逃げ道は一つしか知らない。
翌日、教室に入ると見慣れぬ状況に陥っていた。
男だらけのクラスに女生徒が溢れていた。
クラスの男たちが全員女装していたとかいう落ちでは無く
普通に他のクラスの女子生徒が押しかけていた。
「ちょっと顔を貸していただけます?」
私を見ると1人の生徒がそう言ってくる。
「え、嫌ですけど」
「まぁ!庶民なのに断るなんて生意気ですわ」
えぇー--…何その言い分…
「私、暇じゃないんで…」
踵を返して逃げる。
流石に多勢に無勢は不利。
逃げるな立ち向かえとか、無理。
例え今逃げて後々何か不利になるとしても今、自分の身は自分で守るしか無いのだから、逃げる。
(廊下は走ってはいけません。だが捕まる訳にはいかない)
と言うか何しに来たんだろう?
普通に生きてて、顔を貸せって言われると思わなかった…
逃げた先は、当然の如く、図書館。
鞄を置く暇も無かったので、普通に鞄持って来ちゃったし…
逃げたと言っても足は遅いので、多分何処に入って行ったかはバレてるだろうし…
でも流石に図書館で騒ぎを起こそうとかそんな人達では無い…筈。
机に置く暇も無かった鞄を手にしている。
今の内に予習をとも思ったのだけれど、そんな気持ちにはなれず、
奥まった所にある本を色々見ていく。
この辺りの本は、謎のジャンルで童話があったと思えば、その横には料理の本があったり
そのまた隣には、動物の生態が事細かに書いてある本が置いてあったり…
一見雑に置いてあるのかと思いきや
実は、童話に出てくる料理が載って居たり
料理に使っている動物の生態を記してあったり…
地味に繋がりがあったりする。
こういう並びにした人は、絶対変態だと思う。
セクシャル的な変態では無く、生物学的な意味の変態でもなく、
趣向的な意味の変態。(因みに褒めている。)
「何か探し物かな?」
小声で話しかけられ、背筋がぞわりとする。(話しかけられると思って居なかった為)
振り返ると悠…先輩が立って居た。
「あ、いえ…この辺りの本の並びが気になって…」
小声で返すと
「あぁ…ある意味余計なお世話な並び順…」
どうやら、悠先輩はこの並びの意味を知っているようだ。
「まぁ、この辺りは、とある人物の趣味嗜好が詰め込まれている場所だから…」
何となく察してしまった。
ゲーム時にそんな描写は全く無かったが
所々に変態っぽい表現は有った(褒めている)
「流石にウサギのパイの出てくる本の横にウサギの飼育方法の本はどうかと思うよね」
「分かります。」
まだ、ウサギの生態の本の方が良かった(そういう問題ではない)
「嫌ならこの辺りの本には近づかないように…」
「あ、嫌とかではなくて。他の場所が綺麗にジャンル分けされているので疑問だっただけです。興味深く、気になった事を直ぐ調べられるので有難くもありますし…シリーズものとかの場合続きはこのエリアにあると言うお知らせ付箋も付いていますし…借りられている場合その前後の本に何日までに戻ってくる予定と…」
ハッと気が付く。大きい声は出していないがオタク特有の早口で語ってしまった…。
小声でオタク口調が一番鬱陶しいと理解しているのに、やってしまった。
「多分その事本人に言えば、凄く喜ぶと思うよ。」
「あ、其れは遠慮しておきます。」
即答。
「そう言えば昨日結局ドレス受け取ったんだね」
あの場合受け取らざるを得なかったと言うか…
「できれば受け取りたくなかったんですけどね」
「そんなに嫌だったの?」
え、貴方、あの場に居ましたよね?姫花が私に言い掛かりを付けていた所に。
其れなのに、そんな事言います?
「庶民の胃は高級な食べ物は受け付けないんです。」
と言っておこう。
「そうなんだ…」
そうなんです。食べた事無いから知らないけれど。
「じゃあ次はダンスパーティーにするように伝えておくよ」
「踊れないので…」
「来月からダンスの授業始まるからその辺りは心配しなくても大丈夫」
大丈夫ではない。
1年A組は女子が私しかいない。
伊織ちゃんを女性側とカウントしても良いなら(ダンスでの女性側の話)
2人になるが、それでも圧倒的に女性側が少ない。
「あ」
「どうしたの?」
「いえ、ドレスが無いんです」
「麗斗が渡したドレスは?」
「あれは、とある人に預けて居て、クリーニングして戴いたら返す予定ですし…」
「…多分また、何故受け取らないって追いかけられるよ。其れに幾ら洗浄されても、一度は他人が着た物だし…」
そう言う物なのか…
適当に貸衣装屋さんにでもドレスを借りて置けば良かったと、今更ながら後悔をする。
「は」
そうか、貸衣装やリサイクルショップからドレスを入手したらいいのか。
「ダンスパーティーの日にちが決まれば早めに教えてくれませんか?今回のパーティー知ったの前日だったので」
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悠先輩は、笑顔でフリーズした後
「え」
とだけ言った。




