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暖かい日差しを感じて目を開くと、いつもと違う部屋が目に映る。

アリーナはぼんやりとした意識でここが何処だか認識すると、隣に誰も居ない事を確認した。


「んん〜〜っ!!はぁ、何時もよりめちゃくちゃ寝た気がする。このベッドの素材どうなってんの?」


ペタペタとベッドの質感を確かめるが、触った所で分かる訳も無くモゾモゾと起き上がった。

辺りをキョロキョロと見渡すが、サイラスの姿は無い。


コンコン


『奥様、お目覚めでしょうか?』


「えぇ、入って。」


奥様と言われる事に違和感が有ったが、アリーナは返事をすると二人ほど侍女が中に入って来た。

サイラスの居場所を聞くと、彼はどうやら研究室に居るらしい。色々と説明を兼ねて朝食は一緒にどうかと言付かっているとの事だったので、快く引き受けた。

寝起きの良いアリーナは身支度を整えられながら、ふと思う。


「そういえば、ここの皆にちゃんと挨拶をしていなかったわ。朝食の後にでも集まって貰えるかしら?」


結婚式が終わった後、暫く会えなくなるからと家族の時間を貰っていた為にサイラスの邸に来たのは日が暮れてからだった。

遅い時間だった事も、サイラスがどのような人物か分かっていなかった事もあり、 緊張していて昨日の事は記憶が朧気である。


侍女の二人は顔を見合わせて嬉しそうにアリーナに微笑むと「皆、喜んで集まりますわ」と答えた。


一人が邸の皆を集める、と退室をして、もう一人がアリーナの髪を丁寧に梳かし始めた。


「ふふ、髪を梳かして貰うなんて何年ぶりかしら。ウチは放任主義だったから自分の事は結構自分でしていたの。」


「あら、そうでしたか。とてもお綺麗にお手入れされていたようでしたので、てっきり…。奥様はとても美容に詳しいのですね。」


「ちょっと美容に関しては煩くてね。勿論、貴女達の仕事を取るつもりじゃないのよ?あ、貴女のお名前は?」


「失礼致しました、奥様。奥様付きを申し使っております、アイと申します。先程の者はユメと申しまして、私の双子の妹で御座います。」


「アイ?ユメ?……素敵な名前ね。だから顔がそっくりだったのね。」


何処か懐かしい響きと姉妹という事に親近感を覚えると、歳も近いだろう可愛らしい二人を着飾りたい衝動に駆られたが、アリーナはそこはまだ時期尚早だとグッと堪えた。


支度を整えて、アイに連れられ食堂へと向かう。

食堂へと通されると、既にサイラスが座っていた。



「おはよう、サイラス………って呼んでいいのかな?」


「あ、あぁ。じ、自由にしてくれ。お、お、おはよう」


名を呼ばれた瞬間ビクリとその場で飛び跳ねたサイラスにアリーナは少し驚いたが、そういえば呼んでいいか聞いていなかった気がすると思い直した。

オドオドと席を勧めてくれたので、アリーナはそこに座った。

目の前には色鮮やかで温かな朝食が並び、どれも早く食べてくれと言わんばかりだ。


「「恵みに感謝を。」」


食前の祈りを捧げ、心の中で「いただきます」と言うと黙々と二人は食べ始める。

サイラスはいつ話を切り出そうかとソワソワしていて、それに気付いてしまったアリーナは彼のタイミングが有るだろうと待っているが、一向に話は始まらない。


「えっと…、アタシはこれからここでどうしたら良いか教えてくれる?」


流石に食事も終盤に差し掛かっていたので、アリーナが話を切り出すと大きい塊を飲み込んだ様な音がサイラスから聞こえた。


詰まってしまったのか胸をドンドンと叩き、それを勢い良く水を飲んで押し流すと、決意したかのようにサイラスが顔を上げる。


「こっ、これからの事だが、君は自由にして貰って構わない。この結婚は王が僕をこの国に残したいが為のものだ。僕は外に出る気は無いんだが、政治絡みの事に君を巻き込んでしまって本当に申し訳無い。暫くしたら離縁してくれても良い。少しだけ辛抱して欲しい。」


早口で喋ったかと思うと、サイラスは立ち上がり食卓に頭を擦り付ける様に謝った。

その姿をアリーナはポカンと口を開けてサイラスのつむじの向きを確認してしまうと、ハッと我に返る。


「ち、ちょっと、王命でしょ?サイラスのせいじゃ無いじゃん。謝らなくていーよ!」


ワタワタとサイラスの頭を上げさせて、席に座らせる。

サイラスはとても申し訳無さそうに身体を縮こませているので、アリーナは何だか可哀想に見えてきてしまった。


「良いの。アタシ、あそこに居てもきっとお荷物だったし。お父様が過保護でね?もっと外に出たかったから自由に出来るのは嬉しいっ!なぁんにも予定は無いし、色々聞きたい事も有るから良ければここに置いて欲しいってゆーかっ、ね!」


そう言ってニカッと笑うと、今度はサイラスがポカンとしていた。

アリーナにとってはただの真実なのだが、その様に言ってくるとは思わなかったのだろう。


「君が良ければ、こちらはそれで良いんだが……。君は本当に変わっている。生まれた時から貴族社会に居るのにそんな風に笑うんだな。」


「あっ、何だろう。勝手にサイラスには体裁とか気にしなくて良い気がしちゃって。ヤだった?」


「いいや、君が楽な方で良い。」


嫌では無いようで、被せるようにズバッとアリーナが楽な方でと言う彼に、アリーナは内心ホッとした。

今迄、姉にしか出していなかった面だったが仮にも夫である人物にまで本性を出せないのは息が詰まってしまうだろう。


「…やっぱり、いー奴だよね?」




「ん?何か言ったか?」


「いや、やっぱ、サイラスいー奴だな~って!」



「ゴホッ!!!」


カラッと言われ慣れていない事を言われ、丁度口に入れたパンが変な所に入ったらしく、サイラスはまた胸をドンドンと叩いていた。


「あははっ。ごめんね、大丈夫そ?」


そう言ってアリーナがサイラスの近くまで行き背中をさすると、サイラスは人間の速さでは無い速度で後退りアリーナを指差す。


「き、き、き、き、き、君は!!!距離感がおかしいんじゃないかな!?ぼ、僕は仕事が有るからこれで!君は自由にしていてくれたまえっ!!」


ピューッと風の様に消え去ってしまった。

まだまだ話したい事が有ったのにポツンと一人取り残されたアリーナは、とりあえず残りのスープを平らげる事にした。


「…距離感おかしかったかなぁ……?」


スープを飲み干して、ふぅと息を付くと同時に声が出る。

背中をさすっただけなのだが、サイラスには不自然な距離だったらしい。

この世界は元いた所よりかボディタッチも、スキンシップも多いはずだ。男性とどうこうなった事は無いが、家族仲も良いし、友達にもこの位の距離だったので自然とそうしてしまったが、嫌な人だっているだろう。次から気を付ければいいか、とアリーナは能天気に思った。



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