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いつかの空を見る日まで  作者: たつみ
第2章 彼女の話は通じない
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暗澹の現実 1

 人の作った機械に頼らなければならないのは、不本意ではある。

 だが、自分たちの戦いかたでは「太刀打ちできない」のだ。

 もっと相手を知り、自分たちにできることを学び、増やしていけば、いずれは、機械に頼らずにすむ日も来るだろう。

 

(今はまだ……いずれ、では間に合わぬ)

 

 イホラを通じ、ミネリネから連絡が入ったのが数時間前だ。

 人が、人の国を出たのは、夜のことらしい。

 移動はガリダよりも遅く、イホラたちが「のろのろ」していたと言っていたと、ミネリネに聞いている。

 

 その乗り物は、ザイードもジュポナで見ていた。

 ザイードの周りをウロウロしていただけなので、速いかどうかわからなかったが、それについては、キャスに教えられている。

 速くても、1時間に30キロ進む程度らしい。

 

(奴らが選んだのは、リュドサイオの尾の先から出て、北西……やはり魔獣のおる北東を()けておるようだ)

 

 距離としては、4,5百キロ。

 最も近いイホラに到着するまでには、12時間前後。

 

 この時期、魔獣は動きが鈍る。

 それを知らないのか、知ってはいても万が一を恐れているのか。

 ともかく最短距離は取らず、少し西寄りに迂回しているようだ。

 ザイードたちが「誘導」する予定の場所には近い。

 

「奴ら、動き出すみてぇだ」

 

 人間たちは、百キロほど手前で動きを止めていた。

 いったん休息を取り、一気に攻めて来る気なのだ。

 すでに夜は明けている。

 少し気障りではあるが、耳につけている「通信装置」で、各(おさ)に連絡した。

 

「敵は、4つの隊に分かれておる。離れ離れにさせぬよう、囲みをかけよ」

 

 魔獣を狩る時と同じく、周りから追い込みをかけるのだ。

 その役目はダイスだった。

 ルーポのものたちが、土を盛り上げ、進行の邪魔をする。

 特定の方向に進むよう、邪魔をする場所も決めてあった。

 

「おう! そんじゃ、行ってくるぜ!」

「直前を狙うのだぞ? 先走っては……」

「わかってるって! 土を巻き上げるだけなんて、ガキの遊びみたいなもんだ」

「ダイス! これは遊びでは……っ……」

「みんな、オレに続けー!」

 

 わあっと声がして、耳がキーンっとなる。

 ダイスは馬鹿ではない、とザイードは自分に言い聞かせた。

 何度も練習をしたという話も聞いている。

 それが練習だったのか、遊びだったのかは定かではないが、それはともかく。

 

「シュザ、そちらはどうか?」

「ダイス様が、上手く誘導してくだされば問題ありませぬ」

「見た目も整うておるのだな?」

「ナニャ様とイホラのものたちの風の扱いは、素晴らしきものです。風で砂を運び沼地を平地のように隠してくださいました」

 

 誘導先には、多くの「沼地」を作っている。

 小さいものから大きなもの、浅いもの、深いものと様々だ。

 複数のガリダで力を合わせれば、沼地を作るのに半時もかからない。

 だが、沼地を隠すという発想はなかった。

 

(キャスは、沼地は、フロやプール?みたいだと言うておったか。体を洗うたり、遊び場という意味らしいが、間違ってはおらぬな)

 

 沼地の用途は、キャスの言った通りだ。

 そのため領地内では隠す必要がない。

 キャスから「落とし穴」にしたいと言われ、なるほど「罠」だと思った。

 小動物を捕まえるのに、ガリダも「落とし穴」を使う。

 人間相手に、そうした「罠」を仕掛けるという考えがなかっただけだ。

 

 キャスの提案に、ナニャがイホラでなんとかできそうだと請け負ってくれた。

 シュザの報告からすると、上手くいっているようだと、安心する。

 ラシッドも、シュザと一緒にいるのだろうが、通信装置は、あずけていない。

 自分の代わりに現場の主導をするには、やはりシュザのほうが適任なのだ。

 

 どうこう言っても、ラシッドは、まだ子供。

 本来は、領地内に残らせたかったのだが、ラシッドが言うことを聞かなかった。

 勝手に姿をくらませられると厄介なので、しかたなく同行を許している。

 ラシッドになにかあったら、と考えなくはないのだけれども。

 

「アヴィオ……そちらはどうか?」

「どうもこうも……このあと泥まみれになるかと思うと憂鬱だ……」

「外は見えぬのだな?」

「見えるわけがないだろう。泥の中にいるんだ。今は、体に膜を張っているから、泥まみれにならずにすんでいるがな」

「こちらの合図で、攻撃してもらわねばならぬ」

「……泥の中から攻撃……悪くはない手だが……最悪な気分だ……」

 

 コルコたちは、大小の沼地に潜んでいる。

 沼に「乗り物」がはまったら、その床面を攻撃するのだ。

 コルコは炎を扱うため、熱を読む力があった。

 キャス曰く「熱の高い場所」を狙うのが効果的とのこと。

 

「足止めは面で行い、攻撃は点で行う。良い策だ」

「それは、俺も認めている……力自体はともかく……キャスは役に立つ」

「考えを改めたのならばよい」

「ザイード……」

 

 アヴィオの声が、小さくなった。

 通信状態が悪くなったわけではない。

 

「知らずに生きていくことにならずにすんで、良かったと思っているんだ」

「そうだの」

「この先、何回、人が来ても、俺は(つの)を折ることはしない。絶対にな」

「ならば、死なぬようにいたせ。お前がおらぬと戦力が落ちる」

 

 言って、通信を切る。

 アヴィオの覚悟を感じていた。

 人との争いに、なんらかの決着がついたら、アヴィオは祖父の「交渉」について種族のものたちに打ち明けるつもりなのだ。

 

 罪を犯したものの身内として裁かれるとしても。

 

 そうならなければいいと思うが、こればかりはザイードが口出しできることではなかった。

 種族の中で判断し、決めることなのだ。

 壁を造る「装置」を隠していた老体たちのことも、同じだった。

 ガリダ内で話し合う日はくる。

 

「皆、用意はできておる」

「……こちらも、準備できました」

「これは、あやつを見ておるのと同じものか?」

「似たようなものですね」

 

 ザイードは、キャスと一緒に、ガリダに残っていた。

 いつもは長が集まる場所としている家を使っているのだ。

 周辺には、複数のガリダが守りについている。

 キャスの(そば)には、ノノマもいた。

 

「映像が、じっとしておりませぬ」

「ファニたちに頼んで、装置だけ投げて来てもらったんだよね。だから、家に設置した時みたいに安定しないんだよ」

 

 シャノンの映像より、数は多い。

 だが、画面が乱れたり、動いたりしている。

 その中から、まともに見える映像を、キャスは探しているらしかった。

 何度も画面を切り替えている。

 

「ええと……ちょっと遠いけど、これとこれは安定してる……寄せに切り替えて、ピントを合わせてっと……」

「先ほどと比べて見易うなってござりまする」

「これが限界だね。解析装置が上手く使えてたら良かったんだけど、ごめん、全然わからなくてさ」

「なにを言う。遠くの状況がわかるだけでも上出来ぞ」

「さようにござりまする。我らだけでは、どうなっておるか、その場に行かねば、わからぬところにござりました」

 

 イホラが読めるのは「空気」だけだ。

 実際の状況を映像で見せることはできない。

 そもそも、戦場とここは、離れ過ぎている。

 魔力での会話では伝わらないのだ。

 通信装置によって意思の伝達ができたり、映像で状況把握ができたりするのは、キャスの知識によるものが大きい。

 

「キャス様、砂煙にござりまする!」

「来た……予定の場所まで、もうすぐです、ザイード」

 

 ノノマの尾が、小刻みに横振れしている。

 さすがに緊張しているようだ。

 

「ダイス、始めよ」

 

 言った瞬間、キャスがザイードに、パッと視線を向ける。

 気づいて、即座に言葉を付け足した。

 

「銃だ、ダイス! 撃たれぬように気をつけよ!」

「逃げ足は、こっちのほうが速いだろ? ガリダは心配性だな」

「過信はいたすな! 油断もならぬ! 余の鱗でさえ撃ち抜かれたのだぞ!」

「わかってるって」

 

 ザイードの心臓も、鼓動を速めてくる。

 これほど落ち着かない気分になったのは、初めてだった。

 ダイスには、キサラがいる。

 5頭の子もいるのだ。

 

「やはり、余も向こうに……」

「駄目です、ザイード」

「キャス……」

「駄目なんです、ザイード……気持ちはわかりますが……今回は、ただの偵察なんですよ? このあと、もっと……大軍が来るんです……」

 

 ザイードは床に座り直し、両手を握りしめた。

 自分の全力を出せば、蹴散らせる自信はある。

 ジュポナで見た「壁」より、今回のものは「薄い」と感じていたからだ。

 灰色ではあっても、中が透けて見えている。

 ザイードの見た「壁」は、中など見えなかった。

 

 画面に、ルーポたちが映し出される。

 ダイスも、そこにいた。

 円形の「壁」の中には、大きな「乗り物」がある。

 その周りを小型の「乗り物」に乗った人間が取り囲んでいた。

 

「あれが壁を造ってる装置ですね……あの中から外には出られませんが……」

 

 身をもって知った「銃」というものの威力。

 魔力を出しきっていたザイードでさえ、繰り返し攻撃を受けて、最後には、鱗を貫かれたのだ。

 ダイスたちには素早さはあっても、体を守る硬い鱗はない。

 

 人間たちの進行を阻み、土が、あちこちで盛り上がっている。

 砂煙も上がり、画面が乱れた。

 それでも、今のところ、順調に「誘導」できている。

 たかが土の山であっても、それが20センチを越えると前進はできない。

 キャスの言った通りだ。

 

「あと少しだ、ダイスよ……」


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