自由な人しか居ない
キッチンに移動し、黒井さんに指示される順番に、昼食を運ぶ。
海に行ったメンバーは、まだ戻って居ないようで、ダイニングで各々が時間を潰していたメンバーが、リビングに移動して来ていた。
ナプキンや、取り皿は既に並んでいて、私は中央にサンドイッチの乗った大皿を置いた。
黒井さんは、キッチンワゴンの上にスープの入った鍋と飲み物の入ったウォーターピッチャーを乗せて来た。
「悠様、飲み物は何に致しましょう?」
「アールグレイ」
「承知いたしました。少々お待ちください」
「雛川さん、私は紅茶を淹れて参りますので他の方の飲み物を伺って、注ぎ入れて下さい。重いのでお気を付けて。」
そう言って、黒井さんはキッチンへと戻って行った。
各々に、飲み物を訊いて行く。
その度、ピッチャーを持ち換えたりは面倒なので、一気に訊いて
同じ飲み物を選択した人から注いで行こうと思ったのに、モごとに全員バラバラな物を選択するとは。
因みに、海に行かなかったメンバーは
悠先輩、麗斗先輩、伊織ちゃん、冬馬くんの4人。
芸能活動をしている、奏太先輩も残って居ると思ったけれど、
居ないから、一緒に行ったんだなと思う。
えっと、悠先輩のは、黒井さんが入れてくると言って居たから
麗斗先輩の“アイスコーヒー”
伊織ちゃんの“レモネード”
冬馬くんの“メロンクリームソーダ”
…髪の色と好きな飲み物は関係ありますか?
悠先輩以外、髪の色イコール飲み物な気がしている。
メロンクリームソーダってバニラアイス必要な奴!
メロンソーダじゃ駄目なの!?
ご丁寧にピッチャーに飲み物のラベル貼ってあって、其処に
メロンソーダもあるけれど(しかも本物のメロン沈んでいる)
メロンソーダが私が知って居るものと異なるんですが!
(色は知って居るものと一致)
何でメロン沈んでいるの…
まだ、メロン生絞りジュースの炭酸飲料割りとかなら理解出来るけれど
色的に、庶民向け喫茶店のメロンソーダなのに、謎にメロンが沈んでいる。
疑問を抱きながらも、各々のグラスに飲み物を注ぎ入れる。
ティーカップとティーポットとバニラアイスのケースを持って、黒井さんが戻って来た。
「此方、必要かと思いまして」
そう言って、バニラアイスとアイスクリームディッシャー(アイスを綺麗な丸い形にする道具?)を渡された。
「有り難う御座います!」
…何となくの使い方は解るけれど、上手く出来る気がしない。
後固いと、なかなか掬えないと類が言って居た気がする。(テレビの情報)
不安に思って居たのだけれど、思ったよりスっと綺麗に掬えたのは、絶対黒井さんが何かしてくれていたんだろうと思う。
そして其れを、メロンソーダに浮かべる。
いつの間にか氷が入って居たのも、黒井さんが入れてくれたんだろうと思う。
心から尊敬する。
全員分の飲み物が行き渡り、彼らが食べようとした瞬間
水着姿の姫花たちが戻って来た。
ドレスより露出度が低い水着って不思議。(黒いワンピース水着に同色で踝丈のパレオを腰に巻いている)
「ねぇ、黒井。まだ部屋に入れないの?」
砂が付いたサンダルのまま、此処迄来たようで、点々と砂が落ちている。
プライベートビーチにシャワーが付いていると言って居たのに流してこないんだ?と言う感想が浮かぶ。
「お使いになって結構ですよ。仙崎様のお部屋には既に荷物は運びこまれているようですし。」
「あら、そうなの?他の人の物は運んでいないようだけれど」
「赤岩さんが(勝手に)運び入れて居たようです」
淡々と伝える黒井さん。
「お風呂には入れるのかしら?」
「個室に付いている浴槽に就きましては、全て赤岩さんにお任せしているので、私には判断出来かねますので、一度お部屋に行ってみては如何でしょうか。」
「そうするわ。」
リビングから出掛けて、
「戻って来たら、ランチにするから、グルテンフリーの其れ、準備しておいて。其れから、皆と一緒に食べたいから、待って居てね」
「アイス溶けるからヤダ」
冬馬くん拒否。
「折角の紅茶が冷めるから、僕も先に頂くよ」
悠先輩も拒否。
「お腹空いて居るのに待たされるとか地獄なんだけど」
伊織ちゃんも断固拒否。
「あ、貴女、部屋に案内してくれるかしら」
まあ、給仕は終わって居るし、断るという権利がないから別に構わないんだけれど、嫌な予感しかしない。
「畏まりました。」
恭しくお辞儀をしてみる。
エレベーターに到着すると
「使用人も、エレベーターで行こうとか思って居ないわよね?」
「姫花」
麗斗先輩が何か言いたそうに口を挟む。
「いえ、回数だけ選択して、私は別の手段を使って参りますので、到着致しましたら、エレベーターから降りてそのままお待ちください」
笑顔は絶やさずに、3と言うボタンを押して
そのエレベーターを見送る。
そして急いで、使用人専用のエレベーターに乗り込んで先回りをする。
ゲスト用のエレベーターよりもスピードが少しだけ早い仕様になって居るらしい。
何事も無かったかのように、ゲスト用のエレベーターの前に立って待って居る。
エレベーターのドアが開いた瞬間、姫花が化け物を見る様な目をしていた。
まあ、使用人用のエレベーターの存在を知らないから仕方ないのだろうが。
「分かったわ!貴女ズルしたわね!」
他のエレベーターを使用した事が“ズル”と言うならそうなのだろうけれど、使用人は主人やゲストを待たせてはいけないと、此処に来るまでの車内で、黒井さんに忠告されていた。
「私がした行為がズルかどうかは判断しかねますが、今は先ず用事を済ませてはいかがでしょうか?そのままですと、お体が冷え、風邪を引いてしまう可能性が御座いますので。」
何か敬語に違和感を覚えるけれど、まあ良いか。
姫花の部屋から案内していく。
「此方が仙崎様のお部屋となっております」
ノックをすると、姫花のメイドが顔を出す。
「掃除は不要だと言ったでしょう!」
「仙崎様をお連れ致しました。」
姫花の顔を見ると、メイドの顔が青ざめる。
「ひ、姫花様、もうお戻りになられたのですか?」
「あら?先程、お前に戻ると言う連絡をしておいたはずだけれど?」
「え、あ、申し訳ありません」
ちらりと部屋を覗く(マナー的にはアウト)
テーブルの上には、スナック菓子の袋が幾つも見える。開封済みの物もあるから、主が居ない間に食べていたんだろう。
その事をバレないようにする為に、室内の掃除を断ったと思われる。
「まあ良いわ。入浴の準備早くして!」
そう言って姫花は、散らかった室内に足を踏み入れた。
「は、はい、畏まりました」
姫花のメイドが慌てている音がする。
取り敢えず、開けっ放しのドアを閉めて、
他の人の部屋も案内をする。
…今から入浴の準備をするという事は、彼らの昼食は少なくとも今の時間から1時間程後という事になってしまうが、大丈夫なんだろうか。
まあ、夕食時間少しくらい遅れても構わないのかな?
戻る時も、使用人専用のエレベーターで戻る。




