第17話 どっちでもいい
原因は夏野菜のカレーだった。
その日も連絡先をきかれて、断るでもなく教えるでもなく、ふわりと流して話を変えてしまった。それが父さんのカレーの話。
旬もすぎたというのに、まだまだ残暑が厳しいからと、わが家では飽きもせず夏野菜のカレーがでてくるのだった。
ちょっとしたグチであり、かるい雑談として披露しただけで、ちょっとした共感をえられればそれで良かった。なのに、
「それって、お父さんが可哀そうだよ」
と、まじめな答えが返ってきた。
え、でも、と、まだ茶化して終わらせてしまおうとするあたしを許さず、
「映画のことでは好き嫌いや自分の感想も言えるじゃない。どうして食べ物のことでは言えないの?」
と重ねて尋ねてきた。あたしは、だまったまま時間を味方につけようとするけれど、
「どっちでも、なんでも、きみの好きなのでいい。映画館でも、喫茶店でも、口癖のように言ってるよね。それって、相手を大事にしているようで、実際は、どうでもいいって言葉と同じ。あんたなんかどうでもいいって言ってるのと同じだぜ」
と止めを刺された。
まだ半分以上のこっているコーヒーフラペチーノがもったいないと頭の片隅で思いながら、あたしは無言で立ちあがった。お、やるか? と拳を構える彼に、帰る、とだけ告げた。
「なんだよ、文句あるなら言えって」
いらだちとともに投げられた言葉を打ち返すように、言えたら苦労しない! 自分だって映画好きを隠してたくせに。そう言って店をでた。
パタパタと通り過ぎていく両脇の店舗が、閑散として、すでに閉店してしまったように目の端を流れていく。




