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ダラダラと冷や汗をかきながら、アリーナは身を縮めないようにと細心の注意を払って笑みを返す。


目の前には洗練された仕草で、背筋をピンと伸ばしニコニコと笑う女性が居る。


「お待たせして申し訳御座いません。そ、その…王妃様。本日はどのようなご要件でしょうか?」


そう、彼女はこの国の王妃。そんな高貴なお方が何故かお忍びでミーガン侯爵邸へと来ているのだ。

アリーナの鉄壁の笑みも引き攣るってもんだ。

しかも登城した次の日の朝に、である。


あの日アリーナは前日眠れなかった事も祟り、馬車でぐっすり眠ってしまい、起きたら次の日の朝だった。

起きた瞬間色々思い出してしまったのだが、生来のポジティブシンキングなので『忘れよう。』と思う事にした。

でないと自分の髪の毛を全部毟ってしまう位恥ずかしかったからだ。


「あら~。さっき気軽にセリーヌちゃんって呼んでねっち言ったんにアリーナちゃんは律儀な子だぁ。」


そして、これで有る。昨日の王妃からは全く想像出来ない訛り。人払いして欲しいと王妃が言うので『なるほどな』とアリーナは思った。

だが、一国の王妃の事をちゃん付けに出来る程アリーナは馬鹿では無い。


「ふふふ、そんなに固まら無いで。こちらの方が親しみやすいかな?と思ったのよ。昨日の事が有るからね。貴女前世の記憶を覚えているのでしょう?」


そう言って、言葉を随分と矯正したのだろう訛り等一切分からない王妃セリーヌはコロコロと笑う。


「え?」


「そうよね、そんな反応になるわよね。私もなの。」


「えぇ!?」


「驚いた?訛りはこちらに来てから生まれた生家のせいなのだけれど。

まさか生きている間に同じ記憶持ちの転生者に会えるだなんて思っていなかったわ。」


衝撃的過ぎてポカンとアリーナの口は開いてしまう。

話を聞いていくとセリーヌはアリーナとは違う世界の記憶を持っていた。

そこはアリーナの前世よりも遥かに文明が発達していて、アリーナとて驚く事ばかりだった。それを覚えているので長い間この世界にいるのに、ここでの生活に未だ慣れないことばかりだという。


「そうだったのですね…。」


「ふふ、順応はしてるつもりだけれど。でもね、私の前世でも爪に装飾をするなんてしたことが無いわ。新しい技法にしては嫁いでからの期間を考えても手際が良過ぎるし、…何より貴女から異世界の香りがしたの。私はね、”鼻が利く”のよ。」


セリーヌは自分の鼻をつんつんと触りながらにこりと笑った。

その言葉にアリーナはドキリとする。


『こりゃ確実にバレてる。う~ん、まぁ混乱させるだけだって思って黙ってただけだしね?』


アリーナは暫く考えたが、セリーヌには話しても良いし隠しても無駄だろうと結論付けた。


「そう思うといてもたってもいられなくて来てしまったのよ~。是非その技術、私にもして頂きたいの!」


キラキラとした瞳でぱぁっとお花が開くかの如く笑顔を咲かせお願いポーズをするセリーヌ、一見気の強そうな見た目とは裏腹に猪突猛進タイプで嫌味が無く、中身は年齢を重ねていてもとても可愛らしい。

これぞ、異世界転生。とアリーナは思う。

いつか王との馴れ初めを聞いてみたいものだ。絶対にざまぁ展開があったはずだ。ラノベ的には『異世界転生して悪役令嬢なのに溺愛される』的なやつだ。

きっとヒロイン役が悪いパターンだ、と少しワクワクとしてしまった。


「…セリーヌちゃん、これねネイルっていうんだけどやってくれるの?」


おずおずとアリーナが言うと、セリーヌは驚いた様に目を見開きそして最大級の笑顔で応えた。


「是非ともお願いしたいわ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「まぁ、まぁ!!!素晴らしいわ!」


「まだ甘皮を取っただけですよ、セリーヌ様。」


セリーヌは甘皮を取ったばかりの右手を眺める。そんなセリーヌが可愛らしくてクスクスと笑いながらアリーナはその間にもう片方の手を取り、丁寧に甘皮を押し上げて小さなハサミで切っていく。

小さいとはいえど、狂気らしきものが並ぶので王妃付きの護衛に見守られながら施術を行っている。なので和らげた口調も少し正している。

アリーナを物凄く怪しんでいるが、王妃は普段からこんな感じなのだろう、護衛から諦められている気もした。

こちら側としては監視の目が思ったより鋭くてアリーナは生きた心地がしないが。


「そうなのね~。甘皮が無くなっただけで爪が少し伸びた気がするわ。」


「はい、ですがこれはプロにお任せ下さいね。甘皮は細菌が入ったりするのを防いでくれる役割があるので。」


「あら、そうなのね。ではまたアリーナちゃんにお願いするわ。」


「ありがとうございます。では、こちらも終わりましたのでいよいよジェルを施していきます。」


セリーヌの手を巻いたタオルの上に置く。

アリーナはブルースライム粉に計った水と、事前に好みの色を聞きそれに合った色粉を多めに加え、テキパキと混ぜると刷毛で爪に薄く伸ばす。


「まぁ…、魔法みたいね。」


綺麗な薄桃色になる爪を見てセリーヌはうっとりと声を出した。

嬉しそうな表情を見るとアリーナはニヤけそうになるのをグッと堪えた。


「こちらはブルースライムを乾燥させて出来た粉に水と色粉を合わせたものです。ブルースライムはほとんどが水分ですので水分を含むとブヨブヨになり、数十秒で固まります。魔物の元となる核も有りませんし、この位の水の量ですと元のブルースライムの粘度になるには些か足りない様ですので、このようにして使えるらしいですよ。」


「え、ぶ、ブルースライム?」


「はい、固定にはこちらのコルボアの汁を使います。そして、オフの際は……あ~、爪が伸びてしまって取りたくなった際にはこちらのサンドワームの粉の中に手を入れますと、あら不思議。全部簡単に剥がれます。」


自分の小指でアリーナは実践して見せると、セリーヌはギョッとして信じられない顔をしている。


「さ、サンドワーム?…あの?」


余りにも引き攣った顔のセリーヌを見てアリーナは気付いた。


確かにこれが普通の反応か、と。




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