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第7話 分度器


 あの時の笑みがすべてのはじまりで。その瞬間に恋に落ちたわけじゃないけれど、たしかに角度は斜め下をむいたのだと思う。


 たがいに声をかけることもなく、やがて客を追いだしに、もとい、座席の清掃にきた映画館のスタッフを尻目に、重い扉をあけて外へでた。

 なんとなく別々の扉から通路へ出たものの、映画館から表通りへ出たところで、また一緒になった。数歩先に外へ出た杉村くんの背中は、大きくて、日の光にまぶしく輝いていた。ただ、杉村くんはそのまま歩いては行かず、外へ出てすぐ、右側のひさしの影に入った。あたしは左側のそれへ。


 アスファルトのにおいと熱気がまじりあって屋内へ吸いこまれていく。その途中にあるあたしの体は心地よくあたためられ、ほぐされていく。まぶしい日の光に目を細め、衰えることのない永遠の夏を思う。


 激しく力強いセカイを感じる。


 入道雲とはよく言ったものだ。みあげた青い空には白い巨人が立ちはだかり、あたしたちを見下ろしていた。ちらりと横目でみた杉村くんも目を細めて空をみあげていた。その頃は名前も知らず、だれとも知らない彼と同じ夏を味わっていることを思った。


 何秒か何十秒かたっても微動だにしない杉村くんを後にして、あたしはひびわれた歩道へと足を踏みだした。そうすることを求められているような気がして。決してそんなことはないのだろうけど。


 あたらしく生まれ変わったようなセカイへ力強く足を踏みだしたあたしは、しかし、荒れた歩道に足をとられてこけそうになった。みょうに恥ずかしく、感じるはずのない視線を背中に感じながら足早に。さよなら。


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