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第9話 困ったような


 閉館までのカウントダウンが鳴り響くなか、新学期が始まり、そこで杉村くんに出会った。名前を知ったのもその時で、クラスへ転校してきた彼は、スポーツが好きで野球部へ入る予定だと自己紹介をしたけれど、映画好きだとは一言もいわなかった。


 そのときは転校自体に驚いてしまって、映画好きを隠しているとは思わず、なにも考えずに声をかけてしまった。


 普段、地味でおとなしく積極性のかけらもないあたしにしては大胆に、転校生に、それも男の子に声をかけることができたのは、きっとあたしの映画好きのなせるわざだったに違いない。ときに思わぬことをしでかし、それを後悔し、よけいに委縮してしまう。それがあたし。あたしから映画を取ったら、そんなあたしが残る。


 その日も、まわりから見られていることを忘れてしまったように、あたしは杉村くんに声をかけた。


 クラスでも目立たず友だちも少ない、もちろん彼氏や男友達もいないあたしの行動に、みんな興味津々だった。


 あ、あの、あたしのこと覚えてる?


 なけなしの勇気を振り絞った問いかけへの答えはなく、杉村くんは困ったような顔をしていた。まわりから見られ、ほおが紅潮してくるのがわかった。あせったあたしは、え、映画館で二十日鼠はつかねずみと人間、みてたでしょ? あたしも見てたの、と相手の顔も見ずに口に出したけれど、やっぱりなんの返事もなく、顔をあげると、さっきと同じ、困ったような杉村くんがいた。


 まわりで見ていたほかの男子が、あたしと杉村くんの顔を交互にみながら、


「なになに、新手のナンパ?」


と笑い、それにつられたようにクラス中が笑いに包まれた。あたしは顔をあげられず、ほおを火照ほてらせながら席へ戻り、杉村くんがどんな表情でいたのかはわからなかった。


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