誰か夢だと言って欲しい
折角、逃げたのにあっさりと
見つかってしまった上に、断り辛い言葉を使用し
ついうっかり、取材を受ける事になってしまった。
そして、カメラを前に横には冬馬くんと伊織ちゃん
斜め前に奏太先輩と言う
両手に花よりももっと何か凄い状態で(此処に来てからずっと語彙力不足気味)
全国放送の生放送に出る事になってしまって居る。
スタッフの人達が静まり返り
カウントダウンが入る。
「奏太の!今日のおすすめスポットのコーナー!」
タイトル普通。
「今日は、もう直ぐオープンを控えている、室内テーマパークのプレオープンに来ています!」
さすがプロ、ナチュラルに進行始めている。
「プレオープンという事で、お客さんはそんなに居ないのですが!偶然出会った人たちにインタビューしたいと思って居ます」
確かに偶然には違いない。
…思って居た以上にインタビュー来るの早くない?まずどういう施設なのか説明してから…
「こんにちは!今日は何を楽しみに来ましたか?」
「ボルダリング」
即答の冬馬くん(まだ諦めて無かった)
「え、ボルダリングあるんですか!」
「うん」
「へー…って、俺はやらないですよ?何かスタッフさんたちの期待の視線が…」
そんなふうには見えないけれど、まぁこれも、視聴者に期待を持たせるための方法なのかなと冷静に
「そちらのお兄さんは」
「おに…」
一瞬衝撃を受けたような表情をする、伊織ちゃん
「え、っと…スイーツショップも数多くあるので、スイーツ巡りしようかと」
「スイーツ!良いですね!俺も一緒に回ろうかな」
え。このまま取材でついて来る訳じゃないですよね
「そちらのお姉さんは」
「え」
スイーツ巡りは伊織ちゃんに言われちゃったし…
「そうですね…雑貨屋さんも入っている様なので其方を見て…」
あれ、何かさっきよりもスタッフさんの視線が痛い様な気がする。
そう言う回答求めてないみたいな。
転生前、こういう目つきをされた時を思い出す。
就職面接で、落とされた時の企業の面接官の人達の目と同じだ。
「奏太先輩、なんで他人行儀なんですか」
伊織ちゃんが、吹き出すように笑いだす。
「え」
戸惑う、奏太先輩。
「さっき、泣きそうな目で、ボク達に応えて欲しいとか言ってきたのに。」
「な、泣きそうな顔では無かったと思うんだけど!?」
「俺達に断られたら物凄く困るって言ってた」
空気が変わる。
「えっと…実は、彼等俺の通う学校の後輩で…仕込みとかでは無く、偶然会ったんですけど…気軽に話しかけられる人達があまり居なくて困って居たら知ってる顔を見かけて思わず安心してしまったんですよ…泣いてはいないです」
…何か、伊織ちゃんと冬馬くんに助けられた?
「こっちが質問ばかりされるのも、違う気がするので、ボク達も質問良いですか」
「え、いや」
「奏太先輩は、何処に行こうと思いますか?」
意地悪そうな笑顔を浮かべて、伊織ちゃんは訊く。
「え、俺は別に…」
たじたじな、奏太先輩。
「おすすめは、」
「ボルダリング」
此処に来てまでボルダリング押しの冬馬くん。
スタッフの人が手をくるくる回しているのが見える。
「じゃあこの後は、実際に色々体験しちゃいます!」
恐らくコマーシャルに入ったようだ。
「ボク達はもう良いですよね?」
さっきまでの笑顔と打って変わって、不機嫌そうな表情を向ける
伊織ちゃん。
「あ、うん。有難う」
「行こう、璃々那ちゃん」
「あ、うん。」
その場から急いで離れると
伊織ちゃんは、大きな溜息を吐く。
「テレビの人ってあんな感じなんだ?明らかに欲しい回答じゃなかった時の態度、悪すぎて、思わず笑っちゃったよ。」
「あ、助けてくれて有難う。」
「気にしないで?ボクの発言の時から態度可怪しかったし」
「室内アトラクションがメインだからって、スポーツ系を答えなきゃいけないって決まりがあるなら、先に言って居て欲しいよね」
むすっとした表情の、冬馬くんが言う。
気分を切り替えた伊織ちゃんが笑顔で
「よーし!じゃあ、気分を切り替えてスイーツ巡りしちゃおう!」
そう言って拳を上に突き上げた。
「おーーーーー」
同じように拳を突き上げた、冬馬くん(だが、棒読みだ)
スマホが着信を伝える。
画面を見ると、類からだ。
「弟から電話だから先に行って居て貰えるかな」
「急用?」
伊織ちゃんが訊いて来る
「どうだろう。でも電話なんて珍しいから」
「うん。じゃあ先にスイーツ頼んでおくね」
「宜しく」
伊織ちゃん達が背を向けたのを見送って
「どうしたの」
電話に出る
『テレビ、出てた、何で』
語彙力どうした。解りやすいけど。
「一緒に居た人がどうしてもって頼まれて」
『何で男2人居た』
「其れについては、私も吃驚したんだよ」
『取り敢えず、録画はした』
「何で」
『母さんが永久保存するって』
「其れは止めてって言っておいて…」
恥ずかしすぎる…誰か夢だと言って




