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「申し訳御座いません、伝え忘れていました…。私のネイルは魔物のもので出来ているのです。」


「あ、いえ。びっくりしただけよ。…そうよね、魔物の素材が今は色んな所に使われている事は知っているわ。しかも貴女の旦那様は彼ですものね。」


そう言いつつ、まだ少し引き気味のセリーヌを見てアリーナは少し胸が痛む。


「お辞めに…、なられますか?」


「え!?そ、それはダメよ!私もネイルがしたくてここにいるんだからっ!ブルースライムならまだしも、サンドワームの気持ち悪さを思い出してしまっただけなのよ!」


確かにサンドワームの見た目はグロテスクだ。

ミミズの外見、円を縁取られたように無数の牙のある口、砂漠という過酷な環境だというのに高層ビルの様に大きな身体は妙につるりとしている。大きな口を開けて襲ってくるその見た目だけで何人かは卒倒するだろう。

酸の強い粘液は意図も容易く皮膚を溶かし、生き物で有れば何でも食べてしまう程獰猛でも有る。



忘れていた訳では無いが、すでに粉状になっているので気持ち悪さをイメージ出来なかった。確かに、これがミミズの粉です。と言われればそれは気持ち悪いなとアリーナは思い直す。


「そうね、”乾燥剤”とでも言ったらいいわ。態々魔物の名前を出す必要はないもの。」


「そうですね、以後気をつけます…。」


「大丈夫よ。聞いてしまったから取る時少し怖いけれど、ネイルは本当に楽しみよ。ここからどんな事をしていくの?」


早速空回りしてしまい落ち込むアリーナに、セリーヌは優しく声を掛ける。

パッと顔を上げ、仕事モードに切り替わるアリーナにセリーヌは「あら、可愛らしい」と思ったが声には出さなかった。


「はい!基礎が出来たので、ここから装飾になるのですが、デザインのご希望は有りますか?」


「ん~、初めましてだから自由にして貰って良いわ。」


「畏まりました。では…、この辺りでしょうか?」


アリーナはゴソゴソと持ってきていた小さなスケッチブックを取り出す。

そこには貯めに貯めたデザイン案が描き記されていた。

その中で薄桃色に合いそうな可愛らしいデザインを纏めたページをセリーヌへと差し出す。



「まぁ…。こんなにも案が有るのね。」


「はい、其方のノートはほんの一部ですが。」


「これで?」


小さいが、分厚いそれを見てセリーヌは唖然とする。

しかもそれは色塗りもされていて、アリーナの熱量が感じられた。

ニコニコと頷くアリーナを見て、本当に好きなのだなとセリーヌは微笑ましく思う。


それでは、とセリーヌはそれを見てどれにしようか目を輝かせ迷っていると、アリーナは少し考える素振りを見せ、もう一冊のスケッチブックを取り出し、バリバリと何かを描き始めた。

何事か、とセリーヌが覗き込むとそこにはまた違うデザインが描かれていた。


「…もしかして、私用に?」


「すみません、少しだけお時間を下さいませ。」


先程迄と雰囲気がガラリと変わり、真剣な表情のアリーナを見て、知らず知らずの内にセリーヌはゴクリと生唾を飲んでいた。

物凄い速さでアリーナはデザインを描き終える。


「この様な感じでどうでしょう?」


描き出されたそれは、まるで春の星空の様だった。

天の川のように宝石が緩やかに流れ、薬指だけ大小の宝石で埋め尽くされているデザイン。

黒いペンで描かれているのに、セリーヌには薄桃色の世界に美しい宝石が散りばめられ、キラキラと輝いて見えた。


「素敵!!あぁ、これね。これにするわ!」


「良かった…。やっぱり宝石は気分アガりますよね。」


熟練の技でカットされた小さな宝石が入った小瓶を並べる。これも、アリーナが今迄集めた代物の一つだ。

元は、ドレス等に縫い付けられていた物を紹介して貰った。

まだこの世界の技術では均一性には欠けるが、美しさは一級品。まさにこの日の為に取っておいた様なものだった。


「では、こちらを乗せていきますね。」


小さな受皿の上に宝石をサラサラと入れる。裏にする方に薄くベースを塗り、爪の上に乗せ、後はパズルの様に違う大きさの宝石を配置していく。


キラキラになっていく爪はとても可愛く、心が踊る。


セリーヌはその様子をじっくりと眺めた。

不規則だが、バランス良く置かれたそれらを興味津々に見ているだけなのに、いつの間にか終盤へと差し掛かっている。


薄く塗っているだけなので最初に施していた所は既に固まってきていて、そこにコルボアの汁を満遍なく丁寧に付けて仕上げだ。


「出来ました。」


アリーナがにこやかに告げると、セリーヌが手をワキワキとしながら何度も爪を見返す。


セリーヌの場合、手入れがきちんとされていたので長さは自爪を生かし、今回はオーバルと呼ばれる卵の様な形の丸みのあるシルエットで整えた。

そして、デザインは絵に描いたものより遥かに色鮮やかで、煌びやかだが薄桃色で清楚感もあり厭らしくない。

王妃である、セリーヌにぴったりのネイルになった。


「とても、お似合いです。」


「す、素晴らしいわ!あぁ、貴女のもとても素晴らしかったのだけれど、自分のとなるとこんなにも嬉しいのね。今から皆に見せて回りたいわ!」


「ありがとうございます、光栄です。」


「ふふふ、じゃあ早速ダーリンに見せないと。お邪魔したわね、沢山宣伝をするから、サロンの時は覚悟しておいてね。」


「ひぇ……、か、畏まりました!」



仕上げられた自分の爪をまるで見せびらかす様にヒラヒラとさせ、セリーヌは帰っていった。

まるで嵐の様な出来事に、今更ながら目が回る。



だが、確かな手応えを感じた。


アリーナは大きな大きな一歩を踏み出したのである。



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