脳に直接話し掛けられたよ(多分)
あの後、直ぐに予鈴が鳴り、悠先輩とは、その場で別れた。
ダンスパーティーの誘いが来たら早めに断る対策が出来るかもしれないと考えながら、
教室に戻ると、女子生徒の姿は無く、さっきのは、夢だったのでは無いかと思う程、いつも通りだった。
いつも通りに授業が始まり、いつもの様に、すやすやと冬馬は眠っている。
昼休みに入る少し前に目を覚まし、昼を知らせるチャイムが鳴り、教師が授業の終わりを告げると、立ち上がる。
いつもの様に、大和と共に昼食に行くのかと思いきや
「お昼」
私に話し掛けてきた。
「そうだね」
「俺も一緒に行く」
「え」
私を呼びに来たと思われる伊織ちゃんが明らかに嫌そうな声を上げる。
「駄目?」
伊織ちゃんの方は見ずに、私に訊いて来る。
「いや、駄目とかではなく…」
「姫花の所に行かないの?」
「あの場所狭い。」
「前から分かってたのに、今更?」
「俺もランチボックス作って貰ったから、一緒に食べられる」
そんな話をしていたら、朝に居た女子生徒達(十数人は居る)が
廊下から
「雛川さんに“女の子にしか出来ないお話”がありますの」
呼び出された。
「今から昼食なので…」
「あら、私達もそうですわ。ご一緒に食べましょう?」
先頭に居る女生徒は艶やかな金色の髪は綺麗に縦ロールに巻かれている。
童話のお姫様みたいだと思った。
「ボク達が先に約束していたんだけれど?」
「い…伊織様っ」
数名の女子生徒が悲鳴に近い声を上げ、頬を紅色に染めている。
「で、でも、いつもご一緒に食べていらっしゃいますよね?今日は私達に譲って戴けないかしら?」
「譲るって…璃々那ちゃんは、物じゃないよ」
「分かっていますわ」
「ねえ、璃々那ちゃん。嫌なら断った方が良いよ」
そう言われると逆に断り辛い。
「えっと、お昼ご飯の時間だけなら…」
そう言ってから
「ごめんね?伊織ちゃん、松川くん。今日は彼女たちとご飯にするね。」
「ボクは構わないけれど…」
「うん。明日は一緒に食べよう」
正直何を言われるのかは怖い。
此のクラス自体男子生徒しかいないし、私は唯一の庶民入学者だ。
しかも、姫花に目を付けられているし、昨日着ていたドレスは生徒会長から渡された物で…
流石に、物理的に何かされるとは思って居ないけれど…
「では、食堂に参りましょう」
逃がしませんわよと言いたげに、私は女子生徒に四方八方を囲まれ、食堂へと進んだ。
正直歩きづらい。
歩幅を合わせるのってキツイ。
そんな後姿を見送り
伊織と冬馬は
「どうする?ボクは璃々那ちゃんに気付かれないように食堂でご飯にするけど」
「俺も、そうする。」
「…姫花から誘われてるんじゃないの」
「あの場所狭い」
そんな会話をして、さり気なく(?)食堂まで着いて行った。
――食堂――
「あのドレス、何故貴方が着ていたのか、ご説明戴けます?」
いきなりその質問をしてくるのか。
そう思った。
「私がドレスを持っていないという事を知り、哀れに思った方が態々届けてくれただけです。」
「わざわざ…ねぇ。」
顔を見合わせる、女子生徒達。
「わざわざ、婚約者が居る方が、貴女みたいな庶民にドレスを贈ったと言われて、納得する人なんていないわよねぇ?」
このパターンは誰が贈ったのか知ってる感じか…
「そもそも、ドレスの贈り主と話したのは、昨日が初めてですし…私はお断りしたんです。」
「会話自体は初めてでも、あの方と仲が良い方に頼んで貰ったのでは?」
ドレスが欲しいとは頼んで居ない。
寧ろドレスが無かったら、パーティーに参加しなくても良くならないかな?とかは考えていたけれど。
「そう思いたかったら、そう思っていただいて結構です」
恐らく何を言っても言い訳みたいにしかならない。
そう言って、席を立とうとすると
『勘違いしない事ね。この世界は姫花様の為にある…姫花様だけの世界なのだから。』
脳内に誰かが直接話し掛けてくる感覚に陥った。
此処には居ない誰かの声。
『本来なら存在しなかった筈の…が……』
脳内に聞こえて居た声が聞こえなくなる。
周りを見渡して、私を訝し気に見る視線から逃れる様に、
お弁当入れを手に、走り去った。
怖いとか、居心地が悪いとかそういう事よりも、あの場所に居たくないという思いが
私の足を走らせた。
逃げたくなんかなかった。
逃げる事で弱いという印象を付けたくなかったから。
でも、気が付いたら走り出していた。
裏庭の花壇の陰に蹲るようにして座る。
本来は存在していなかった筈…
私の事を言って居るんだろうか。
姫花様の世界…
私は此処はゲームの世界に転生したと思って居たけれど
もしかしたら、全然違う場所なのかもしれない。
この世界に似たゲームの世界その中で
姫花は、悪役令嬢キャラだった。
でも、このゲームをプレイする側の人達には
姫花がヒロインだった話が読みたいとか
姫花ヒロインの二次創作が作られたり、
SNSで原案者の一人が“実は姫花をヒロインにと考えていたのですが…”と言う発信をしたことがあった。
そのコメントに、姫花ファンが“私も姫花様主人公の作品が見たいです”なんてコメントをした影響なのか、その原案者が、SNSで本来ならこうしたかったと言う“姫花ヒロインの作品”を大量に発信し始めた。
公式の人がしてはいけなかった行動に、純粋なゲームファンは、嘆いた。
いや、してはいけないと言うより、公式にはしないで欲しかった事と言う表現が正しいかもしれない。
姫花ヒロインの作品に、ゲーム内のヒロインである璃々那(デフォ名)は出てこない。
…もしかしたらこの世界は、誰かがこの作品をモチーフにした、二次創作の世界なのかもしれない。
其処に本来なら居てはいけない私が居たせいで、この世界がおかしな事になり始めた…
とか…
そう言う風に考えれば、辻褄が合う様な、そうでも無い様な。
飽くまでも二次創作だから、原作側の何かが働いて、私がこの世界に転生してしまった可能性も…
なんて馬鹿げた事を考えてしまったのはさっきの謎の声のせいという事にしておこう。




