負けない…でも何に?
「誰かお風呂入って居る?」
リビングに顔を出す
「使ってないよ」
類が返事をする。
類はリビングで勉強して居た。
「璃々那、お腹空いて居ない?」
母が椅子から立とうとする。
「シャワー浴びてから、考える。」
母は、椅子に座り直す。
「そう。」
点いているテレビはクイズ番組だった。
回答者に、奏太先輩が居るのが見えたけれど
私は気にせず、バスルームに向かった。
シャワーを浴び、身体がすっきりしたら心もすっきりした気がする。
序にお腹も空いて来た。
着替えて、髪をドライヤーで乾かしてからリビングに行き
「お腹空いたんだけど、今日の夕飯って何だったの?」
「肉じゃが、温め直すわね」
母がそう言って立ち上がる
「お母さんの作った肉じゃが好き!あ、お母さんは座って居て良いよ。自分の事だし自分で」
そう言うと、お母さんは少し寂しそうに微笑んで
「璃々那、甘えられる時は甘えて欲しいわ。」
そう言った。
普段から甘えている気もするけれど、態々そう言うって事は、何か思う所があったのだろうか?
キッチンに向かう母の背を見送り(と言っても直ぐ傍)
類の横に座ると
「お母さん、さっきのりりの様子がいつもと違ったって不安になって居たんだよ」
鉛筆を置いて、真っ直ぐ璃々那の顔を見て、類は言った。
「え、そんなに可怪しかった?」
「帰宅した時から、可怪しい何かあったかなって、言ってたよ」
父も不安そうな表情で璃々那を見る。
「何でも無いよ。思ったより、色んなアトラクションとか、お店が在って見て回るだけでも大変だっただけ。」
嘘は吐きたくない、でも本当の事を言ったとしてもどうにもならないから、そう言う。
「本格オープンしたら、家族で行こうね。」
そう付け加えると
父は、大きく頷いた。
「家族対抗テニス大会とか楽しそう」
類が言うと
「父さんはボウリングが良いな」
表情をきりっとさせて父は言う。(表情に意味はない。得意とかでも無い。)
家族団欒タイムは平和です。
…前世とは大違い。
と思い出したくも無い前世の家族を思い出しかけて、思わず頭を振った。
「りり?どうしたの」
不思議そうな表情で、類が私を見ている。
「ボウリングのボールの重さはどの位が良いんだろうって、考えて居たら余計に分からなくなって」
我ながら下手な誤魔化し方だと思う。
「重ければ良いって物でも無いだろうしね。」
「そうそう。全然解らないんだよね。」
そもそも、ボウリングをした事が無い気もしている。
「父さんが教えるから、期待しておくと良いよ!」
父は珍しく、どや顔をしている。
「楽しみにしておくね」
そう声を掛けると同時に母が、テーブルにご飯を並べる。
「頂きます」
そう言って手を合わせた後、ご飯を食べ始める。
暖かな視線に囲まれてご飯を食べるのは、気恥ずかしい。
私は幸せなんだ。と実感している。
どんなに苦しい事があっても、辛い事があっても、こんなに優しい家族が居るのだから、私は大丈夫。
何があっても負けない。




