隣の席の眠り王子
次の日学校に行くと
まだ早い時間なのに、既に隣の席に人が居た。
松川 冬馬ゲームの中では
眠り王子と称されて居た。
彼の寝顔はそれはもう天使のようで、見たら幸せになれるとか何とか。
ゲームの中では1番の癒し系だった(なお、今の私の中で最大の癒しは弟だけれども)
眠り王子と言われる位だからゲーム内で彼は
かなりギリギリに登校してくるイメージだった。
(冬真ルートに入ったら、ヒロインが家に迎えに行ったりした)
其れなのにまだ、校内に生徒がまばらにしか居ない今、既に登校している。
机に突っ伏して居て、ふわりふわり揺れる緑色の緩い癖のある髪。
眠って居るんだろうなと思い、起こさないように
自分の席に鞄を置いて、図書館に向かおうとすると
突然腕を優しく掴まれた。
「え」
驚いて、腕を掴んでいる人を見れば
眠っていると思っていた冬馬だった。
いつの間に起きたのか分からないけれど、もし眠りを妨げた事に対して怒って居たらと思うとゾッとする。
別に眠りを妨げたり、無理やり起こしたりすると、暴走するとかそういう類の事は無いけれど、それこそ元と色々変わって居る世界だ、その位ありそう。
「髪切ったんだ…似合ってる可愛い」
ふにゃりと微笑み、掴んでいた腕を離し、彼は再び眠りに落ちたようだ。
な、なんだったの。
ちょっと待って?
え?どういう事?
だって私はヒロインじゃなくて、ただの特待入学生で
本来なら昨日有った筈の出逢いのシーン全カットで
一言も言葉を交わしていない所か冬馬を認識された気もしないのだけれど?
特に入学式ずっと寝て居そうな冬馬の事だし…
其れなのに「髪切った?」って
もしかして、昨日保健室に運んでくれたのは…
其れは無いか。
何があっても起きなそうだし…
だったらなんで今起きた?
いろんな考えが頭の中を巡っては消えていく。
入学式では離れた席だったし、いつ何処で私を認識したのだろう?
いやそもそも、寝ぼけていて私と誰かと勘違いしただけかもしれない。
きっとそうだ。
そう言う考えに至った後、私は図書館へと急いた。




