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空腹は辛い

絶望の中から、取り敢えず抜け出せた所で体を起こす。

近くに置いて居たスマートフォンを見る。

まだ時間は、22時を過ぎたばかりだった。

…一体何時に眠りについたのだろう。

30分程度しか眠って居ない気もするし、2時間くらい眠って居た気もする。

取り敢えず、お腹が空き過ぎて気持ちが悪い。


水を飲んで少しでも、空腹を紛らわそうと、一階に降りて行く。

「雛川さん?」

リビングに居た、悠先輩に声を掛けられる。

「あ、悠様…」

「どうかした?何かあった?」

「ええと」

夕飯を食べて居ないのでお腹が空いて居ます。

と言って良いんだろうか。

「の、喉がかわ…」

くぅぅぅ…お腹から間抜けな音がする。

慌ててお腹を押さえる。

「喉が、かわい」

ぐううううう、先程よりも、激しく空腹を訴える、お腹。

「お腹、空いて居るんだよね?さっき、黒井から聞いた。夕飯を食べさせていないと。赤崎さんと、姫花が君に失礼な事を言って、つい昔の癖が」

昔の癖。

どっちだろう?怒鳴り出した方か、赤崎さんと抱き合って居た方か。

「赤崎さんに抱き着かれて困惑して居たとも言って居た。」

怒鳴り出した方が昔の癖か。

「流石に投げ飛ばす訳にはいかないから、丁重に引き離して、宿泊先まで送り届けてきたようだけど。」

「投げ飛ばす」

「詳しくは僕からは言えないから本人に聞いてみると良いよ。きっと嬉々として話してくれると思う」

「嬉々として話されるんですか」

「黒歴史でも無い様だし」

普通なら黒歴史になりそうな事なのか。

とは口にしない。

忘れて欲しい頃に、また、お腹が空腹を訴える。

「サンドイッチが冷蔵庫にあるから、其れを食べると良いよ。」

「え」

でも其れって、誰かの為に作って居たりするのでは

「君の為に作って置いた物らしいから。」

私の為。

「あと、誰かしらが夜中にお腹空いた時とかに勝手に食べても良い様に。」

「じゃあ既にない可能性も」

「其れは大丈夫。殆どのメンバーがダイニングでゲームしているから、トイレ以外では其処から動いて居ないよ」

「そろそろ、小腹が空いたって誰か来そうだけど。」

「えっと、じゃあ」

何切れか貰って、その場で食べようと思ったら

「あ!璃々那ちゃん!璃々那ちゃんも一緒に遊ぼ!」

伊織ちゃんが来た。

「え、私は」

タイミングを狙ったかのように、空腹を訴えてくる。

「!」

目を丸くする、伊織ちゃん。

「一緒に食べよ?ごめんね?お腹ぺっこりさんだった?」

お腹ぺっこりさんって何だ。

「僕が、サンドイッチ運ぶから、伊織は取り皿お願いできる?」

「合点承知の助!」

ビシッと敬礼ポーズをする、伊織ちゃん。

合点承知の助…。

なんだその言葉選び。

「あ、私も手伝います」

「お腹ぺっこりさんは、何もしなくて良いんだよ?」

「そうそう。今回は嫌な思いもさせてしまったし、今は仕事の時間じゃないから、気にしないで欲しいな」

そう言われても気にしてしまう場合はどうしたら良いんだろう。

無意識で飲み物とグラスの準備をして居る事に気が付く。

冷蔵庫にあった、麦茶とラベルの付いているボトルをカートに乗せた瞬間

何もしなくても良いが難しいのだなと。

とは言え、何もせずに立ち尽くして居るのも、先にダイニングに戻って居るのも違う気がした。

そんな様子を恐らく気付きつつも、

『何もしなくて良いんだよ』

と言われない事が救いだとも感じた。

「璃々那ちゃん、ゲーム好き?」

伊織ちゃんに訊かれた瞬間、運ぼうとしていたカートをいつの間にか、悠先輩が押してダイニングへと向かって居た。

「土管おじさんか、同じ色の球体を消すゲームしかないけど」

土管おじさん(若干違う気もするけれど、特に突っ込まない)

「ノベル系のゲームはやるけど、アクション系は弟がやって居たのを見てた程度だよ」

ダイニングでテーブルに並べられたサンドイッチと麦茶。

「一番目に取るのは璃々那ちゃんだからね!皆が先に取っちゃうと璃々那ちゃんのが無くなっちゃう!」

「い、良いよ伊織ちゃん私は余ったもので」

「璃々那ちゃんはお腹ぺっこりさんで大変なんだよ」

「お腹ぺっこりさん」

手を伸ばしかけていた冬馬くんの手が止まる。

「好きなだけお食べ」

冬馬くんは取り皿を手に取り立ち上がり近寄って来る。

「あ、有り難う?」

サンドイッチを、5切れ程取り皿に乗せる。

何処に座るべきか。

「ボクの隣おいで~」

伊織ちゃんに手招きされる。

可愛い。尊い。可愛い。

「お隣失礼します。」

少し離れた所に座り、サンドイッチを口に運ぶ。

パンフワフワ、ローストビーフ美味しい。

セレブの食べ物だ…

あ、いや、貴族の食べ物だったわ此れ。

美味しすぎて泣きそう(泣かない)

美味しい物が食べられる幸せを有難う御座います。

色々落ち込む事があったけれど、どうでも良くなる位美味しいです。

(ちょろい)

「璃々那ちゃん、幸せそうに食べるね」

ニコニコと微笑んでいる伊織ちゃんの顔が横にある。

「美味しいです、幸せです」

黒井さんみたいな嫁が欲しいです。とは流石に口にしない。

「単純な奴」

呆れた様な馬鹿にしている様な声がする。

こういう事を言う人を私は一人しか知らない。

「大和、口が悪いよ」

冬馬くんが(たしな)める。

「事実だろ」

拗ねる様に言う大和の言葉に頷きながら

「そうですよ。」

璃々那は認める。

「そうなの!?」

認めた事に驚いている、冬馬くんと伊織ちゃん。

「食べ物で全て絆される位、単純なんです、私。」

「美味しい物くれるからって知らない人に、ついて行ったら駄目だよ?」

「流石に其処まででは無いよ」

「どうだか」

何だろう。何か既視感がある気がする。昔、こんな会話をしたことがある様な。

「あの、白柳さん、以前何処かでお遭いした事ありませんか?」

「何処かって、同級生だよ?」

冬馬くんが不安そうに言う。

「流石に其れは解って居ます。そうでは無く、学園で会う前、幼少期に何方かで」


大きな溜息を吐く、大和は

「知らない。」

そう言って席を立ち、ダイニングから出て行く。


「幼少期?」

「うん、そう。小学生に入る前の夏休みに一緒に遊んだ子と同じ様な会話した記憶が急に甦ってきて、白柳さんに似ていた気がするんだけど、10年以上前だから、断片的な事しか覚えていなくて、違うかなと思ったんだけど」

何か考えて、冬馬くんは

「そう、なんだ?後で、聞いてみるね?」

そう言った。


此れで、その話は終わったのだけれど

既視感はずっと拭えなかった。


何で今、思い出したんだろう。

今じゃなくても思い出せそうな時はあった筈なのに。

今、ふと既視感を覚えた意味が、あるんだろうか。

夏休みだからだろうか。


幼少期・夏休み・食べ物を一緒に食べただけの男の子

その時もサンドイッチだった気がしないでもない。

だけど、其れだけで思い出すような事だったんだろうか。

夏休みに家族で旅行をしたのはあの夏が最後だった気がする。

類が生まれてからは、近くに遊びに行く事はあったけれど

泊り掛けで

…何処に泊まって居たんだっけ?

旅館?ホテル?そう言うのではなく

両親の知り合いの家だった気がするけれど、思い出せない。

場所も思い出せない。

どういう知り合いだったかも思い出せない。

泊りに行き程仲が良かったのに、類が生まれてから

全く関わらなくなったのは何故。

サンドイッチを一心不乱に口に運びつつもそんな事を考える。

考え事をしていても食べ続けたいほど、サンドイッチは美味しい。(重要)

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