第22話 空気
さした影は、杉村くんのものだった。
ほんの数秒、上映が終わったあとの白いスクリーンをながめるときのように静かな時間が流れた。時間はあたしの味方でも敵でもない、そんなことを思った。落ち着いた穏やかな声があたしの名前を呼ぶ。
「どうしたんだ、こんなところで?」
ふだんなら、きっと、なんでもないと答えただろう。けれど、あたしはもうあたしを取りつくろう余裕はなく、杉村くんを待っていたの、と応じた。また数秒の停止、続けて心配そうな声で、
「まさか、あさからずっと待ってたんじゃないだろうな」
と問われ、こくりとうなずいた。
だから連絡先を交換しようって言ってたのに、だれかに電話番号をきいてくれたら、それで良かったのに、と狼狽した様子の杉村くんに、あたしは、あたしが待ちたかったの、と、それだけを伝えた。
「そうか。ありがとうな。きょうは野球の試合があって昼間は来れなかったんだ。本当は俺も朝から来たかったんだぜ」
やっぱり閉館の日だから? 見たい映画があったの? そう尋ねると、首を振って、
「いや、おまえに会いたかった」
と言ってくれた。とにかく中へ入ろうと連れられて入った館内は、ふわりとあたたかく、しずかで穏やかな空気に満ちていた。ああ、この空気がなくなるのか、と閉館を実感する。




