21話『舞踏会の主賓』
「……どうしましょう」
今晩の私は完全に困惑していた。
シリウス王子に招待され、やってきたここはお城の舞踏会、その会場である。
豪奢なシャンデリア、煌びやかな調度品、優雅な飾りつけ。
オーケストラ音楽、パーティの食事、そして、
「ごきげんよう」
「最近はどうですかな?」
「あら、もうお嬢さんはもう社交界デビューされていたのですね」
王国の著名な貴族たちがドレスコードに身を包み談笑している。
そんな中で私は所在なく、壁に近い場所にぽつんと立っている事しかできなかった。
(ば、場違いすぎます……私が上流階級の中にいるなんて)
この後をうまく乗り切れるでしょうか……
私はそれだけが心配で心配で、だんだんと手が冷たくなっていくのを感じていた。
「お嬢様、お飲み物はいかがでしょうか?」
「は、はい! 頂きます!」
私は給仕してくださった方の目もまともに合わせられず、グラスを受け取った。
高級感ある細長いグラスの泡は、まるで私の心を表しているかのようだ。
小さな気泡が浮かんでは次々に消えていく。
(なるべく目立たないようにしなくてはいけません)
私は覚悟を決めて、スパークリングワインをぐっと飲み干す。
味わいなんて分からなかったが、口の中が乾いていくのだけはたしかに感じていた。
「●●●家、●●●様と奥方様がいらっしゃいました!」
1使用人である私ですら知っている大貴族の方が、次々と来場されている。
私は今更ながらに実感してしまうのであった。
(とんでもない所に、来てしまったのでは……)
そんな戦慄の中、ザワザワと一部のグループが沸き立っている。
集団を見ると、どうやらシリウス王子が登場し応対しているようだ。
ちらりと見える王子は、金の装飾の入った豪華な衣装に身を包んでおり、皇太子かくやという雰囲気だ。
「はぁ……素敵です」
このような場所で貴人たちの中心となり会話している姿は、まさに物語の王子の姿そのものである。
遠目から彼の様子をじっと見つめていると、なんと目が合ってしまった。
さらに驚くことに、王子は周囲に一言かけるとそのまま私に向かって歩み寄ってきたのだ。
「え……っ、え……っ!?」
会場の中心人物が私に向かって来ているのだ。
勿論それは周囲の視線も私に集まるという事で……
なんて考える間もなくシリウス王子が私の前へとやってきて、そのまま跪いた。
「ぁ……」
「アンジェリカ、手を」
言われるまま私が手を差し出すと、王子は手の甲にキスをするような挨拶をしたのだ。
一瞬にして私は、熱したヤカンのように真っ赤になった。
(あ……あ……! シリウス王子……周囲の目が……!)
よりいっそう周囲の目が私たちに注がれる。
「あのレディは誰だ……?」
「王子自ら挨拶にいくなんて」
「シャペロン(付き添い)がいないようですが……」
王子が立ち上がり、眼鏡を押えながら私のドレス姿を見渡した。
とても恥ずかしいですよ、王子……
「ふむ、これがアルベティーニ・スコッティの奴が作らせたドレスか」
私の胸がキリリと締め付けられた。
今晩の私は、以前アルベティーニ王子に頂いた薄紫のドレスを着ていた。
このような社交界にふさわしいものは、これしか選択肢がなかったので、仕方なかったのだが……
「は、はい……」
「美しい、貴様によく似合っているぞ」
端的な誉め言葉に、私は背筋がゾクリと沸き立つのを感じる。
その心の裏では、アルベティーニ王子に頂いた物をシリウス王子の舞踏会に着てきたこと、
そしてそれをシリウス王子が何故か知っているという事に、私の罪悪感が小さな悲鳴を上げていた。
「ドレスの事、ご存じなのですね」
「む、下世話だったか? 許せ、お前の事を知りたかったのだ」
「い、いえ……私の事をお調べになったのですか?」
「無論だ、貴様の趣味趣向、勤務態度、どのような人格なのか調べさせてもらった。中々面白い遍歴ではないか、元人間」
「そ、そうでしたか……」
タジタジな私を尻目に、王子は気分よく答える。
「これが私のやり方なのだ。相手の事は徹底的に調べる。意中の相手ならなおさらだ」
「あ……」
限界を超えた私の脳は、うまく王子の言葉を理解できない。
意中の相手、イチュウのアイテ、いちゅうのあいて……?
「今晩は貴様が主賓だぞ、アンジェリカ。では後でな」
そう告げた王子がすたすたと立ち去っていく。
いつもの言葉足らずであった。
(今、主賓と言いましたか……? え、主賓……?)
まるで言葉の濁流である。
この後来るのであろう何かに、私は頭を抱えるしかなかった。
その後、パーティーの余興としてシリウス王子が一曲オペラを歌った。
やはり王子の歌声はすばらしく、場所も場所である。
雰囲気もあいまって、私は感動のあまり涙ぐんでしまった。
(シリウス王子、素敵です……! 良すぎです!)
「ああ、たまりませんわ……」
「まるで生きる美術品だよ」
「あれでまだ、お若いなんて」
ホールに響き渡っていく王子の歌声に、だれもが真剣に耳を傾ける。
国一番の美声は皆を心酔させ、特に婦人方は私と同じように強く感じ入っていたようだ。
シリウス王子は、貴族としての品格を十二分に輝かせたのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ポイントをモチベーションに頑張って書いていております。
よろしければ、下のブックマーク登録と★での応援をよろしくお願いします。
頂けると励みになります!




