25話『デェ~ト』
今日は手すきのメイド総出で、お城の大広間を掃除していた。
私はゆっくりと時間をかけ、床にワックスをかけていたところだ。
(ふぅ……全力を出せないと、少しはがゆいですね)
最近の私はフラストレーションがたまっていた。
メイドの仕事をするようになって、しばらくして気が付いたのだが、私はどうやら仕事の要領がいい方らしい。
以前のように普通に仕事をこなしてしまうと、すぐに担当分の仕事が終わってしまう。
(それ自体はいいのですが、ね)
時間を持て余した私は他の仕事もしていたのだが、どうやらそれがまずかったらしい。
おべっかを使っている、気に食わない、仕事が取られるなど、陰口されていると人づてに聞いてしまったのだ。
(まさかまさか、仕事を沢山こなして悪いと言われる事になる日がくるとは、とほほですよ)
自分でも気が付かないうちに、私は何度か目のため息をついた。
これは私の出自のせいでもあるが、新人をいびるというのはどこの世界にもあるのかもしれない。
広間にガチャリと音が響き渡り、私たちはいっせいに頭を下げた。
玄関の美しい装飾の入った大扉が開かれ、外からジークリット王子がやってきたのだ。
今日も凛々しい佇まいで、クールイケメンそのものである。
「ここにメイド長はいるか?」
珍しい組み合わせである。
しばらく二人で会話した後、王子は無言で立ち去って行った。
なぜか私を流し目でちらりと見つめて。
(……?)
意味ありげな視線に私が戸惑っていると。
そこにトンと、横腹をつつかれた。
(痛っ、いです……!? )
最近仲のいいイルカの同僚が、私をニヤニヤした表情で見ていた。
彼女はとても耳がいい、おそらく私についての話を盗み聞きしていたのに違いない。
「アンジェリカ、こちらへ」
「は、はい」
予想通り、ニワトリの獣人であるメイド長に呼ばれる。
彼女はキリリとした三角眼鏡の奥から、やってくる私を鋭く見つめていた。
「あ、あの……?」
メイド長は目をつぶり、ため息をついた。
一体、私は何を言われるのでしょうか……
「アンジェリカ、ジークリット王子からご使命がありました」
「あ、はい。いつもの訓練ですよね? 次はいつですか?」
「いいえ、デェ~トのご使命です」
「はい?」
私は言葉の意味がわからず、キョトンとしてしまった。
デェ~トって、デートですか? 私がジークリット王子と?
「皆さんお聞きなさい。知っての通りアンジェリカは、先だって風邪が流行した際、沢山の仕事をこなしてくれました」
何故かメイド長が大きな声で皆に聞こえるように話し始めた。
確か、シリウス王子と塔で出会った頃でしょうか。
今思うとあの辛さも、シリウス王子と出会えたならよかったのかもしれません。
「そこで、本日これから特別にアンジェリカにメイド長の権限で、休暇を与えようと思います。皆さんも異論はないはずです」
どういうことでしょう……?
皆も話の筋が理解できないようで、メイド長の話をじっと聞いている。
「休暇の内容は、ジークリット王子とのデェ~トです。一時間後に正門で王子がアンジェリカを待つ手はずになっています」
その言葉に一瞬にして広間が沸き上がった。
メイド達の歓声に立っていた兵士さんがビクリと驚いている。
「ええ! デート!?」
「玉の輿じゃない!」
「いいなぁ、うらやましいなぁ」
「服はあるの? 髪型は?」
「またアンジェリカなの!?」
その後私はメイド仲間にもみくちゃにされ、あーでもないこーでもないと着せ替え人形のようにおめかしをされ続けた。
最終的に、フリルつきの白いカットソー、ラベンダー柄のスカート、麦わらのストローハット、ヒールサンダルに真珠のノンホールピアスという清涼感あるコーディネートと相成った。
我ながら、かわいい……かもです。
「そういえば、なんでメイド長はわざわざ皆さんに知らせたんでしょうか……?」
私は疑問だったことをイルカの友達に聞いてみた。
「ばかだねアンジェちゃん、王子とデートなんてすぐにばれるに決まってるじゃない。あんた陰口がますます広がっちゃうでしょ? メイド長はあえて手柄を持ちだして、それと引き換えに公認にしたのよ。あのおばさんに感謝しなさいよ」
「そう、だったのですか」
私はメイド長の老婆心に心打たれた。
しかし思い返してみると、メイド長はコーディネートの際に最後まで私の前髪を入念にいじりつづけていた。
(公認というのは建前で、メイド長もおめかし好きなのかもしれませんね。考えてみれば私たちはいつもメイド服ですし)
お局様な彼女だったが、いつの年齢になっても女性は色恋に夢中なのかもしれない。
そんな他人事のように考えていた私は、正面玄関を出た所でやっと忘れていた現実を思い出した。
「エ!? このあと私がジークリット王子とデートですか!?」
私の大声に、近くにいた兵士さんが再びビクリと肩を震わせた。
どんどんと私の緊張感が高まっていく。
(今更ですけど……心の準備が……!)
私は当たり前のことを自覚していなかった。
そうだこの後ジークリット王子と、あのスカした王子様とデートなのです!
私は急にそわそわして、さっきいったばかりのトイレに行きたく……ああもう数メートルのところに王子が見えています!
「よう、おめかしきてきたな? 普通の女の子みたいでかわいいぜ、アン」
王子はいつものようにスカしながらも私のファッションを眺めた。
当の本人は、黒い半袖ジャケットに7分丈の白いパンツだ。
(うん、かっこいいです……!)
カジュアルだが、引き締まった体にとてもよく似合っている。
というかこのお方は何を着ても似合うだろう。
「いきなり誘っておいて、な、なんですか……! 私だって女の子ですよ! で、デートのときくらいおめかしします」
私は謎の怒りをジークリット王子にぶつけてしまった。
自分でもなぜこんなことを言ってしまったのかは分からない。
ただ一つわかっていることは、私は間違いなくいっぱいいっぱいだった。
「悪かったよ、機嫌直してくれ」
「それは、これから次第ですかね?」
私は王子を手玉に取っている気分になって、心の中ではすでに気分が良かった。
なんだか本当にデートしているみたいです……!
「乗れよ」
そういうと、王子は愛馬の手綱を引いた。
以前この国へやって来た時に、一緒に乗った真っ黒の馬だ。
私は王子に引き上げてもらい、抱かれる形で二人乗りする。
そこにフワリと涼し気な香りが漂った。
(いい香りがします。王子、香水をつけていらっしゃる?)
いつかのように王子と密着し、王子の体温を感じる。
後ろから抱きしめられているようで、とても心地がいい。
なぜだか今日の私は、もう緊張していなかった。
「どこに行くのですか?」
「いい所だ」
彼の常套句に私は嬉しくなる。
舞い上がった私は王子と一緒なら、もうどこでもよかった。
(私はこれから、王子と一緒にデートするんだ!)
楽しさと期待感と共に、私は王子とのデートを感じ始めた。
馬が走り出し、気持ちのいい風が駆け抜けていく。
私たちを祝福するように、天気も快晴そのものだ。
「私、王子と出会えて本当によかったです!」
嬉しさのあまり、言葉が私の心からこぼれ落ちた。
「なんだよ藪から棒に、いいから黙ってろ舌を噛むぞ」
言葉とは裏腹に嬉しそうな王子は、私のお腹を優しく抱えると馬に鞭を入れた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ポイントをモチベーションに頑張って書いていております。
よろしければ、下のブックマーク登録と★での応援をよろしくお願いします。
頂けると励みになります!




