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久しぶりに晴れやかな気分で食堂へと向かう。

そこには、やはりサイラスが既に席に座っていて、アリーナが「お待たせ」と言うと彼は頷いて応える。


そして、今日有った事を二人で食べながら語り合う。

殆どアリーナが話をしているが、サイラスも最近は今は何の研究をしているかを段々話してくれる様になっていた。


「でね、今日は初めてアイとユメにネイルをしたの!久しぶりに他の人にネイルをしたんだけどね、めーーーーーーーーちゃ楽しかった!」


「良かったな。」


「あ、そうそう。だからさ、そろそろ社交界に出て宣伝しよっかなと思うんだけど良いかな?」


「ゲホッ!んんっ、お願いだから口に含んでいる時に重要な事を話すのを辞めてくれ……また、いきなりだな。前にも言った通り、自由にしてくれて構わないから。」


「あはは、ごめんね。やったー!」


「あぁ。だが、夫婦になって初めての社交場となると体裁もあるだろうし…。……僕も行くか…。」


それは本当に小さな声だった。

だが、使用人が数人居るだけで話をしているのは実質二人だけ。静かな空間なのではっきりと聞こえてしまった。

アリーナは、ポロリと口へ運ぼうとフォーク指していたブロッコリーを無意識にお皿へと落としてしまう。


「え?マジで?」


「いや、いや、いやいや!やっぱり無しだ!!」


アリーナはきっとサイラスは外に出たく無いだろうから一人で行く気満々だったので、まさかサイラスの口から一緒に行ってくれるという言葉が出てくるとは思わずビックリしてしまった。

それをサイラスは完全に勘違いをして、自分等が夫である事、隣を歩かれる事を先程の言葉で嫌がったのだと思った。

なので『やってしまった』と思いながら、赤い顔をして聞かれた言葉を揉み消した。


「うれしーんだけど〜〜。え、マジで一緒に行ってくれんの?やったー!」


そんなサイラスを他所に、アリーナは満面の笑みで両手を上げて喜んだ。

実を言えば、新しい技術は反発もあるだろうから一人でも味方が居てくれた方が嬉しいのだ。

素直に喜ぶアリーナを見て、サイラスは視線を外し恥ずかしそうにまた最後のスープを一口含んだ。



「いや~、本当にサイラスに嫁いで、サイラスが良い奴で良かった~!」




「ブッッ!!!」


「わお。」


アリーナ自身『大胆な事を言ってしまった』と言ってから思ったが、サイラスが余りの唐突な言葉に盛大にスープを吹き出したもんだから笑ってしまう。


「だ、だだ!!!誰のせいだと!!!と、とにかくっ!日取りは一週間後の国王の生誕パーティーだ!僕は仕事が有るから!!」


ご馳走様!とグイッと水を飲むと、無理矢理夕食を終わらせて出ていってしまった。


殆ど見えていないが、手の先まで真っ赤にしている彼は何だかとても可愛らしかった。


サイラスの皿は綺麗に空になっている。

吹き出したスープは勿体ないが、皆が綺麗に吹いてくれた。

少量だが、少しずつ量を増やしたり今の彼に合った食事量を使用人達と相談し決めているので空になっているのを見ると、アリーナは何とも嬉しくなる。

サイラスは、いつ出ていってくれても構わない、というスタンスだろうが、このままずっと夫婦でいるのも悪くないな。とアリーナは感じていた。


その時、ふと先程の言葉を思い返してみた。



「い、一週間後~~!!???」




ーーーーーーーーーーーーーーー



それからというもの大変だった。

一週間という短い期間の中で、ドレスとアクセサリーの新調(といっても期間が短い為既製品をお直ししただけだが)、主要人物のチェックに、仮にも夫婦なので夫婦としての立ち振る舞いの確認…。やる事が多過ぎて目を回しながらアリーナは、やり切った。

バタバタとしているアリーナを見てサイラスはこんなにも時間のかかるものだと思わなかったらしく、勉強不足だったとアリーナに詫びた。


そして、何よりネイルが肝心なのである。


ドレスの色に合わせた、真紅のベース。

輝く星の様なラインストーンを散りばめ、指ごとに雰囲気を変え、繊細なレース模様を手で描き、美しく見える長さを出した。

それらは、念入りに手入れをした白い手に映える。


これは、戦いなのだ。


ウケると確信をしているが、ドキドキとアリーナの心臓が跳ねる。



ガタゴトと揺れる馬車。

その中で、アリーナよりも緊張している者が居た。

ブツブツと、まるで念仏の様なものを唱えている彼を見ていると自分の緊張なんて軽いものだ、なんて考えると不思議だなとアリーナは思った。


「今日は付いてきてくれて、ほんとありがとね。」


アリーナがそう言うと、サイラスがビクリと身体を揺らす。


「あ、あぁ。だ、ダイジョウブだ。」


「ローブ初めて見た。格好良いね。」


「研究室にいる時は白衣を着てるから、中々着る機会は無かったけど、確かに言われて見れば格好良いのか…。」


声を掛けて緊張をほぐそうとしたが、どうやらドツボに嵌っているらしくサイラスはカチンコチンのままだ。


「君に迷惑をかけるかもしれない…。付いてこない方が君の為だったかも…。」


鬱々、じめじめとした雰囲気でサイラスは呟く。

行くと決まってから何回聞かされたか分からないそれを、アリーナはニコニコ笑いながら否定をする。


「も~、やめやめ!そんな事言ったってしょうがないし、私はサイラスに隣に居てて欲しいから気にしないで!アタシ達、夫婦だしさっ!」


中腰で立ち上がると前に居るサイラスの肩をバンバンと叩く。

すると、遠慮がちに彼の口は弧を描いた。



ーーーガタッ!


その時、馬車が小石でも踏んでしまったのか少し大きな揺れが起き、中途半端な体勢のアリーナはバランスを崩し、前に居るサイラスの方へと倒れ込んでしまった。


「いてて…。」


力の無いサイラスはそのまま倒れ込んでしまったので軽く頭を打ったらしく、彼の痛がる声がアリーナの耳に聞こえた。

サイラスの胸に顔を埋める形で抱きとめられ、直ぐに起き上がろうとすると、いつもは前髪で覆われているはずの片目と目が合う。


それは前世でも見た事の無い、澄んだ紅の瞳だった。



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