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第四話「逃走劇」

「見てくれマナ、あそこなんか休むにはちょうどいいんじゃないか?」

「本当ですかご主人様!?」


 気が付けば辺りは既に暗くなり始めている。

 俺と同様に危機感を感じていたマナは、寝床にできそうな場所を伝えると慌てて駆け寄ってきた。


 俺が見つけたのは切り立った崖にできた幅が五メートル程の洞窟。

 洞窟と言っても外から見た感じでは何十メートルもあるような深いものではない。


 とりあえず中を調べて見ることにしようと洞窟に近づいたところでマナに服を引っ張られて止められる。


「ど、どうして平然と入ろうとしてるんですかご主人様!?」

「どうしても何も、自分の目で確かめないことには始まらないだろう」

「この洞窟に魔物がいる可能性も考えられるのですから、もう少し慎重に行動してください!」

「何、やっぱりいるのか魔物が!?」

「当然です、ここはもう異世界なんですよ」

「それならもしかして、茂みから出てきたあいつも魔物だったりするか?」


 流石は異世界と思った矢先、俺の視線の先に体長四メートルはあろう銀色の体毛を纏う熊のような生物がいた。

 あれがマナの言う魔物だろうかと指を指してみる。


「ひいっ!」


 それを目にしたマナは驚いて悲鳴を上げると、銀熊も威嚇するように咆哮を上げた。


「グガアアアア!!」


 空気を震わせるような銀熊の咆哮が辺り一帯に広がる。


「逃げますよご主人様!? あの特徴的な銀色の体毛はシルバーグリズリーです。今の私たちが敵う相手じゃありません!」 

「待て、マナ」


 慌てて逃げ出そうとするマナを俺は制する。


「あいつを仲間に……いや、友達になろう」

「馬鹿言わないでください! 魔物と友達になんてなれませんよ!!」


 至って真面目に提案をしたのだが、マナは聞く耳持ってくれずに強引に俺の手を引っ張って走り出してしまう。


「それはわからないだろ? もしかしたら通じるものが何かあるかも知れない」

「もしそうならあんな鬼のような形相で追って来ません! きっと巣を荒らされたと思って怒っているんです!?」

「それに、あいつをモフモフしたら気持ち良さそうじゃないか?」

「その前に絶対殺されますよ!? 馬鹿なこと言ってないで走ってください、このままだといずれ追いつかれてしまいます! プロテクション!!」


 全力疾走する中でマナは追いかけてくるシルバーグリズリーに向けて手を伸ばして魔法を発動させる。

 

 プロテクションは光魔法に分類される初級魔法の一つ。指定した場所に光の障壁を展開することができる。

 森の中を彷徨っている時も即席の足場として何度も活躍してくれた。


 しかしシルバーグリズリーはマナが発動させたプロテクションに勢いよく衝突して一度は足を止めるが、すぐさま怒り狂ったように腕を振り下ろし、バリィン!と音を立ててプロテクションが破壊されてしまう。


 プロテクションの強度は術者の技量に依存する。故に今のマナではあの巨体の攻撃を防げる程の強度は保てなかった。


 ……た、確かに友好的な態度とは言えない、か。


「やはり初級魔法ではDランクの魔物に通用しません」

「Dランクっていうのは何なんだ?」


 如何にも異世界らしい単語を耳にして聞かずにはいられない。


「はぁっ、はぁ……少しは状況を察してくださいご主人様。というよりも、どうしてそんなに余裕なんですかっ!?」


 走りにくい獣道を全力疾走しているのでマナが激しく疲労しているのは一目瞭然だ。しかし俺はと言えば、そんなマナと並走しているにも関わらず不思議と疲労感はない。


 明らかにそれが異常なことだとは理解できるが、今のマナにその原因を考えている余裕など無い。


 俺たちはただ真っ直ぐ逃げるだけではなく、小回りが利く人の長所を生かして周囲の木々を巧みに利用して逃げ道を探している。

 更に要所要所でマナが発動させるプロテクションで銀熊の追走を妨害することで、何とか追いつかれることなくやり過ごしていた。


 しかし銀熊の気が変わるより先にマナが限界を迎えた。


「きゃあっ!」


 プロテクションを発動しようとして足元への注意が疎かになったことで、マナは地面から隆起した木の根の存在に気付くことができずに足を引っかけてしまったのだ。

 魔法の発動には魔力と集中力が必要になるため精神的な疲労は蓄積されていく。肉体的、精神的な疲労が溜まる中でここまで集中力を維持できたことこそ称賛されるべきことだった。

 

「っ!? マナ!!」

 

 マナが転んだのを見て俺は急ブレーキをかけて足を止める。

 するとどこにそんな力を隠していたのか、シルバーグリズリーが大きく跳躍するように地面を蹴ってチャンスとばかりにマナに襲い掛かる。


 マナは咄嗟にプロテクションで防御しようと試みるが、既に魔力の限界を迎えていたのか発動に失敗する。


 このままじゃマナが死んでしまう。

 そう考えた瞬間、自然と俺の身体は動いていた。


 マナに襲い掛かるシルバーグリズリーに対して俺は体当たりを仕掛ける。

 圧倒的な体格差があるために本来なら何の意味も持たないであろうその攻撃は、俺自身も予想していない結果をもたらした。


 シルバーグリズリーに接触して壁にぶつかるようなドンッという衝撃が走ると、次の瞬間にはその巨体が遥か後方へと吹き飛んでいく。

 ぶつかった木々を諸ともせずにへし折りながら数十メートル先まで飛んだところでようやく停止した。


「……ご主人様、いったい何が」


 その光景を間近で目にしたマナは理解が追い付かないのか、開いた口が塞がっていない。

 

 いや、これは……

 先ほどから薄々感じていた疑問がここで解消される。


「……あぁ、女神様。頑丈な身体が欲しいとは願いましたが、いささか限度というものが」


 無数の星々が点在している夜空では、女神セレンが「てへぺろ」と誤魔化すかのように星が一つキラリと光った。


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