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やるなら徹底的に、潰すなら粉々に成る迄

掃除を手伝って欲しいと言われたので、従業員用のエレベーターに乗り込み、

3階へと向かった。

到着先は、姫花の部屋。

黒井さんは、ノックをせずに、ドアを解錠する。

誰も居ない。

スナック菓子の残骸と、炭酸ジュースの甘い匂いが充満している。

黒井さんは眉間の皺を深くし、窓とカーテンを開ける。

足元で何かを踏み締めた感覚と音がする。

其れと同時に、開けていた扉の向こうから、怒号が聞こえる。

「勝手に入るとはどういう事かしら!」

振り返った瞬間、胸ぐらを掴まれる。

「其方こそ、どういう事でしょうか?此処での飲食は厳禁だと言った筈ですが」

黒井さんは、そう言って、姫花に着いて来たメイド服を纏った女を睨みつける。

「あら、其れは仕方のない事ですわ。姫花様が」

「姫花様が、此れを食べたいと言ったから?可怪しいですね。姫花様が此方に入られる前にこの部屋の中から、悪臭が漂って居たのですが。其れと」

黒井さんは、私の胸ぐらを掴んでいる腕を、払う。

「彼女に手を出すという事は、雇い主である悠様に喧嘩を…いえ、悠様を侮辱なさると言う事ですね」

喧嘩を売るって言いかけた気がする。

「侮辱?何故?私達は来賓よ」

「其れは違います。そもそも、悠様は、誰も招いては居ません。」

……?

「此処は、毎年、悠様が気兼ねなく、家の事や仕事の事を考えなくて良い様に、独りで過ごす場所です。勝手に着いて来られたのは、悠様のご友人の方です。…まあ、流石に前以って、ご連絡は頂いていましたので、その時に、気を付ける事や、最低限のルールを知らせておいたのです。」

「独りで過ごすと言う割に、貴方や其処の小娘は一緒なのね」

「私は、悠様専属の使用人ですし、彼女は、私一人だと難しい事を手伝って貰おうと思って雇った従業員です。」

「いつもは、貴方一人だけが着いて来ているのに、其れは必要なのかしら?」

「先程から、小娘だとか、其れだとか、貴女はご自分の立場が解って居ないようですね?」

黒井さんの笑顔が怖い。

「此方としては……お前ら何か追い出してやる事も可能だっつってんだよ」

一瞬で、言葉遣いと声色が変わった。

顔は見て居ないから判らないけれど、何か見てはいけないような表情をしている気がする。

「ご丁寧に作ってやったマニュアルと、来る前に態々説明してやった事を全部無視しやがって…仏の顔も三度迄って言葉あんの知らねえのか?俺としては、仏様ほど優しくねぇから、一度でもルール破ったら、山ん中に置き去りにしてやろうかと思ったけど、お優しいご主人様(悠様)が、悲しむ姿は見たくねぇから、我慢してたけど…」

一度溜息を吐く、黒井さん。

「もう我慢の限界だ。今直ぐ出てけ。幸いこの辺には、野生動物は出ない。少し歩けば、宿も飲食店もある。駅もあるしバス停もある。其れでも出て行かねえって言うなら、警察呼んで追い出す事もしてやる。」

「たかが、部屋でお菓子食べただけじゃない」

「たかが、お菓子だ?まだ口答えする気か。」

「お菓子食べる事の何が悪いのよ!」

「別に、菓子ぐらい好きに食えば良いが、此処は寝る場所であって食う場所じゃねえんだよ」

「何言って」

「序に言うと、主と同じ部屋に寝泊まりする使用人何て聞いた事も見た事もねえ。あんたの雇い主がどうなのかは知らねえが、郷に入っては郷に従えだ。あんたの事は、仙崎さんから何の報告も無かったから、部屋も用意してねえし、他の部屋を用意する気も無い。」

「別に新しい部屋を用意して欲しいなんて」


「雛川さん、先ずはお菓子の袋を全てゴミ袋に入れて貰えますか」

声色と言葉遣いが戻った黒井さんに

何処からか出したごみ袋を渡される。

「え、はい」

「勝手に入るなと言って居るでしょう!」

璃々那に向かって噛み付きそうな勢いの

赤崎さんを黒井さんは片手で部屋から追い出し、部屋の鍵を掛けた。

そのまま、窓を開け、換気(夜だけど)

ポケットからゴム手袋を出し、お菓子の袋をゴミ袋に入れる。

外で何やら騒いでいるようだけれど、完全無視を貫く、黒井さん。

「それにしても、勝手に来て勝手に他人の家でこんな匂いのキツイ食べ物を食べられるなんて、どんな神経をしているのか…」

黒井さんは、そう言いながらカーテンにスプレータイプの消臭剤(オーガニック)を振りかけていく。

「あ、缶は此方に」

また別のゴミ袋が出てくる。

「…粗方片付きましたね、私は外の粗大ご…人を外に出してくるので、面倒だとは思いますが、あの方とあの方の主の荷物を、此のキャリーケースに戻して置いて下さい」

粗大ごみって言いかけた。オブラートにも包む気が無い。

「はい」

扉が開いて、物凄い暴言が聞こえた気がする。


…黒井さんの言葉遣い凄かったな…。

取り敢えず言われた通り、キャリーケースに、恐らく姫花と赤崎さんの物だと思われるものを其々、キャリーケースに仕舞う。


そう言えば、姫花が着けていた水着、籠に入れっぱなしだ…今取って来るのは、悪手な気がするし、誰かに持って来てもらう訳にもいかないし…

どうするべきか。


お菓子の袋は、全てゴミ袋に入れたけれど、こんなに飛び散るの?と言いたくなる位零れている、お菓子の残骸。

掃除機で吸い取るには大きい其れを、ゴミ袋に入れていく(自治体によりゴミの捨て方は異なります的な言葉を頭に浮かべつつ)

戻ってくるまではこの部屋の中を掃除しておこうと思い

浴室に移動する。

浴槽の掃除をしながら待つけれど、全く戻ってくる気配が無い。

何かあったのだろうか。


いや、その前に戻って来るとは一言も言って居なかった気もする。

キャリーケースに入れて置いて欲しいとだけ言われ、其れ以外は何も言われていない。

そして、気付いてしまう。

()()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()()()

という事実に。

何だろう凄く()()()()がする。


慌てて、部屋から出る。

階段を駆け下り、私が目にしたのは

キッチンで、黒井さんと赤崎さんが抱き締め合っている姿だった。

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