突然のお誘い
教室に行くと、まだ伊織ちゃんは登校して居ないのか、姿が見えない。
自分の机に荷物を置き、いつもと同じ様に、図書室に向かう。
そろそろ、テスト勉強をしないと、凡ミスをしそうな気もするので、勉強を再開。
いつもと同じ、奥の席に座り、高校一年生用のテキストを開く。
授業では使わないノートに、テストに出そうな所を書き出す。
いつもと同じ様に予鈴前に鳴るようにセットしていたアラームがワイヤレスイヤホンから聞こえる。
テキストを本棚に戻し、ノートとスマホを持って教室に戻る。
教室に入ると、いつもは駆け寄ってくる伊織ちゃんが、熱心に本を読んでいるのが見えた。
声は掛けずに、自分の席に置いた鞄の中に、さっき使って居たノートを入れる。
ホームルームが始まる前にトイレに行っておく。
トイレ大事。トイレ重要。
ちなみに、こんな時でも冬馬くんは眠って居る。流石眠り王子。
「こっぺぱん…」
寝言のようだ。
特に大した報告も無いホームルームが始まり、あっという間に終わる。
いつの間にか、伊織ちゃんは教室内に居て、ホームルームが終わると共に教室から出て行ったのが見える。
あからさまに避けられすぎて居て、逆にどんな感情も湧き上がらない。
ただ、意図せずに、目で追って居た。
「ねえ」
眠って居た筈の人から声を掛けられる。
「はい!」
驚いて思わず大きめの声を上げてしまい、一瞬視線が集まるのを感じた。
「伊織は大丈夫だと思う」
大丈夫…とは。どういう意味なのか全く解らないけれど、
「そうなんだ?」
と返しておく。何となく深く聞いてはいけない気がする。
「うん。伊織は強いから」
そう言って、また眠る。
…そろそろ授業始まりますけど!?とか突っ込んではいけない。
寝る子は育つ作戦を実行している訳でもない。
低血圧なのかも知れないなと、ずっと思って居る。
もしくは、幾ら眠っても眠り足りないという体質の人。
とか、暗いと眠れない人。(昼夜逆転とかではなく)
ゲーム内でもその辺は明らかにならなかったから、実際どうなのかは全然知らないけれど。
其れから何もなく、授業が始まり、わざとらしい程に『此処テストに出るから』と言う先生の言葉が聞こえる。
普段教わる内容と全然違う、普通の高校生たちが教わる内容。
中間テストの時に疑問に思って居た生徒達も居たようだけれど、
今回は、その事に関して疑問に思う生徒たちは居なくなっているようだ。
午前中の授業が終わり、私はお弁当を手に、移動する。
学校生活において、初めての一人ご飯。
中学までは、自分の教室、自分の席でご飯を食べないといけない決まりだったから、友達と楽しくお昼ご飯を楽しんだ…と言う記憶は全く無いけれど。
何処でお昼ご飯を食べようかと考えながら歩いていたら、いつも伊織ちゃんとご飯を食べて居た、中庭のベンチの辿り着いた。
けれど、いつもと違ったのは、普段は誰も寄り付かない場所に、女子生徒が3人座って居た。
其処は諦めて別の場所を探す。
けれど、今日に限って、と言うかなんというか…
行く場所行く場所、座れる場所が無い。
一番落ち着けるのは、図書室だけれど、飲食は禁止なので論外。
教室に戻ると、冬馬くんが眠っている以外は、誰も居なかった。
初めから教室で食べればよかったと、思いながらお弁当の包みを解く。
「いただきます」
そう言って、食べ始める。
いつもより遅く、いつもより静かなお昼。
たまに寝言らしき物は聞こえてくるけれど、其れ以外では物凄く静かだった。
お弁当を食べ終えるけれど、いつもの様に図書室で勉強するほどの時間は残されていない為、このまま教室でテストの為の予習をする。
「努力の人だね」
この場所では聞こえてこない筈の人の声がして、顔を上げると
何と言うか微笑ましく私を、見ている人と目が合った。
「何故此処に居るんですか。」
「ああ、冬馬に用があってね…」
呆れた様な視線を冬馬くんに移す、悠先輩。
未だにすやすやと眠って居る。
本当にいつ勉強して居るんだろう。
と言うか、普通に授業中に眠って居ても怒られないって、家の力と寝て居ても頭は良いから、何も言えないのかなと思ってみたり。
「急ぎですか?」
「うん。急ぎじゃなかったら来ないから」
机に突っ伏して居た顔が起き上がる。
そして不機嫌そうに冬馬くんは
「何」
そう言った。
「夏休み、スケジュール開けられそう?」
「夏休み…」
ぽつりと呟くと、私の方を見て
「璃々那ちゃんは」
「あ、私はバイトと勉強三昧の予定だよ」
「バイト何処」
「近所のコンビニの予定」
「遊びに行く」
「遊びにではなく、お客さんと来てくれると嬉しいんだけど…」
「って事で、スケジュール埋まった。」
あ、冬馬くん私の事利用した…
「其のバイトってもう決まってるの?」
と、悠先輩に訊かれる。
「まだ予定ですけど…」(応募すらしていない)
「じゃあ、うちでバイトしない?」
「え」
突然何事。
確か、悠先輩の家は、何店舗かチェーン店を持っていて(高級志向のお店から、庶民向けの飲食店、コンビニ等)その中のどれかに紹介してくれるという事だろうか?
とても有り難い話だけれど、何だかそれって…
「とても有り難い話ですが、お断りします。」
断られると思って居なかったのか、悠先輩はキョトンとしている。
「なぜ?」
何故って…
「経営者の息子が紹介した人なんて、腫れ物に触れるみたいな扱いをされるだけで、大した仕事与えられずに、給料泥棒扱いされるだけじゃないですか!多分」
「えっと…勘違いして居る所悪いけれど…うちの会社じゃなくて」
・・・?
「夏休みに、友人たちと旅行に行く予定を立てて居るんだけど、そこで雑用をしてくれる人を探して居るんだ(泊まり込みで)。うちの使用人は僕が雇っている訳じゃないし、友人たちも、使用人たちを、勝手に旅行に同行させられる権利を持っている者は少ない。」
「家事をして欲しいという事ですか」
「料理は、一緒に行く友人専属のシェフが来てくれる事になって居るし、専属執事やメイドが付いてくる人も居るから、個室以外の掃除くらいなんだけれど…」
雑用とは。
さっき、言って居る事と矛盾してる気が…
使用人を勝手に使えるものは少ない
とか言った後すぐに、
専属の執事やメイドが来るものも居るって…!?
とか言いかけたけれど、
恐らく、身の回りの世話をする人は来るけれど、其れ以外の場所(共同で使用する場所)は掃除とか片付けをする人は居ないから、その辺の事宜しくって事かな?
恐らく。
「其れ以外の時間は、自由だから空き時間が出来たら、遊んでも勉強しても良いよ。君の部屋も準備しておくし」
…ん?
何か知らない内に私が働く事決定してるの気のせい?
「少し考えさせて下さい。」
「夏休み前までに返事をくれると嬉しいな。」
キラキラしている笑顔を向けられると、
「…はい」
苦笑いを浮かべてでも、こういう返事しか出来なくなるんだな…。
イケメン怖い。




