17話『泡の抱擁』
「なんとか終わりましたね」
私たちは遅れながらも分担の仕事を終え、ほっと一段落という所だった。
「疲れたにゃ~お姉ちゃんはいつもこんなに仕事をしているのにゃ? ルクスには絶対に無理だにゃ」
足を広げて床に座り込んだルクス王子は、疲労困憊という様子で目をまわしている。
王子の年齢相応のかわいらしさに思わず私は微笑んだ。
「ふふ、慣れているだけですよ」
改めて王子の姿を見ると、今日一日バタバタと動き回ったせいで身体が汚れていた。
「ルクス王子、今日はお疲れさまでした。体が汚れているのでお風呂に入ってくださいね」
私の言葉に、めずらしく王子は顔をしかめて、
「う~めんどうくさいにゃ~! そうだ、アンジェリカお姉ちゃん一緒にお風呂に入ろうにゃ! 洗いっこしようよ」
王子は座った状態から元気に飛び上がり、私の手を引いた。
いつもの強引な流れに私は苦笑しながら、
「しょうがいないですね」
とそのまま了承してしまった。
自室に戻り、着替えとタオルを準備している時に私はやっと気が付く。
(王子と一緒にお風呂……!?)
みるみる私の顔が赤面していく。
弟のように感じていたが、ルクス王子は異性な上に王子なのだ。
(どうしましょう、どうしましょう)
私は狼狽し、収まらない感情をどうにか落ち着かせようと深呼吸を繰り返していた。
しかし頭の中では、ルクス王子の細い裸体が私に無防備な姿を見せていたのだ。
(ああ、消えてください……! いえ! 消えないで……! でも今はやめてください、王子ぃ~)
そこに、トントンと扉が叩かれる。
「おーい、お姉ちゃん準備できたかにゃ?」
なんとドアの前までルクス王子が迎えに来てしまったようだ。
無視を決め込むなどできるはずもなく、私はゆっくりドアを開けた。
「はいはーい。いこーにゃ!」
ルクス王子の様子はいつもと変わらず私の手を引いていく。
「あ、の……」
私は何も言えずに、そのまま付いていくしかない。
貴族用の浴場に到着すると、準備万全のメイド長が伏し目で佇んでいた。
(王子が自からお風呂に入ろうとしているのです! このチャンスを逃してはいけません! このままルクス王子をうまく御するのですよ……!)
小声でメイド長が私に耳打ちをした。
どうやら私は、メイド長公認のルクス王子係として任命を受けてしまったようだ。
たしかに王子の破天荒な性格は、使用人の立場からしてみれば大変なものなのだろうが、その理由を私は知っている。
(ルクス王子は、いつだって他人想いの心優しい方ですから……)
そう思うと、すっと私の心の中から恥ずかしさが消えていくのを感じた。
そうだ、自然でいいんだ。
「はい、ばんざーいです」
ルクス王子のメイド服を脱がせると私も服を脱ぎ、自ら王子の手を繋いだ。
「にゃ~? にゃんだか積極的にゃ?」
やはりというか、王子は自分や私の裸には興味を示していない。
お風呂だから服を脱ぐのはあたりまえだ、といった以上の感覚はないようだ。
若干の残念さを感じながらも、そのまま私たちはお風呂場へと入場した。
「はい、じゃあ大人しくしてくださいね」
私は王子と一緒に座ると、背中にお湯をかけた。
小柄な背中は肌ツヤがよく、水を弾いていく。
「あわわ~にゃ」
洗料を泡立て、王子の背中をやさしく洗っていく。
私達は昼間の出来事を思い出して、つい笑ってしまう。
「一面泡だらけにしたのを思い出しますね」
「にゃ~、今度は城のホールを泡でいっぱいにしたいにゃ~」
「それはやめてください、私がメイド長に怒られてしまいます」
「にゃははは~」
楽しく談笑しながらも、私は王子の体を洗い終えた。
さぶりと頭からお湯をかぶった王子が、猫みたいにぶるぶると頭を振る。
「よーし、今度はルクスのばんにゃ!」
ルクス王子が振り向いて私を見た。
――その瞬間、ドキリと胸が高まった。
濡れた髪と美少年の笑み。
体はまだまだ少年ものだが、うっすらと筋肉が盛り上がっている。
「ぁ……は……」
なんだか……私は……先ほど消えた恥ずかしさが……また復活してしまって……
後ろに回った王子の細い指が、私の背中に触れた。
「ひゃ!?」
私は思わず声を上げてしまう。
再び私の顔は真っ赤に染まり、体が縮こまる。
「くすぐったかったにゃ?」
王子の声がすぐそこで聞こえる。
私は……王子と裸で……しかもこんなに密着して……
まずい、です。
「お姉ちゃんのからだ、スベスベでやわらかいにゃ~」
「ひぇ……!?」
何を思ったのかルクス王子は自身の体に泡をつけて、それを擦りつけて私の体を洗ってきたのだ。
(ぁっ……! ぁっ……! いけませんいけません……ッ!)
座った私からは何も見えなかったが、それゆえに王子の肌をよりなまめかしく感じてしまう。
少年王子の高い体温が私に直接伝わってくる。
私は思わず両手で口元を押え、我慢するしかできなかった。
「どうしたにゃお姉ちゃん、気持ちよくないにゃ?」
「そ、そんな事ないですよ。ありがとうございます……ルクス王子」
しどろもどろになりながらも、私はなんとか返答する。
「そーかにゃ? でも今日は本当に楽しかったにゃ~」
「ぇえ……」
王子は私の体を丁寧に洗ってくださっている。
しかし丁寧過ぎて、ウサギの耳を洗う時には私の背筋がビクリビクリと反応してしまっていた。
それを見た王子の格好のおもちゃにされてしまったのは言うまでもない。
「お姉ちゃん耳が弱いんだにゃ~? こちょこちょにゃ!」
(ひゃ、ひゃぁぁぁ……)
私はとても恥ずかしかった。
しかしそれ以上に、王子に不純な気持ちを向けた自分が不甲斐なくて、何も言えなくなってしまう。
「好きだにゃ……お姉ちゃん」
「え……っ!?」
突然の告白に私は固まってしまう。
なぜ、今のタイミングで!?
「お姉ちゃんはルクスのできない事いっぱいできるにゃ、すごいにゃ! 尊敬するにゃ!」
(ぁ……)
「だから、これからもずっと一緒にいて欲しいにゃ!」
私の中から再び毒気が抜けていく。
(そうだ。ルクス王子は……)
私は振り向くと、泡だらけのまま王子をやさしく抱きしめた。
「はい、私も大好きです。私でよろしければおそばに居させてください」
「んにゃぁ」
私は本心からそう告げる。
今度はルクス王子の顔が赤くなっていたのは、湯気で気が付くことは無かった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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