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いつかの空を見る日まで  作者: たつみ
最終章 彼女の会話はとめどない
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思想の差異 3

 ガリダの地に、5種族の面々が集まっている。

 こうした集まりに使うとされている建物だ。

 その中に、カサンドラも座っている。

 当然だが、フィッツは、彼女の後ろに控えて立っていた。

 

変化(へんげ)というのをしていても、種族ごとの特色が表れているな)

 

 円座している長たちを観察して、そう思う。

 ガリダの(おさ)ザイードだけは変化していないが、ほかの長たちは、中間種の形態をとっていた。

 それでも、ティニカで教わった魔物の種族の資質に、それぞれ合致している。

 

 銀色の毛並みをした狼型の魔物に、チラチラ見られているのには気づいていたが無視した。

 獣に似た外見で、好奇心が強いとくれば、ルーポ族だろうと察している。

 相手をすると、興味津々で近づかれそうなので、あえて視線を外しているのだ。

 

 頭に2本の角があるのは、コルコ族。

 しかつめらしい顔をして、腕を組んでいる。

 かなり高温の炎を扱える魔物だと記憶していた。

 

 その隣には、ゆらゆらと揺れているかのように見える女の姿をした魔物がいる。

 観察されていることに気づいているのか、時々、体が透けていた。

 それにより、ファニ族だと確信している。

 ファニ族は大気から生じためずらしい魔物で、日頃は具現化していないのだとか。

 そのため、感情によって体が透けたりするらしい。

 

 さらに、その隣にも女の魔物が座っていた。

 人の好みそうな美麗な顔立ちをしている。

 手足が枝に似ていることからも、イホラ族だとわかった。

 

 そして、カサンドラ、ザイードという並びになっている。

 ザイードの左がルーポ、右がカサンドラを挟んでイホラ。

 つまり、壁ができる以前に多くの犠牲を出したガリダが座の中心になっているということだ。

 犠牲になったものの数はガリダが最も多く、次がイホラ、ルーポとされていた。

 

(コルコの犠牲が少なかった理由は不明だが、ファニは具現化を解けばすむ話だ)

 

 犠牲を強いられた3種族は、人との徹底抗戦もやむなしと考えているに違いない。

 犠牲の少なかったコルコや犠牲を出していないファニが加勢したのは、魔物同士の結束のようなものからだろうと推測する。

 でなければ、種族として戦に加わる理由はなく、被害を出すだけ損だ。

 

「今回の戦での犠牲は全体で、千に達しておらぬ。これは……」

「その数字、もう少し具体的に示していただけますか?」

「ガリダで243、ルーポが119、イホラが264、コルコが186」

「全体の戦力からすると9%程度。悪くない数字です」

「ちょ……ちょっとフィッツ……」

 

 カサンドラが(とが)めるような口調で言いながら、振り向く。

 ザイードの話の途中で口を挟んだからかもしれない、と思った。

 とはいえ、残存戦力を正確に把握しておく必要があったのだ。

 今後、本格的に人と戦うことになるのだし、カサンドラを守るため必ず勝つと、フィッツは決めている。

 

「かまわぬ。残された戦力を把握するためであろう」

「そうだな。どこが、どのくらいやられたのか、次も戦える奴が、どのくらいいるのかってのは、押さえとかなきゃならねぇだろ」

「イホラは元の数が多い。おそらく最も被害を出したのはコルコだ」

「そう言われると肩身が狭いわねぇ」

「いや、ファニが減ると、次がしのげなくなるからな。無傷で良かったのさ」

 

 魔物の長たちは、フィッツの介入を、特段、気にしていないらしかった。

 人とは、感受性が違うのだろう。

 カサンドラは、自らの生死に対して無頓着なところはあるが、ほかの者を犠牲にすることを好まない。

 ラーザの民のことも気に病んでいたと、気づいていた。

 

(姫様のためであれば、ラーザの民は、いくらでも命を賭す。それを犠牲だと思う者もいないのだが)

 

 それを当然だと思えないのが、カサンドラなのだ。

 きっと魔物の「犠牲」についても、負い目を感じている。

 自分さえ(そば)にいれば、そんな思いをさせずにすんだのだと、忸怩たる思いをいだかずにはいられない。

 肝心な時に近くにいなかったことが、情けなかった。

 

「姫様、私は帝国の技術にも精通しています。今後の戦いかたについて、多少とも意見を出せるでしょう。どうか会議に参加することを、お許しください」

「あ~……まぁ、みんながいいって言うなら……」

 

 カサンドラの言葉に、長たちが大きくうなずく。

 了承が得られたからか、カサンドラも、しかたなさそうにうなずいた。

 フィッツの介入を、あまり肯とはしていないようだ。

 感じてはいたが、退()くことはできない。

 カサンドラの命に関わる。

 

「それで? お前に、いい考えはあるのか?」

 

 コルコの長、アヴィオという名の魔物が、フィッツに鋭い視線を投げてきた。

 自己紹介があったわけではないが、それぞれの長の名は知っている。

 フィッツは、建て増し作業のかたわら、今回の戦の前にカサンドラたちが集めた資料に目を通したのだ。

 各種族の戦力となる頭数(あたまかず)も、その資料から知った。

 

「今回のような戦いかたは1度きりです。待ち伏せという要素があったので有効に働きましたが、2度目はありません。向こうも手を変えてくるでしょう」

「だったら、どうすんだ? オレたちの攻撃手段は限られてんだぞ」

 

 ルーポの長、ダイス。

 中間種の姿でも三角の耳と、ふっさりした尾は隠せていない。

 その尾が、ふぁさふぁさと揺れていて、隣のアヴィオが嫌な顔をしている。

 

「簡単なことです」

「簡単だと?」

 

 イホラの長、美麗な女の姿のナニャが、言葉の割に落ち着いた口調で言った。

 フィッツは、軽くうなずいてみせる。

 カサンドラに聞いていた通り、魔物は戦いかたを知らないのだ。

 自らの意思で操れる魔力攻撃が、どれほどの威力に変わるか、わかっていない。

 

「先制攻撃を仕掛ければいいのです」

「先制攻撃っ?!」

「そうだの。向こうの態勢が立て直るまで待つ必要はなかろう。こちらには、すぐ動けるものがおるのだ」

「仰る通り、時間が経てば経つほど、人間側も対策を講じてきますからね」

 

 ザイードは、人の国に行って来たと話していた。

 だから、フィッツの考えを、ある程度は予測しているに違いない。

 ダイスのようには驚きもせず、即座に同意を示している。

 

「それに、魔物には大きな強みがあります」

「なんだ、それは?」

 

 アヴィオの問いに答えたのは、ザイードだ。

 フィッツに尋ねることなく、当然のように言う。

 

「壁だ、アヴィオ」

「壁? 壁が、なんだってんだ? オレらだって入れねぇんだろ?」

「そうではない。入れぬのと出られぬのは、同じだということだ」

「壁に、人が閉じ込められていると、我らが考えていたのは、あながち間違いではなかったわけか」

「さよう。ナニャの言うように、人は壁に閉じ込められておる」

 

 ダイス以外は理解したようだった。

 きょときょとするダイスに、ファニの長ミネリネが呆れたのか、溜め息をつく。

 フィッツは、補足のため、ザイードの言葉を引き継いだ。

 

「この前の戦で、人は壁の中からミサイルを撃って来ました。壁は、人でなければ通すのですよ? 人に、それができるのなら、魔物にもできるではないですか」

 

 ダイスが、ハッとした表情を浮かべる。

 ようやく、ほかの長たちの思考に追いついたらしい。

 

「そうか。壁は、オレらの攻撃を弾くわけじゃねぇんだな」

「攻撃そのものを防ぐものではないと考えられます」

「でもな、魔力を完全に抑制できねぇと、人の国には入れねぇんだろ? なのに、攻撃はできるなんて、おかしくねぇか?」

「それは、魔力を持った“生き物”に反応しているからです。いったん、体を離れてしまえば、単なる炎の塊であり、暴風に過ぎません」

 

 ダイスは、納得したようなしていないような顔をする。

 ほかの長たちは、全員、わかっているようだ。

 

「ダイス。なにも我らの攻撃を、直接、壁に撃ち込まずとも良いのだ」

「壁のこちら側から、向こうに抜けるようにすればいいって話だな」

「大きな炎や強い風、地面の亀裂も壁を抜ける」

「私たちの出番はなさそうだけれど、別にかまわなくてよ」

 

 口々に言われても、ダイスは、しきりに首をひねっている。

 どうしても理屈が分からないらしい。

 

「先ほど話したミサイルは、平たく言えば爆発物なのです。魔力攻撃で同じことができると言っているのですよ」

「爆発? そんなもん、どうやるんだ?」

 

 そこは、ほかの長たちも不明だったのだろう。

 一斉に、フィッツに視線が集まった。

 

「たとえば、コルコとイホラが協力すれば……」

「なんだと?!」

「なぜ、イホラがコルコなどと……っ……」

「協力すれば、簡単に爆発を起こせます」

 

 アヴィオとナニャの「不平」を、フィッツは平然と無視する。

 種族間の仲など、知ったことではないからだ。

 勝つためには、嫌でも協力させるつもりでいる。

 

「この国にも、小麦粉に似た粉末がありました。風を使い、それを巻き上げ、火をつければ大きな爆発を起こせるのですよ。壁のこちら側で爆発させても、十分に、向こう側への攻撃と成り得ます。現実的には、もっと有効な手を考えますが」

 

 口を閉じたアヴィオとナニャから外した視線を、ダイスに向けた。

 ダイスは、落ち着かなげに、そわそわしている。

 

「ルーポは、さらに大きな戦力になるでしょう」

「そ、そうなのか?」

「地面に亀裂を入れられるのは最大の一手になります。私が把握した断層の位置に亀裂を入れれば、地面には、大規模なズレが生じます。同時多発的に起こすことで、壁の向こうに、かなりの打撃を与えられるのは間違いありません」

 

 そして、フィッツは、さらなる攻撃手段も考えていた。

 コルコほどの火力はなくても、ガリダにも火を扱えるものがいる。

 ルーポとガリダの組み合わせによる攻撃だ。

 それを口にしかけて、ふと気づく。

 

「えっとさ、フィッツ……」

「はい、姫様」

 

 ほかのものたちへの説明は、すべて後回しにした。

 カサンドラの言葉より優先されるものなどないからだ。

 

「それって、無差別攻撃ってこと?」

「その通りです。騎士であっても特別に割り当てられた者にしか、こうした攻撃に耐えうる装備は支給されていません。ましてや貴族でもない民に支給されるような物ではありませんからね。市街地を無差別に狙うのが、最も効果的と言えます」

 

 いかに相手に恐怖を与え、戦意を喪失させるか。

 戦争に勝つ、というのは、そういうことだと、フィッツは思っている。


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