来事は私の生きてきた中で、間違いなく一番の幸福な1ページとなった。

 それなのに、さらに私の期待を飛び越えて、王子たちからのプレゼント会が始まってしまうのだった。


 ジークリット王子は、ベージュ色の綺麗なケープ(もちろん手作りです)とオキシペタルムの花束。

 アルベティーニ王子は、本人の名前入りの装飾が入った高級手鏡(名前入りのセンス!)とサンビタリアの花束。

 ルクス王子は、作ってきたお菓子(もうみんなで頂いていました)といろんな色のチューリップの花束。

 シリウス王子は、合唱隊コーラスのつき歌(ついて来ていたのですか!?)と白バラの花束。


「わ、私嬉しいです! 皆さん本当にありがとうございます……」


 沢山のプレゼントを受け取って、私は幸せのあまり涙ぐんでしまった。

 幸せ過ぎて、幸せ過ぎて、もう死んでもいいかもです……!

 そんな私を、王子たちは満足そうに見つめている。


「それで、結局誰がアンジェリカをモノにするのだ?」

「俺に決まってるだろう」

「まって、彼女は僕が好きなんだよ」

「お姉ちゃんに聞いてみようにゃ~」


 ずずいと王子たちが詰め寄ってきて、私に真剣な視線と言葉を向けてきた。


「俺は、お前だけを愛して守ってやる。だから俺を選べよ」

「君は僕を愛する事ができるんだよ? これ以上ない幸せだよね?」

「わかんないけど、とにかく毎日楽しいと思うにゃ!」

「貴様には一生、不自由させない。心も体もな」


 王子たちがそれぞれの告白と共に手を差し出してくる。

 一人一人の目を見渡すと、王子たちの誠意が強く伝わってきた。

 私は今更ながらたまらなく恥ずかしくなって、両手を頬に当て顔を赤くしていた。

 そんな、誰かの手を取るなんて、できない。


「うう、私には誰か一人何て決められません……」


「……そうかい。真っ先に選ばれなかったのは腹立たしいけど、だったら僕達で勝負だね?」


「勝負って何にゃ? 楽しいといいにゃ~」


「そりゃ俺たちで勝負と言えば、王になる事だろ」


「無論、最初からそのつもりだ」


 バチバチと王子たちの視線が交差し、火花を散らしている。

 王子たちが私を取り合ってるという構図が、恥ずかしいけれど、すごく嬉しい。


(なんだか今日は思ってた形と違いましたけど、皆さんが楽しそうでやる気になって良かった……のですかね?)




 薄暗い暗い部屋で、カバ宰相ことヒッポリーニが静かに(たたず)んでいる。

 その視線の先には、布がかけられた(いわ)くつきの鏡が鎮座(ちんざ)していた。


「うーむ……」


 ヒッポリーニ宰相は、小さな唸り声と共にアゴに手を当てた。

 その表情は真剣に、そして苦しんでいるようにも見える。


神成(かみなり)の儀式に、どの王子を生贄に捧げるのか……今回の王子は全員が粒ぞろい、良すぎるのも困りものですな)


 ジークリット王子は、この間の大会で名実ともに将軍となりましたな。個人での戦闘力や判断力も歴代でずば抜けている。少し不安定な所もありますが、強国としての武力を考えるなら彼一択。


 アルベティーニ王子は、努力に裏付けされた実力と行動力、そして何よりあのビジュアルと外交力。彼の人心掌握術は是非とも欲しい。


 ルクス王子は、間違いなく天才肌。内政はできないでしょうが、発明分野、学問では間違いなく最高峰。一人の獣人が出せる成果をおおきく超えていますぞ。


 シリウス王子は、彼が内政をすればバランスよく政務をこなしてくれるでしょうし。なにより実益主義な部分が国に大きな利益をもたらしてくれるでしょうな。


「うーむ、非常に。悩ましいですぞ」


 ――そうだ、この国はずっと王子をイケニエにしてきた。


 王に選ばれた者は、魔法の鏡によって心を食べられ、いずれは死んでしまう呪いにかかる。

 非人道的ではあるが、この儀式を行う事によって鏡に操られた優秀な王を生み出してきたのだ。


 動物の国は、鏡の呪いから逃れることはできない。

 十年に一度、この鏡を使わないと大いなる厄災が国にふりかかってしまうという。

 それが、この動物の国のしきたりなのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


ポイントをモチベーションに頑張って書いていております。

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