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またまたお久しぶりになってしまいました…
「呪い、ですか?」
「あぁ、しかもこの大きさ…。昨日今日のものでは無いな。
背中だからこうなるまで気付かなかったのだろう。」
背中の殆どを黒く染めるそれは、うごうごと更に範囲を広げようとしている。
「呪いは専門ではないが、これは衰弱させて死に持っていくタイプのものだろう…。今になって痛みが出たという事は呪いを強化したに違いない。術者が焦っている可能性がある。」
「そんな…!どうすれば…」
「とりあえず、一刻を争う。こちらで解呪出来る方法を探す。アリーナ嬢は貴族側で協力者、もしくは術を掛けた本人を探して欲しい。」
「分かりました。」
「……犯人なら、分かる。」
「サイラス…。」
ずっと俯いているサイラスは、そのままで言葉を発した。
絞り出したその言葉はとても苦しそうだ。
「十中八九…、父の仕業だ。」
グレイスはそれを聞いた瞬間驚いていたが、すぐに大きな舌打ちをした。
アリーナは、開いた口が塞がらずその恐ろしさにガタガタと震えた。
実の父が、息子に呪いをかけたと言うのだ。
「…グレイス。少し、アリーナと話をさせて。」
「分かった。無理はするなよ。」
頷くサイラスを見てからグレイスは部屋を出ていく。静かな部屋の中、サイラスは自分の身体を隠す為にもう一度シャツを着た。
「…聞いてくれる?」
「うん。」
アリーナが返事をすると、サイラスはおもむろに前髪をザッとかき分けた。
「君は知っていると思うけど、僕は親と仲が悪い。
悪い…というか嫌われていたんだ。
生まれはカルーネ男爵家、母は隣国出身でね。
隣国で稀に生まれると云われるこの目は、その昔迫害の対象だった。
母は僕を産んでしまった罪の意識に耐えられなくなり、気が狂ってしまった。そして、自ら命を絶ったんだ。
母を溺愛していた父は、僕を恨んだ。
特にこの目を嫌っていた、母を殺した目だ。
暴力を振るわれたりとかは無かった…。でも徹底的に無視されたよ、存在すらしていないかのようだった。
現実逃避していた父は夜な夜な酒に溺れ、その影響で家は徐々に貧乏になっていった。
僕は四男で、嫌われていたからある程度の年齢になると口減らしの為に外に働きに出された。
収入は全て家に入れさせられたよ。
色んな仕事をした…。
その中でたまたま出会ったのが魔物の解体、処理の仕事だ。
騎士団からのおこぼれのキツい仕事なので、寮が完備されていたんだ。給料もそこそこ良かったから有無を言わさず家を飛び出た。
そこから魔物に興味を持って、薬学を学ぼうと腕が良いと噂のグレイスに付いて回っていたら、国に目を付けられて今に至る。
それが僕の人生、ここまで大丈夫?」
「う、ん。」
それは子どもの頃から今に至る話。なんと壮絶な事か。
アリーナはその内容を一つ一つ咀嚼して、飲み込んだ。彼は淡々と話しているが、話されていない部分の辛さを想うと溢れ出そうになるそれをアリーナは必死に止めるしかなかった。
泣いちゃダメだ。辛いのは、私じゃない。と。
精一杯手を握り締めて、まだ続くであろう言葉を待つ。
今にも決壊しそうな揺れる瞳を見て、サイラスは少し困ったようにクスりと笑った。
「国には半ば強制的に連れて行かれたんだが、その分
父から守ってくれたよ。
僕個人の爵位と名を与えられ、書類上の縁も切ってくれた。
国が前に出てくれていたので、父に金の無心をされる事も無くなっていた。
…だが、最近また金を要求してくる手紙をいくつか貰っていてね。
全部無視していたんだが、それが悪かったのかもしれない。」
「…そんな!サイラスは、何一つ悪くないじゃん…」
歯を食いしばって耐えたが、間に合わなかった。ボロボロと決壊してしまったモノを溢れる度に消そうと強く拭った。
「……傷付いちゃうから、止めなよ。」
サイラスはそんなアリーナの手を優しく止める。
「君…、いや……アリーナが来てから毎日が楽しくて、幸せで…忘れていた。バチが当たったんだ。」
全てを諦めるように彼は言う。
瞳に光は無く、力無く笑う。
「バチって何!」
バッとアリーナは勢い良く立ち上がる。
「サイラスは幸せになっていいッ!今までの分まで幸せにならないと人生の帳尻合わな過ぎじゃない!?
貴方は!!私と!!幸せになるの!!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ彼女の声にサイラスは驚いたが、グッと奥歯を噛む。
「でも…、自分の事だから分かる。もう手遅れだ…君を解放しなきゃ…。」
「解放って何!?離婚!??
ヤダ!!ぜっっっったい離婚なんてしてやんない!」
「…アリーナ。」
子どもの様に駄々を捏ね出すアリーナに、サイラスは諌める様に呟いた。
だが、アリーナは納得出来ない。
何一つ悪くない彼がこんな目に合うなんておかしい。
そして、ムカついた。
アリーナはガバッとサイラスを抱き締めた。
「諦めないで…、最後まで足掻こうよ。
まだ、私サイラスに自分のお店建てる所も見て貰ってない…。まだまだサイラスに聞きたい事も、話したい事もいっぱいだよ?私が、貴方を絶対、絶対助けるから。」
サイラスの身体はしっとりと汗ばんでいるのに、ひんやりと冷たくなっていた。
抱き締めた瞬間彼の身体は跳ねたが、彼はアリーナを受け入れていた。
その温もりから、言葉から、彼女の想いがどんどんと流れ込んでくる。
いつの間にか、サイラスの手は彼女を強く抱き締め返していた。
「……僕、生きていていいのかな…?」
熱い雫が彼女の肩に次々と落ちていく。
「当たり前じゃん!サイラスは絶対に死なせない!」
サイラスは、初めて声を上げて泣いた。




