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ただの泡ですが、万能泡なので大掃除頑張ります(おまけ)

改稿完了おまけで、王子視点です。

ただの泡が聖なる泡となってから、子供が生まれるまでの間の話です。

 年末も近づいてきて、城の中が少しあわただしい。

 年始を綺麗な状態で始めるために、年末は使用人たちが日ごろ使わないところも綺麗にする。勿論俺が住まう離宮も例外ではない。


「……カーテンはこんな色だったか?」

 俺はふと自室に取り付けられた、カーテンの色味がいつもと違う気がして首を傾げた。部屋に入った時から何かが違うと感じ、順番に確認をしていたが、カーテンの色が違うのではないかという結論に思い至った。

 カーテンは刺繍の施された厚めの生地を使用しているが、そもそもこの国でカーテンを使う者は少ないので特注だ。だから同じ柄のカーテンはないので、もしも新しく作るならまた特注となるだろう。

 果たして俺の部屋のカーテンを特注して差換える理由はあるだろうか? 例えば掃除をしていて破ってしまったとして、内緒で別のものに変えようとしても、そんな簡単にこのカーテンを作れるとは思えない。

 だが、俺が毎日見ていたカーテンと色が違う気がする。見比べられないので、絶対とは言えないが……。


「どうです。綺麗になったでしょう?」

「……どうやってやったんだ?」

 えっへんと胸を張るようにアーチを描く泡を見て、この怪奇現象がただの泡によるものだと確信する。綺麗になったという事は、元はこの色だったという事だろう。

「えっとですね。実践しますね。例えば、カーテンにこんなお茶のシミができてしまったとします」

 そう言って、ただの泡はどこからともなく取り出したカップのお茶をバシャッとかけた。薄いクリーム色のカーテンの一部が茶色に染まった。

「そしてこのシミの部分にくっつきます。すると……」

 ただの泡はうにょうにょと動いて、カーテンをよじ登った。そして気が付いた。ただの泡が通ったところの茶色が消えているのだ。


「なっ?!」

「きめの細かいただの泡ですので、汚れも綺麗に吸収できます」

 そう言うただの泡は茶色っぽくなったが、徐々に茶色が一部に集まっていき、黒に近い茶色の泡がほんの指先ていどの大きさに凝縮したかと思うと、窓の外にポイっとその部分を捨て、また元の純白の泡に戻った。

 ……俺は何を見せられているのか。


「いや。えっ?」

「汚れを吸い取り、ギュッと一ヵ所に集めてポイです」

「いや。えっ? ポイって。いや、それも泡の一部だよな?」

「人間も排泄しますよね。似たようなものです」

 ……捨てられたのは、排泄物? いや、確かにただの泡がトイレに行くような場面に出くわした事はないけれど……。そもそもただの泡には髪の毛もなければ爪もない。一部とったとしても、痛みがないのなら、それに準じたものと思えばいいのか?

 ただの泡には自分の体を大切にして欲しいけれど……うーん。俺は、ただの泡の生態を理解しきっていないので、しっかりとした話し合いというか常識の擦り合わせが必要だと感じた。


「ちなみに、埃だけではなく、油汚れも対応できます」

「……そうなのか?」

「お皿から煙突のすすまで。ただの泡に不可能はないのです」

 万能すぎるな、俺の泡は。

 ただ皿に関しては、それは綺麗になったと言えるのだろうか? 皿についた残りをなめとったに近いだと、綺麗と言うよりむしろ――。いや、でも、待て。そんな事を言ったらただの泡が傷つく。ただの泡は好意でやっているのだ。

 それに、ただの泡は、現在聖なる泡としてこの国に知られているのだ。ならば聖なる泡なので、彼女の泡が汚いなんてあり得ないのではないか? むしろ浄化したと言ってもいいのでは?


 しかしそう思うのは俺がただの泡が特別だと認識しているからか?

 それとも一般国民もそういう感覚なのか? ……調査が必要だ――ちょっと待て。

「ただの泡は、皿を綺麗にした事があるのか?」

「はい。万能泡ですから。厨房の人には、泡ちゃんと呼ばれ、マスコットになっています。仲良くなってから焦げた鍋も秒で綺麗にしたりしてますよ。だから今は大掃除のお手伝い中なのです。どんどん城を綺麗にしますよ!」

「お、おう」

 王子の婚約者が掃除。……ただの泡がやりたいなら、仕事を取り上げるべきではないが、周りはどう思っているのか。万が一、泡に悪意がある者がいたら――。

「さらに最近は私を見ると幸運になれると言われています。私、幸運の聖なる泡です」

「……そうか」

 俺よりずっと周りの方が適応力が高かったようだ。

 いつの間にか、城の使用人の心もわしづかみする、俺の泡は、やっぱりすごい泡だ。うん。


「だから毎日私を見て、さらに触れる王子は、もっと、もっと幸せになって下さい」

 そんな可愛い事を言う泡に、俺はこれ以上ない幸せを感じた。

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