濃い昼休み
昼休みになり、約束通り
伊織ちゃんと一緒に学食へと向かった。
因みに学費は免除だが、
それ以外は、実費だ。
しつこい様だけれど、ゲームの中でのヒロインは
攻略対象者の誰かに奢って貰っていた。
チートヒロイン羨ましい。
と思う反面、庶民なので高級な料理を急に食べたらお腹壊さないかと言う不安も抱えていた為、
普通にお弁当持参(食中毒予防のため保冷バッグ使用)してきて良かった。
そう思いました。
「オベントウ?」
伊織ちゃんは、お弁当その物を知らないらしく、
物珍しそうに、私のお弁当箱を見る。
因みに私のお弁当箱は、幼少期から使っている
正義のヒロインが描かれているお弁当箱だ。
私が通っていた小学校、中学校には“給食”と言うものが存在せず
勿論学食も無い。
お弁当やパンを家から持っていくという学校だった。
その影響で、お弁当箱はもう10年ほど使い古されている。
まぁ、小学3年生位の時からお弁当箱が1つでは足りなくなった為
途中から別のお弁当箱も増えた。
そっちは100円ショップで買ったシンプルな青いお弁当箱。
普通に2段弁当用のお弁当箱を買えば良かったのだろうけれど
「あ、魔法ガールエレンだ」
後ろからそんな声がして、慌てて振り返ると
ゲーム内唯一の2年の攻略キャラ
五十嵐 奏太が後ろから私のお弁当箱を見て言っていた。
襟足長めで紫髪。チャラ男。
「懐かしー、俺もそれ観てた」
そう言ってさり気なく(?)私の座って居た席の向かい側に腰を降ろす奏太先輩。
「え、何?これ有名なの」
伊織ちゃんは、ぎゅっと私の右腕にしがみつくようにして聞いてくる。
「え、知らないの?俺ら世代の子に結構人気で、そのお弁当箱も今ネットオークションで10万円近くの値段で取引されてるよ」
「じゅ…」
10万!?因みに私が買ってもらった時の値段は1000円位だった。
「10万円出せば買えるの?」
「うーん?ネットオークションだからね…欲しい人が沢山居ればそれなりに値上がりする可能性もあるし…」
「なんだ。折角璃々那ちゃんとお揃いで使えるかと思ったのに」
「璃々那ちゃんって言うんだ?俺、五十嵐 奏太。奏太先輩って呼んでくれると嬉しいな」
と言って何故かウインクして来た。
何故か。
語尾にハートが見えた気がするのはきっと気のせいだ。
チャラ男怖い。
そう言えば
「伊織ちゃん、ランチは?」
「席決めてから買おうと思ったんだけど…」
「ん?俺の事は気にしないで行っておいでよ」
そう言う奏太も何も持っていないように見える。
「五十嵐せ」
「奏太先輩って呼んで欲しいな」
間にテーブルがあるのに物凄く距離が近い気がする。
「無理強いは良くないですよ」
伊織ちゃんの発言がなんか刺々しく聞こえる。
「貴方もランチ買わなきゃなんじゃないの」
笑顔なのにやはり棘を感じる。
「璃々那ちゃんを一人にしたら危険って事を解りつつ、席から離れられないんですが?」
「それは大変だ。でも大丈夫俺が居るから(棒読み)」
『それが不安だって言ってるんだろうが』
隣から野太い声が聞こえた気がする。
小声だから何を言ったのか聞き取れなかったし
声がした方を見ても
伊織ちゃんが可愛く微笑んでいる事しか判らない。
「そう言えば、五十嵐先輩もランチ頼んで居ないんじゃないですか?」
そう訊くと
「俺、昼はプロテインバーしか食べないんだよね。」
にこやかにそう言った。
「っち」
隣からガラの悪そうな舌打ちが聞こえてくる。
(いや、ガラが悪くなさそうな舌打ちなんか無いけれど)
「急いで買ってくるから、気を付けてね?」
伊織ちゃんは私の腕を放して、食券を買いに行った。
貴族が通う学校なのに、食券購入方式と言うスタイルなのは
注文後すぐに温かいご飯を提供出来る、庶民レストランを参考にしたのだと言う。
待ち時間も短くなり、画期的な物…らしい。
庶民レストランに行っても戸惑わずに購入できる勉強になるとか
ならないとか…。




