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いつかの空を見る日まで  作者: たつみ
最終章 彼女の会話はとめどない
223/300

先陣の眼前 3

 いつもは(おさ)たちと集まっている、ガリダで最も大きな建屋。

 そこに、キャスはノノマと一緒にいた。

 外は、残ったガリダや何頭かのルーポたちに守られている。

 朝早くから、そういった調子で、すでに昼を過ぎていた。

 

 今回は、前回とは違い、こちらが仕掛ける側だ。

 各種族から、いわゆる精鋭のみが、国を出ている。

 そのため、戦いに加わらないもののほうが多い。

 残ったものたちは、それぞれの領地を守っていた。

 

「どうですか? 見えていますでしょうか?」

「見えてる、と思います。速過ぎて、景色がわからないだけで」

 

 キサラからの通信に、キャスは答える。

 室内には、多くの画面が並んでいた。

 そのうち、3個は、まだ画面は黒いままだ。

 残りには、荒れながらも映像が映し出されている。

 

 シャノンの見張りにも使っていた映像装置だった。

 それを、フィッツが改良している。

 なにをどうしたのかは、機械に(うと)いキャスにはわからない。

 音声を切り離す代わりに、相互を中継に使うだとか、フィッツは細々と説明してくれたが、漠然としか理解できなかった。

 

(たぶん……携帯電話の中継基地みたいな感じにした、ってことだよね……)

 

 通信機は、かなり長距離でも、やりとりができる。

 だが、映像の装置は、一定の距離を越えると受信できなくなるらしい。

 人の国までの最短距離は3百キロほどだが、直接の受信は不可能だと、フィッツは言っていた。

 元の世界での携帯電話が、いかに優れていたかを実感する。

 

(地球の裏側とだって、テレビ会議ができてたもんなぁ。やっぱり衛星とか、そのレベルじゃないと無理なのか)

 

 なので、音声と映像の係は別。

 ルーポの場合、映像装置はダイスがつけており、通信はキサラ。

 そのほうが「話が通じる」と、フィッツは判断したようだ。

 申し訳ない気もするが、キャスも同意見だった。

 

「私たちは、間もなく到着いたします」

「予定通りですね。ほかの部隊も、あと30分くらいだそうです」

 

 キャスは、ルーポとガリダとの通信を担っていて、ノノマがコルコとイホラとのやりとりを行っている。

 映像も、半分ずつ受け持っていた。

 ノノマは、こちら側の映像を見ようとはしていない。

 シュザを心配してしまうからだろう、と思う。

 

(向こうが攻撃してくる可能性があるって、フィッツは言ってた)

 

 キャスは、黒い3つの画面を見つめた。

 そこには、フィッツとザイードが映る予定なのだ。

 以前、皇宮から逃げる際、地下牢から隠し通路を抜けた。

 その隠し通路には、いくつかの出口があり、あの時は狩猟地を選んでいる。

 が、今回、フィッツが使うのは、帝国本土の裏街にある出口だ。

 

 そこから皇宮の地下通路を利用して、開発施設に入る。

 らしい。

 

 施設と皇宮は、比較的、近いのだと聞いていた。

 もっとも、近いといっても、数十キロもはない、という程度だ。

 そもそも皇宮は広く、隠し通路から狩猟地に抜けるのでさえ1キロはあった。

 しかも、地下は入り組んでいて、迂回しながら進むことになるそうだ。

 

 フィッツの頭には地図があるので迷うことはない。

 けれど、移動中に見つかる心配をせずにもいられなかった。

 

(前は、フィッツがすることなら絶対に大丈夫って、心配なんてしなかった)

 

 今だって、フィッツを信頼している。

 大丈夫だと思っている。

 それでも、心配してしまう。

 知ってしまったからだ。

 

 フィッツが死ぬ、ということを。

 

 それまでは、フィッツが死ぬなんて思っていなかったように思う。

 どんななにが起きても、フィッツがなんとかしてくれると思っていた。

 もちろん、フィッツは「なんとか」してくれたのだ。

 だから、こうして自分は生きている。

 

(ダメだ、集中しないと……フィッツの眼をあずかってるんだから)

 

 ダイスが速度を落としたらしい。

 景色が景色に戻りつつあった。

 あの灰色をした影が見えてくる。

 壁だ。

 

「ダイスたちは、着いたみたい」

「アヴィオ様たちも、もう間もなくでござりまする」

 

 予定通りだった。

 リュドサイオを、まずルーポとガリダで攻め落とす。

 混乱に乗じ、時間差で帝国本土の施設を狙うのだ。

 

「キャス様、こちら配置に着きました。いつでも決行可能です」

 

 映像には、キサラが映っている。

 装置をつけているダイス自体は映らないのだ。

 首を振ったのか、遠くにルーポらしき姿が見えた。

 距離を取って整列しているからだろう。

 

「え……?」

 

 一瞬、キャスは混乱した。

 が、すぐに、ハッとなって叫ぶ。

 

「今すぐやって! キサラっ!」

「ダイス! 攻撃して!」

 

 キャスのただならない口調に、キサラも察するところがあったらしい。

 即座に、ダイスに声をかけた。

 映像の端で、ダイスの銀色の毛が光る。

 遠くからも、いくつもの光が走っていた。

 

 ドゴォオン……。

 

 低い地響きの音。

 映像に、キャスは息をのむ。

 地面が大きく割れていた。

 前に見た「亀裂」とは、まるで違う。

 

 壁に向かって、四角く地面が切り抜かれていた。

 周囲には、砂煙が上がっている。

 突然、深い切り立った崖ができたのだ。

 そこに、細い滑り台のようなものが、スルスルと壁の向こうへと伸びていく。

 

「どう?! いけるっ?」

「はい! 壁の向こうに到達できそうです!」

 

 映像を見ると、ルーポの作った地下までは、壁が降りてきていない。

 壁の力は地下にはおよばない、という推測は当たっていたのだ。

 

「おい、早くしろ! 時間がねぇぞ!」

 

 ダイスの声が聞こえる。

 画面にシュザが映っていた。

 多くのガリダたちが、その滑り台から袋を壁の向こうに流し始める。

 中には、動力石の粉が入っていた。

 

「どうだっ?!」

「まだわからないわ! 音が聞こえない!」

「全員、黙れ! 静かにしてろっ!」

 

 ダイスの剣幕に、画面のこちらにいるキャスまで口を引き結ぶ。

 なにか小さな音が聞こえた。

 近くにいて、しかも、ルーポなら明確に聞こえているはずだ。

 

 銃声。

 

 フィッツの言った通りだった。

 迎え撃つ準備を、人間側はしていたのだ。

 

 『リュドサイオには魔人がいます。そして、配下は中間種。であれば、ルーポが近づけば悟られますね』

 

 事もなげに、フィッツは言った。

 だから「迎え撃つ」準備をしているに違いないと。

 

「よし」

 

 キサラの小声が、通信装置から聞こえる。

 シュザのうなずく顔が見えた。

 サッと手を上げる。

 同時に、複数のガリダが弧を描くような火弾を放った。

 

 しゅるんと、地下から壁の向こうに消えていく。

 瞬間、灰色の壁が揺らぐほどの爆発音が響いた。

 ぼやけた赤い炎も透けて見えている。

 

「は、早く……っ……撤退!!」

「ダイス、撤退よ!」

「おう、全員、逃げるぞ!! ぼさっとすんな!!」

 

 壁の景色が、次々に画面から消えていた。

 音も少しずつ遠くなっていく。

 ふう…と、息をついた。

 

(さすがだね、フィッツ……リュドサイオの施設は、これで使えない)

 

 もとより最初のルーポの攻撃により、建物は倒壊寸前だったはずだ。

 そこに魔物側からわけのわからない袋が投げ込まれれば、必ず攻撃してくる。

 混乱もしているだろうし、撃つなと言われても聞く者は少ない。

 結果、動力石の粉を自らでまき散らすことになる。

 

 『ルーポの攻撃で有利なのは、閉鎖されているようで閉鎖されていないことなのですよ。建物が蓋の代わりになり、発火させるのに、ちょうど良くなります。なにしろ、爆発には酸素が必要ですからね』

 

 簡単そうに言いながらも、フィッツが事細かに計算していたのを知っている。

 建物の倒壊具合だとか、粉の量だとか、とにかく複雑な計算だ。

 事前に、小規模な模型を造り、繰り返し訓練も行っている。

 一発勝負なんてことをするのは、そうするしかない時だけだと言われていた。

 

(そうするしかない時だけ、か……私たちの部隊は、そうするしかない)

 

 フィッツとザイード、そしてキャス。

 開発施設を狙う部隊だけは「練習」ができなかったのだ。

 地図があっても、実際のところは入ってみなければ、わからない。

 

「キャス様、アヴィオ様たちが到着にござりまする!」

 

 ルーポとガリダは、全員、撤退している。

 最初の攻撃から、約15分。

 アヴィオたちのほうが、危険なのだ。

 待ち構えられている可能性が高い。

 

「すぐに攻撃! 爆発を見とどけずに、即撤退!」

 

 コルコとイホラの連携であれば、確実に爆発すると、フィッツが言っている。

 なので、見とどける必要はない。

 それより相手からの攻撃を受ける前に逃げるのが肝心だ。

 

「今回は、犠牲を出さないのが大事ですからね!」


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