第23話 坂の下にて
秋の風を感じながら、残暑が厳しいからまだ夏だと自分をだます。でも、それで時が止まるわけもなく、わが町最後の映画館の閉館日はやってきていた。そして、いまや過ぎ去ろうとしている。
最後のレイトショーは、むかし懐かしのジブリ映画だった。子どものころにDVDでみたトトロを、杉村くんと一緒に映画館でみているというのは、それだけで不思議な感じがした。窓辺に置かれたトウモコロシをみて、父さんのカレーを思いだす。
その日、杉村くんは、遅くなった夜道を家まで送ってくれた。
映画館がなくなるという寂しさはどこかへ消えてしまい、ほんのりとあたたかい火が胸に灯っているかのようで。秋の風と秋の虫とがうるさいくらいだった。
自宅がみえる坂道のしたで、あそこがあたしの家だから、ここでいいよと別れ、つかれた足で坂道をのぼり始めた。
初めて出会った日に転びかけたことを思いだして慎重に足を進める。数歩すすんだ先で振り返ると、彼はまだ坂の下で見守ってくれていた。その姿をみると、なんだか涙がでてきそうで、代わりにあたしは、ねぇ、と声をあげた。ねぇ、あたしさ、と言いかけたところへ、
「待った。俺が先にいう」
と声を被せて、
「好きだ」
と、また数秒の白いスクリーンのような時間が流れ、車のライトに照らされた彼の顔がみえる。それは横顔じゃなく、
「好きだ。おまえの優しいうしろすがたが、好きだ。映画館から外へでたあと、その背中をみるのが好きだった」
と真正面から飛んできた言葉を打ち返せるほど強くないあたしは、ただ、
あたしも、きみが好き。
と、つぶやくように応じた。




