この世界のヒロインは私じゃなかった

誰も来ない

待てど暮せど誰も来ない。

入学式の時間の前に

教室に来て、荷物とか起きに来るとか無いの？

徐に、黒板近くの時計を見る。

秒針が動(・)い(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

流石に電池切れの時計なんておいてないだろうし、確認するだろうと思うけれど

時計の電池は突然切れる。

とても困る（経験談）

7時45分23秒辺りで止まっている。

多分、私が登校してきた時間がその位だったと思う。

今が何時何分なのか、分からないのは困るので、自分の腕時計を見る。

父親が買ってきてくれた、可愛らしいピンク色のベルトがついている時計。

文字盤は桜になっている。

12と3と6と9の場所だけ桜の花で

他の数字は桜の花びら。

細かい仕事だと思う。

………。

おかしい。こっちも7時45分23秒で止まっている。

本当は校内で使用禁止だけれど

緊急時なので、スマホを出して電源を入れてみる。

時間表示を見ると

7時45分となっている。

…………え。

どういう事？つまり今、時計と言うより時間が動いてないって事？

私はモブだけど一応、ヒロインで

普通ゲームとかだと“主人公(ヒロイン)補正”と言うものがある。

誰にも懐かない猫が懐いたり、普段は温厚な人がツンデレになったり…

ドSな人がドMになっ…（いや、これはただの性癖か）

とにかく、普通ならあり得ない事が起きたりする。

多分今もそう言うことなのだろう。

私が入学式が行われるホールへ向かわないと、時間が動き出さない…みたいな。

そう言うことだと思う。

急がないと。

そんな気がした。

まぁ、時間が動かないので、急いでも急がなくても変わらないのだけれども

私と同じように、動かない時間の中で動ける人が居る可能性がある。

その為にも、私が動かないといけないと思った。

主人公(ヒロイン)補正が生きていればだけれど。

もしかしたら私では無い誰かが“主人公”になって居て

その人の影響かも知れないけれど、私の影響が無いと言い切れない。

とか考える余裕もなく、教室から、入学式が行われる特別ホールへと向かった。