突然の雨は恋を急激に
それなりに頑張ったテスト期間が終わり
何とか私は、学年トップを維持出来た。
日々の勉強のお陰。
と言いたいけれど、冬馬くんと伊織ちゃんと
大和…くんのお陰も大きいと思う。
大和くんとは直接一緒に勉強した訳では無いけれど
テスト範囲を教えてくれて居なかったら、厄介な問題で困惑していただろうと思う。
引っ掛け問題があって、難しい問題を当たり前に熟しているAクラスの生徒は
其処で間違える人が多かった。
たまに、SNSで載っている“まだ習っていない漢字を使っているので間違いです”とか
“この公式はまだ習って居ないのでまちがいです”みたいな問題。
その辺を回避できてよかったと思う。
テスト期間が終わったとほぼ同時に来るのは
そう。“梅雨入り”
雨と言えば、スチル祭りだったな…
傘を忘れて、攻略対象者に傘に入れて貰うとか
逆に傘を忘れた攻略対象者に傘を貸して相合傘とか
道端に捨てられている猫に傘を差しかけているのを目撃する…とか。
雨ならではのシチュエーション。
まぁ、今の所、そんな予定は無いし
基本的彼らは、車で送り迎えされているので、そもそも傘の必要性が無い。
私も、お気に入りの折り畳み傘は常備しているし、何なら教室のロッカーに別の折り畳み傘も置いている。
困らない。(折れるフラグは折っていくスタイル)
道端の猫は…そもそも、居ない。
居たとしても、気付かない。雨の日の雑踏の中で、ネコのか細い声に気が付けるほどの聴力は持ち得て居ない。
至って普通位の聴力しかないので難しい。
「ね、次の日曜日暇?」
唐突に、伊織ちゃんにそんな事を言われた。
「予定は無いよ」
「じゃあ、一緒に今度新しく出来る室内テーマパーク行こう!」
断る理由は無い。
「うん」
休日のお誘い初めてなんですが!?
浮かれて良い?
「じゃあ、日曜日に璃々那ちゃんの家の近くのコンビニに午前9時に待ち合わせね?」
「うん」
午前中だけ?それとも何処かにご飯食べる所あるんだろうか?
もしくはお弁当持参?コンビニ待ち合わせって事は其処でお昼買う…?
「えっと…お昼ご飯って…」
「テーマパーク内にフードコートあるんだって。動きやすい格好で、来てね」
うん。
気にしないようにと思ったけれど
何だろう此の違和感。
ゲーム内のキャラが言うみたいな…
気のせいなら良いな。
そう思った。
授業が終わり、図書館に寄って、本を読む。
テスト明けだから少しだけ、勉強と関りが無い物を。
と言うか最近授業以上に勉強をするのを止めてみた。
勉強漬けにしなくても、此の学校に残るためにする事は
ある程度出来て居る。
最近読み耽って居るのは
あの謎エリアの本達。
ウサギのパイが出てくる作品(ウサギが主役)の隣に、
ウサギのパイの作り方(世界中のパイの作り方が載っている本)が置いてあるのは、
やっぱり悪趣味だと思うけれど、
そのレシピの本の中にあった南瓜パイのレシピから、
植物の本なんかは興味深い。
最適な土壌や、気温、其れに適してない環境での南瓜の作り方…
其処からの南瓜の馬車(あれ、南瓜縛り?)が出てくる有名な物語の本童話の横には
その元々の原作(初版)結構えぐい。
因みに勿論翻訳はされていない。
此れを寝物語に読まれたら、悪夢を見そうだとも思いながら
読み耽る。
ふと顔を上げると、外は土砂降りだった。
さっきまで晴れていたのにと思って時計を見ると、
かなりの時間が経過していた。
早く帰らないと!そう思い、元の場所に本を戻す。
昇降口に向かい、バッグから折り畳み傘を取り出す。
出入り口付近に人影が見える。
「あの…どうかしたんですか」
「傘を忘れた」
水も滴るいい男している(?)のは、生徒会長の麗斗だった。
「予備があるのでお貸しします。」
そう言って、手に持っていた折り畳み傘を渡すと
キラキラした笑顔で
「ありがとう!君は何処の女神だ?」
「いえ、私は女神ではありません」
と言う謎の会話をした。
そうして、意気揚々と折り畳み傘を差して帰る麗斗を見送った。
私は一度教室に戻り、予備の置き傘を使用し、駅に向かった。
きっと、ドレスの事なんて覚えて居ないんだろうな。
そう思いつつ、雨の中靴の中に水が入りながら歩く。
靴下がずぶ濡れで気持ちが悪い。
ふと、店の軒先で雨宿りをしている人を見かける。
「……」
本日二人目の水も滴る良い男している人。
1年B組藤堂蒼。
何して居るんだろうこんな所で。
こっちが一方的に知っているだけで、向こうは知らないであろう人…
話し掛けても不審がられるだけだろうけれど
この雨は当分止みそうにない。
もしかしたら迎えを呼んで居るかも知れないけれど
もし万が一困って居たら…そう思って声を掛けてみる。
「あの、大丈夫ですか」
「何が」
物凄く訝しんでいるのが分かる。
「あの、私怪しい物じゃないです。」
大体怪しい人が使う言葉。
「伊織ちゃんの同級生で、雛川 璃々那と言います。ええと、以前伊織ちゃんと冬馬くんが、藤堂さんの載っている雑誌を購入して見せてくれて…」
何の話をして居るんだろうと思いながらも話を続ける。
「その…困って居そうだったので話しかけたのですが…」
「…」
やっぱり話し掛けない方が良かった…
「大丈夫だ」
「そうですか…」
「雨が止むまでここで時間を潰す」
雨脚は強くなる一方で止む気配はない。
「お迎えに来てもらうよう連絡してみるとか…」
「スマホも財布も忘れた」
傘も無いですよね…
「あ!冬馬くんか伊織ちゃんなら、藤堂さんのご自宅の電話番号知って居ますか?」
「冬馬の家は近所だ」
「じゃあ、冬馬くんに連絡してみますね」
「…アイツに連絡しても直ぐに返事は」
【今、学校の近くの雑貨屋さんの前で、藤堂 蒼さんがスマホも財布も傘も無いみたいで困って居るみたいなんだけれど、冬馬くんから、藤堂さんのお家に連絡取れないかな?】
とメッセージを送ってみる。
【分かった。雑貨屋の名前は】
数秒で返信が来た。
「伝えてくれるみたいです。良かったですね」
そう伝えると
「え、あ、うん。ありがとう」
困惑したように、お礼を言われた。
場所を冬馬くんに送り
「では、私は駅まで急ぐので」
そう言って駅への道を進む。
「変な人」
珍しく笑顔を浮かべた、蒼が放った一言は雨音に消されて、璃々那の耳には届かなかった。




