12話『二人ぼっちのパーティー』
「ふぅ……」
お茶を一口すすり、ほっと一息。
今日の仕事を終え、私は自室で休んでいる。
夕暮れが夜に塗りつぶされていくのを、窓越しにぼぉと見ていた。
(夜に自由な時間があるというのは、なんだか慣れませんね)
明かりのロウソクに火をともし、私は持て余し気味の夜をどう過ごそうかと考えた。
そろそろ夕食にしましょうか……
そんな私の油断を突くようにコンコンコンと窓が叩かれる。
「ぇ……っ、ここは三階ですよ……!?」
窓に映る影に私は驚きながらも近寄り、鍵を外す。
「こんばんは、アンジェリカ」
バサリという羽音と共に、薄ピンク色の羽が舞い散る。
月夜をバックに部屋にやってきたのは……
「アルベティーニ王子!?」
意外な人物が意外な方法で登場し、私は面食らってしまう。
何故窓から……!?
「以前は仕事を理由に断られてしまったからね……今からなら構わないだろう……?」
いつもの柔和な笑顔で私を見つめる王子は、リボンのついた箱と白い花束を持っていた。
「今からって……何をですか……?」
荷物を一度机の上に置くと、王子は微笑みつつも真剣な雰囲気で私に向き直る。
うやうやしく私に向かって手を差し出し、エスコートのポーズをして彼は誘ったのだ。
「もちろん二人ぼっちのパーティーさ。僕と楽しいひと時を過ごしてほしい、アンジェリカ」
青白い月夜に照らされた王子は、いつも以上に美麗で際立っていた。
「ぇ……ぇぇ……王子が、私に……」
私はあまりの状況に赤面し、固まってしまう。
なんでことでしょう、こんな事な素敵な事が……今、王子が誘ってくださっているのに……
「僕の手を取って、アンジェリカ」
その言葉はまるで魔法のようで、私は考える間もなく王子の手を取ってしまう。
優しく私の手を握ったアルベティーニ王子は、もう一方の手でそのまま回り込むように私の肩を抱き寄せると、
「はははっ、やったやったよ。ついに君をついにデートに誘う事ができたんだ」
子供のような屈託のない笑顔を私に向けながら、そのままクルクルと部屋でダンスをしはじめる。
私はどうしていいか分からず、そのまま王子の動きに合わせて揺られていた。
まるで絵本の中のような出来事に、少しずつ実感が追い付いてきた。
(私が王子とデート……そしてダンスを……?)
私は恥ずかしさと嬉しさがない交ぜになった笑みを浮かべながら、王子とのダンスに魅了されていた。
こんなアルベティーニ王子の顔だったら、何時間でも見ていられるだろう。
「そうだ、プレゼントがあるんだ」
王子は思い出したかのように、先ほど持ってきていた荷物を改めて私に差し出した。
一つはガマズミの白い花束で、かわいらしく小さな花びらをつけている。
小さなカードが添えられており、そこには「親愛なる、アンジェリカへ」とメッセージが添えられていた。
「君のイメージで選んだよ。まさに野花のような可憐で力強い美しさだ」
「素敵です……! 王子は生花が堪能だと聞いております。まさか私がお花を頂けるなんて……!」
私は思わず口を手で押えると、嬉しさに震えた。
「先日君は花瓶を買っていたようだからね。その花瓶にもよく合うと思うよ」
王子が視線を向けた先には、この間私が買った白い花瓶があった。
「そんな所まで見てくださっていたなんて……」
私は早速花瓶にガマズミの花を生けた。
殺風景な部屋全体が、花瓶を中心として色づいたように感じる。
「すごい……とっても綺麗ですよ」
私は感動のあまり、涙ぐんでしまった。
「感激してくれたようで僕も嬉しいよ。でもね、驚くのはまだ早いかも」
楽しそうな笑顔で、王子はプレゼントを私に手渡してきた。
「開けてみて?」
私は震える手で、青いリボンを解いていく。
蓋を開けるとそこには……薄紫の美しいドレスが入っていた。
「これを……私に……?」
「そうだよ、君は服がないって言ったよね? メイド長にサイズを聞いてこっそり作らせていたのさ」
私は驚きのあまり目を白黒させてしまう。
ドレスなんて、子供のころに着た以来だったのだ。
「思った通りだ! 君のそのクリームブラウンの髪にすごく合うよ」
5分後、着替えを済ませた私は王子の前に立っていた。
まずドレスで目を引くのは腰に付けられたゴールドのリボン、薄紫のレース生地が何層にもなってスカートを形成しており、ドレス全体には造花が装飾としてちりばめられている。
お姫様がパーティーで着るような豪華で美しいドレスに、今が夢の中ではないのかと私は疑い始めてしまった。
「こんな……素敵な……私、夢のようで……」
私は感動で頬が上気し、鼻の奥がツンと痛くなってくる。
王子は包み込むような優しい笑顔で、そんな私を見つめていた。
「ふふ……でもまだだよ。僕たちの夜はこれからなのさ」
二人ぼっち、私たちの夜が始まったのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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