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プロローグ

「俺の人生も終わりか……」


 ピクリとも動かせなくなった自分の身体を前に、並木錬ナミキレンは真っ白な天井に向かって呟いた。

 もう長くないと死期を悟った錬は、走馬灯のようにこれまでの人生を思い返す。


 錬は生まれた頃から病弱な体質だった。

 その影響で外で遊ぶことはもちろん、幼稚園や小学校に通うことすらもできずにいた。


 それでも錬は寂しいと思ったことは一度もない。家には物心ついた時から一緒に暮らしている愛犬のマナがいたからだ。


 マナは病弱な錬を気遣ってくれたのか片時も錬の傍を離れずに、テレビを見る時も本を読む時も寝る時もずっと一緒にいてくれた。錬にとってマナは家族であると同時に、友のような存在でもあった。


 しかし錬の容体は快復することなく日に日に悪化してしまい、遂には十二歳を迎えた時に余命一年の宣告を受ける。

 更に錬にとって不幸は重なり、余命宣告を受けてから半年後にマナが息を引き取ってしまう。


 死因は病死でマナが患っていた病気は激しい痛みを伴うものだったらしい。

 錬の病気は明確な治療法がなかったことに加え、家のすぐ近くに病院があったことから自宅療法が認められていた。

 そのため毎日マナの姿をすぐ近くで見ていたにも関わらず、錬はマナが苦しんでいた様子を一度たりとも見たことがなかった。


 きっと錬に心配を掛けまいと必死に我慢していたのだろう。

 その事実を知った錬は、止めどなく涙を流した。


「俺はお前に何もしてやれなかった」

「いっそ自分も死んで楽になりたい」

「マナの所へ行きたい」


 そう考えた錬だったが、きっとマナは錬に長く生きてほしいと思っている。そんな気がしてならなかった。


 だからこそ錬は空から見守っているであろうマナにもう一度元気な姿を見せるため、病院に入院して効果があるかもわからない副作用の強い薬の投与を始め、今日という日まで弱音一つ吐くことなく頑張って来た。


 余命宣告の一年を超えて更に三年、普通なら高校生になっている歳になった。

 担当医からは信じられないと驚かれたぐらいだ。


 辛くなかったかと言えば嘘になる。怖くなかったかと言えばそんなことはない。

 一日でも長く。そう強く願ってやれることを全てやってきた結果だ。


 悔いはない。


 閉じていた重い瞼をそっと開く。

 錬が寝ているベッドの周りには家族が涙を流しながら見守っている。


 両親には自分の事で数えきれないぐらい迷惑を掛けてしまった。

 まだ中学生になったばかりの妹に死という現実を身近に感じさせてしまうのは申し訳ないと思う。


 謝りたいことはたくさんある。

 だが、錬は最後の言葉はこれしかないだろうとずっと前から心に決めていた。


 自分に残った最後の力を振り絞って錬は笑う。


 そして―― 


「ありがとう」 


 自分の意思とは無関係にゆっくりと瞼が落ちていき、口も動かせなくなった錬は心の中で投げかける。 


(……今行くよ、マナ)


 長かったようで短かった十五年。並木錬ナミキレンの人生は終わりを迎えたのだった。

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