所謂見切り発車ですよね
終業式が終わり、私は、担任教師だった人に話し掛ける。
「何だ文句があるのか」
と怪訝そうに言われたけれど
「いえ、指示に従う気なので、其処は全く気にして居ません」
表情を変えずに言う。
「じゃあなんだ」
あからさまに嫌そうな表情をする教師…
「私は本日付けでA組じゃなくなったそうですが、ではどこの教室を使えば良いのでしょうか。この後授業はまだあると思ったのですが」
序に、宿題も渡されていないし、通知表は郵送されるらしいけど。
「今日までは、A組の教室で授業を受け、宿題も其処で渡す。」
明らかに苛々している。
彼も又、貴族至上主義者だと言う事なのだろう。
話し掛けるなと言う態度をされても、好き勝手に空き教室を使う訳にはいかない為、指示を仰ぐのが当然だと思うのだけれど。
担任教師以外に訊いても構わないのだけれど、恐らく其れをしてしまうと、彼に非難されるだろう。
非難されるのは別に構わないけれど、大事にされるのは……面倒臭い。
取り敢えず訊きたい事は聞いた。
「解りました。では、失礼します。」
本日付けでとか言いつつ、結局今日は、A組で授業を受け、A組で宿題を受け取る。
姫花は、今日からA組で授業を受け、A組で宿題を受け取る…と言う事か。
何だかとても、面倒臭い事になりそうだ。
……教室行きたくない。
今直ぐ帰りたい。でも、鞄、教科書、筆記用具、財布…全部教室に置いてあるから、仕方なく教室に戻る。
教室に到着すると、姫花がちやほやされて居るのが見えた。
何と言うか、この教室中に甘ったるい空気が漂っている気がする。
この教室に入りたくないんですけど…
帰りたい。
でも荷物は教室の中…定期も教室内にある……帰れない。
気配を消し、教室に入る。(実際には気配は消えて居ない)
姫花をちやほやしている人達は気付かない。
「庶民臭いと思ったら、A組を追放された庶民が我が物顔で教室に入って来るなんて…」
我が物顔って…教室に色んな物がこの教室にあるんですけど?
追放って何。
色々言いたい事はあるけれど、取り敢えず無視をする事にした。
触らぬ神に祟りなし。
自分の席に着くと、この状況でも我関せずな、冬馬くんを見て少し安心(?)した。
空いている席なんか無かった筈だけれど、姫花は何処に座るのだろう。
…多分退かないといけないパターン?
なんて思っていたら、どうやらその通りらしく、目の前に姫花が来た。
「其処、退いて下さる?」
圧が凄い。何か薔薇とか後ろに見えそうな位、圧が凄い。
机の中の物を全部、鞄に移し替え、お辞儀をして、立ち上がる。
「チッ」
舌打ちが聞こえたよ?
思わず顔を見ると、令嬢として有るまじき表情をしている気がするけれど
気にして居ない風に、移動しようとしたら、隣から伸びてきた手に掴まれる。
いつの間にか目を覚ましていた冬馬くんと目が合う。
「駄目。此処は、君の席でしょ。譲る事なんかない。」
「冬馬!?貴方何を言って居るの?また眠って居て知らないとか言う?」
姫花が声を荒げる。
「知ってる。序に、まだ、特別教室とやらの教室が決まって居ないのも知ってる。」
「この私が、隣の席だと言うのに、断るの!?」
「…俺、保健室で寝るから、此処座って良い」
冬馬くんの手が離れていく。
立ち尽くす、私と姫花。
…取り敢えず、どっちに言ったんだろう。
「私が、冬馬の席に座るわ!」
と言う事は、私、机から道具移動させた意味無くない?
なんて思ったけれど、自分の席に戻る。
…冬馬くんって自由人の様に見せて、本当は物凄く周りの人の事を見て居るのかな。
ただ単に騒がしくて眠れなかっただけかもしれない。(熟睡して居たようだけれど)
「私の隣が庶民なのは、とても不快だけれど、折角冬馬が譲ってくれたのだから座って差し上げるわ」
大きな独り言だ。
周りの人も、ちやほやするのなら、自分の席を貸してあげればいいのに。
と思う。
教師が来て授業が始まる。
教科書を開き、ノートを取ろうとした時、姫花が綺麗な所作で手を挙げた。
「仙崎さん、どうかしましたか?」
眼鏡をかけた初老グレイヘアの男性教師が、戸惑いながら名前を呼ぶ。
「此の授業は何ですの?」
「経営学の授業ですが…本日付で此のクラスに入ったのでしたね…教科書が無い」
話を途中で止め、姫花は叫ぶ。
「違いますわ!此処は高校1年生の教室でしょう?何でこんな…専門的な勉強をしますの?」
「A組だからです」
一刀両断。
説明なし。
「普通の授業は……」
「A組は此れが普通の授業です。これ以上質問が無いようでしたら、授業を開始します」
そうして授業が開始された。
姫花相手に此処迄いえる人、そんなに居ない。
凄い。
年の功最強。
姫花は顔を引き攣らせ、教科書(冬馬の物)を開く。




