懲りない人
やってきました夏休み前日。
学校内は何処も彼処も空調が効いていて、とても、快適です。
教室に集まってから、終業式へと移動するので、入学式で犯した失態はする可能性が無いので
本当に安心している。
移動時も快適だし、走らなくて良い。
まあ、相変わらず学園長の話は長いだろうけれど、今回はきちんと体力温存しているので
その辺も滞りなく。
「だいじょうぶ?」
物凄く不安そうな表情で冬馬くんが訊いて来る。
「大丈夫!」
ニッと笑って見せる。
御令嬢方はしないような笑顔を浮かべている自覚はある。
まあ、令嬢じゃないから気にしないで貰いたい。
移動中ずっと
「だいじょうぶ?」
と訊いて来るのは入学式に倒れたからなんだろうけれど
「大丈夫。」
何度も同じ事を返すのはちょっとキツイ。
終業式会場に到着して、愕然とした。
クラス順の並びは男子生徒の後ろに女子生徒の席があるのだけれど
私の席が無い。
1年A組の女子は私だけだから、入学式の様に出席番号順で座るのかと思ったのだけれど
明らかに席が1つ足りない。
私が座ると別の人が座れない。
こういう状況の時、言いに行くのが正しいと思うから
クラス担任に言いに行くと
何故か姫花が会話をしていた。
「お話し中申し訳ありません」
そう言って話をしようとすると
クラス担任は明らかに怪訝そうな表情をした。
ああこの人も、そう言う人だった。
此の学校の教師は、貴族主義者が多い。
私が態々、教師に質問せずに図書館で調べて勉強をしていたのもきちんとした理由が有った。
「何ですか。」
それにしても、其れを態度に出すとは教師としてどうなんだろうとも思ったけれど
「A組の椅子が一脚足りません。」
そう述べると
「立って居れば良いのでは?」
そう言われた。
「え。」
「平民は立って居る事得意でしょう?…ああ、違いましたね。貴女は例外でしたか。では、床に座っていれば良いのでは?」
姫花はクスクスと笑いながら
「嫌ですわ先生。其れは余りにも、御可哀想ですわ」
そう言って
「教室からご自分がお使いになられている椅子を持って来ては如何かしら?」
と提案して来た。
「まだ時間はありますし?」
「そうですね。そうしたら良いかと」
クラス担任も便乗してくる。
床に直接座るか、ずっと立って居るか、教室から椅子を持って来るか
その選択しかないの?予備の椅子の在りかとかそう言うの教えてくれないの?
よし、サボろう。
椅子を持って来る振りをして、サボろう。
私が此の学園の特待生で居られる条件に、“内申点は含まれない”と記載があった。
そもそも、入学式すらサボろうとしていたので、その時点で素行不良と言われても
可怪しくは無かった訳で、あの時は謎の力が働き、何のお咎めも無かったけれど
流石にあの力は二度目は無いだろう。
まあ、何か言われたとして、
『教室から椅子を運ぼうとしたけれど、間に合わなかった』
とか言おう。
内申点は含まれないと記載があったとしても、今回の事は論外だとか言われて、特待生じゃなくなったら、其れは其れで夏休み中に編入できる学校を探して、そっちに移れる様に手続きをしよう。
とは言え、此の学園から、平民が通う学校に編入したら、其れは其れで居辛そうだけれど、孤独には慣れている。
姫花とクラス担任に背を向け教室へと向かった。




