ただの泡ですが、すっごいイケメンに出会ってしまいましたが、浮気はしていません
最近何だか、ただの泡の様子がおかしい。
上の空というか、泡が一部目減りして、どこかに行っている。……何だろう。男の勘が、その行動をすごく怪しいと言っている。
「なあ、最近どこに行ってるんだ?」
俺の言葉に、ぱしゃんと泡がはねた。
どうやら驚いたらしい。ますます、怪しい。まさか、浮気なのか? えっ? 本当に?
「おい。どこの馬の泡に会いに行ってるんだ?! 答えろ」
『……泡には会ってません』
「なら、人魚か?! 結局、人魚の雄をお前は選ぶのか?!」
分かっている。俺とただの泡は全然違う。生まれも育ちも、種族も、生態も!! むしろただの泡となった彼女と似ているところを探す方が難しい。でも俺は、それでもただの泡と一緒に居たいと思ったのだ。
確かに俺はただの泡に助けられてばかりだ。何も返せていない。だからなのか? だから俺は今、捨てられようとしてるのか?
『違います。浮気じゃないですよ。ただ、ちょっと、イケメンと出会ってしまって。人間でいうアイドル鑑賞に行っているんです。人間だって、アイドルを愛でるだけなら浮気じゃないですよね?』
「確かにそうだが……人魚のアイドルなんだよな」
間違いが絶対ないと言いきれないのは、俺が人魚を知らないからだろう。
冷静になれば、人間もアイドルと付き合うなんて、ほぼ絶望的だ。
『人魚じゃないです』
「ん? なら人間か?」
その方が、ますます問題だ。俺よりもいい肉体美を持っているだと?
どこのどいつだ。
『違います。人間は今も王子以外は見分けがついていないんですから。出会いは、庭の池でした』
「庭の池? ……ここのか?」
人魚でも人間でもなく、更に出会いが庭の池。
……えっ?
『はい。なんとも美しい色味の殿方で、うっとりしてしまいます。種族は、錦鯉と言ってみえました。人間からも鑑賞されるほど、素晴らしい鱗の持ち主なんです』
……錦鯉。
思い浮かぶのは、カラフルな魚だ。手足も髪もない、魚類だ。確かに美しい色味だろうが……。
俺は果たしてただの泡が人間になるまで、愛想をつかされずにいられるだろうかと、不安になる。……大丈夫だよな?
後日、俺が錦鯉を睨みつけていた為、王子は錦鯉が好きだという噂が流れ、周りから錦鯉が献上された。そして池の錦鯉はアイドルユニットになり、ただの泡が小躍りするのだった。