あっさり、さっぱり
家に帰り、母に泊り掛けのバイトをしても良いかと訊いたら
あっさりと
「良いわよ。気を付けてね。」
許可された。
信頼され過ぎと言うか、信頼し過ぎと言うか。
「忘れ物の無いようにね」
「うん。」
いそいそと、悠先輩に許可を貰えたと連絡する。
【持って来る物は着替えだけで良いよ】
この場合の着替えとは。
下着だけで構わないと言う意味なのか、着替え一式なのか。
訊き辛い。(飽くまで雑用として雇われるだけだとしても、作業着の様なものを用意されている場合もある)
【リゾート地だから、近くに簡単な商業施設があるから、何も持ってこなくてもどうにかなるけれど、其処で気に入った物が無かったら、憂鬱な気持ちで過ごさなければならないだろうし…気にならないのなら、勉強道具位でも良いけれど】
リゾート地?
流石に自宅の方には、使用人とか居るから、雑用は要らないのか。
…近くに商業施設があるリゾート地…
ゲーム内でも出てきた、アレか…。
悠先輩ルートで出てくる、西洋のお城の様な別荘。
遊園地とかのお城かと思ったら、別荘だよと笑顔で言われ
目の前にはプライベートビーチ…
ファンタジーが過ぎる!!!と突っ込んでいたあの頃が懐かしい。
主人公が手料理振る舞ったら、若干焦げて居て其れでも、美味しいとか言って居たのを思い出す。
だが残念ながら、私はそんなミスはしない。
家で普通に家事の手伝いはするし、所謂お婆ちゃんの知恵袋的な知識もある。
まあ、役に立つかは知らないけれど。
…あれ?確かあの場所に行くって事は、私悠先輩と二人きりになるのでは?
『誰にも邪魔される事無く、2人きりになりたくて、使用人を誰も連れて来なかったんだ』
って台詞が在った気がする。
年齢制限が低めに設定されていた乙女ゲームだから、大人なシーンは全く無かったし、寝室は別だったし、鍵をかける描写が在ったから、まさに純愛と言う感じだった。
だがしかし、今回私は飽くまで、雑用と言う名のアルバイトとして雇われる身なので
甘々な台詞を吐かれる事も、一緒にビーチで遊ぶ事も無く、そもそも行き帰り以外で会う事も無いと思う。
恋愛感情も無くただ、バイト先が無い事を見越されて、誘われただけ。
ノブレスオブリージュの一種だと思う。
施しは嫌だと、麗斗先輩の厚意を跳ね除けようとしたのに、今回の件は真逆な事をしている自分の浅はかさに嫌気が差す。
其れに、ゲーム内とは違って、2人で旅行に行くほど親しくはないし、
友人と一緒にバカンスを楽しもうと思って居るけれど、使用人の雇い主は当主であり、悠先輩では無いから。とか理由が有りそうだと思う。
まあ、そんな理由は無いかもしれないけれど。
正直悠先輩は謎である。
ゲーム内では、麗斗先輩に振り回されている系の苦労人であり
でも実は、麗斗先輩が逆らえない唯一の人だった。(弱みを握られているとかではない。)
攻略ルートに入ると、他のキャラの時には明かされなかった腹黒部分が、垣間見える瞬間があったり無かったり。
その部分を主人公に向ける事は無かったけれど、主人公に好意を持つモブキャラ達には、裏で何かしている様な描写が在った。(流石に犯罪まがいの事はしていなかった様だけれど)
ただ、現実世界になった今は腹黒い部分は全く見えない。
ただの苦労人のイケメンな気がしている。
麗斗先輩の物凄く自由度が増している事がその証。
まあ、私が見て居ない所で何かしているのかも知れないけれど、其れは其れ。
取り敢えずは私の夏休み計画としては、早めに夏休みの宿題を終わらせ、類と一緒にアミューズメント施設に遊びに行く。
そして、アルバイトを完璧に熟す。(何をもって完璧なのか)
あっさり、さっぱりとした、夏休みの計画。
…伊織ちゃんと今みたいに話し掛けづらい関係になって居なかったら、他にも計画が出来たかもしれないけれど、今はその事を考えないようにする。
兎に角、夏休みが楽しみだ。




