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私はただの臣下ですが、殿下を愛しています。

従兄の公爵子息視点です。

「殿下は今日も幸せそうで何よりだな」

 彼の息子と一緒に鯉に餌を上げている姿を見て、ほっこりした。

 昔、池の中に突然飛び込まれた事もあったので、幸せそうな光景を見ると安心する。例えその足元に泡があって、少々普通の家族と違ってもだ。



 私が殿下と出会ったというよりは、一方的に見たのは、殿下の五歳の誕生日の時だった。五歳までは公の場に出る事がなかった彼の初めての誕生日会。

 私の第一印象は、とても大人しい少年というものだった。

 というのも、私の父は今は公爵だが、元をたどれば現国王の兄だ。母親の身分が低いだけで、父が国王になっても良かったと我が家の祖父と母は常々口にされていた。私も殿下がお生まれになる前は、継承順位が二位。生まれた今も三位だ。だから彼らはお前こそが王になるべきだとよく言い、生まれたばかりの殿下の事は、悪しき様に我儘に違いない、泣いてばかりだという話だなど、悪口を言っていた。

 だからその言葉を鵜呑みにしていた私は、きっと彼は癇癪持ちなのだろうと思っていた。

 でも実際は、とても物静かな少年だった。


 彼はパーティーの間中、ずっと静かに椅子に座っていた。五歳の子供がだ。

 私が五歳の頃はパーティーの間中、静かにただ待っているなんてできなかった。だから少し滞在した後は、別室で遊んでいた。他の貴族の子供もそうだと思う。だから普通は社交に出席できる年齢になるまでは公の場には出ない。私や殿下などの、よっぽど身分が高く、早めにお披露目が必要な場合のみだ。

 そしてだからこそ、多少の失敗も多めに見てもらえる。しかし殿下は、何の失敗もせず、まるで人形のようにその場に最後まで座っていた。

 そしてその態度に対して、祖父と母が、気味の悪い王子だといい、きっと知恵足らずに違いない。異国の血が入っている者が次期王など寒気が走るなどの言葉を家で吐いているのを聞いて、ようやく気が付いた。祖父と母は悪意というレンズを通してしか、殿下の事を見ていないのだと。


 何も考えず真っ直ぐ見れば、そんな言葉などでないはずだ。

 どうやら父と叔父の王位継承権が争われた頃に、色々あったようで、祖父と母は現王家に対して面白くないようなのだ。特に祖父は、こちらこそ兄だったのだから王位は父こそ継ぐべきで、母はこの国の国母になるべきだという考えが強いらしい。

 母に関しては、面白くないのは事実だが、それほど王位継承にこだわりはなさそうだ。というのも、王妃となればそれだけの責任などが生じる。その点公爵家は元々彼女の実家だ。ここに居る限り、母は自由であり、贅沢な暮らしもできる。王妃の方が贅沢ができると言うのは間違いであり、王妃であるからこそ国のお金はきっちり管理されているし、自由も少ない。そのことを分かっていた。


 ただ母が殿下を悪く言うのは、周りが私と殿下を比べようとするからだ。祖父の所為もあり、周りはとにかく王家と比較する。王家より早く男児を産んだ事をことさら褒めるのが、何よりの証拠だ。彼女は比べられ、何か劣れば非難されるのが嫌で、あちらを悪く言うのだ。それが彼女なりの対処法だったのだろう。

 私の父は、決して王も殿下も悪く言わない。力がない為、祖父らを諌める事もうまくいっていないが、母に対しても、絶対比べる事はなかった。

 母も父だけの言葉を受け入れられれば苦しむ事もなかっただろうが、いかんせん外野の声が大きすぎた。

 

 そんな風に冷静に私は私の家族を見ていた。

 そんな折、父は私が弟に似ていると話した。馬で遠乗りをした時の事だ。周りに誰もいないタイミングで、そう私に伝えた。

「私が似ているのは当然では?」

 父を通して繋がっているのだ。

「そうだな。お前も弟も、私と違い幼いころから利発だ。……だからこそ、どうかお前は殿下と仲良くして欲しい。できるだけ、積極的に」

「積極的にですか?」

「弟は、多分私と自分の能力差はないと思っていたようだが、私は最初から彼が王になるべきだと分かっていたよ。運悪く私が愛し合った女性が公爵令嬢でいらぬ諍いを起こしてしまったけれど、私は王位に興味なんてなかったし、彼ほど意思も強くもなかったからね。そしてね、弟は周りに助けを求めるのが下手なんだ。自分を犠牲にして解決を図ろうとする。多分、殿下も同じタイプだと思う」

 父はそう苦笑した。

「ここだけの話、義父はそれほど先は長くない。公爵家の平均寿命を考えるとね、そろそろコロッと行くんじゃないかな? 義父が死んだ後は、私は殿下が王となれるように立ち回ろうと思っている。ただ先に聞くが、お前は王になりたいかい? ただしなりたいと思っているのなら、それだけの覚悟もいる」

 父の言葉に私は首を横に振った。

 王になりたいとは思わない。あの次期王になる為の椅子に座っている殿下ですら、人形めいたその姿に孤独を感じた。あの場に座りたいかと言われれば、否だ。


「良かった。私は王になりたくないし、できれば殿下には少しでも心穏やかにいて欲しいと思ったからね。それで話は戻すけれど、殿下はお前より年下だ。だからお前が積極的に殿下のいいところを見つけてやりなさい」

「いいところですか?」

「ああ。いいところを見つければ、それは好意となる。どうしても君の祖父と母は、悪い部分を見つけてしまうようだからね。ちゃんと自分の目で見極めてあげなさい。そして悪い部分を見つけても、必ず年下であるという事は忘れないように。幼いという事は、間違える事もあるという事だ。そこからどう成長するかが大切だと私は思っている」

 そんな話を父とした翌年、祖父が本当にコロッと亡くなった。父が殺したのではないよなと少し思ったが、間違いなく病死と医師が診断した。……つまり私も晩年は祖父の年齢あたりが危ないという事か。気を付けよう。


 まあそんな感じで、父は公爵となった。

 父が公爵になると、母の殿下を悪く言う癖が消えた。更に殿下の母親が亡くなるという事件が起きた事で、母はどちらかというと殿下に同情的になった。父が上手く母に言ったのか、それとも同じ母親として、幼い子供を残して死んだ状況を見て思うところがあったのか詳しくは分からない。でも公爵家の空気は確実に殿下に同情する空気となり、私も殿下のいいところを探しやすくなった。


 まず頭が良いのは間違いない。更に、いつでも冷静に判断するようだ。年齢を考えれば、正直できすぎなぐらいだと思う。

 努力も欠かさない。公務をこなしつつ勉学をし、体も鍛える。母親を亡くしてからはなおさら、その努力の部分が大きくなった気がする。それは少々痛々しいと思わせるぐらいに。

 彼に問題があるとすれば、人との関わりが少ない事だろう。全く関わらないというわけではなく、仕事としては関わっている。でも心を開いた様子はない。

 彼はどうやら、人と関わるのが苦手なようだ。それを面白く思わないものもいる。殿下の判断は公平だ。でも公平すぎて血が通っていないという者もいる。


 父の言っていた周りに助けを求めるのが下手というのはこういう事だろう。仕事の分担は問題ないが、殿下はあまりに自分を出さない。

 それと同時に、父の言っていた、年下である事を忘れるなという言葉も理解した。周りの貴族は公平すぎて心を開こうとしない殿下に苛立ち悪しき様にいう者もいる。それこそかつての私の祖父や母のように。でも子供になにを求めているんだという話だ。

 殿下はまだ子供で、必死に、ただ必死に王太子の役割を果たそうとしている。心を開いて欲しいのなら、ちゃんとこちらが歩み寄るべきだし、一度歩み寄って駄目だから見捨ててどうするという話だ。殿下は、そんな余裕が出せないぐらい必死に努力しているのだ。

 だったら、それを支えてやるべきだ。苦手な事があるなら、周りが支えればいい。殿下は間違ったことをしているわけではないのだ。


 そんなこんなで、殿下を支えようと貴族の人脈を作り早数年。

 殿下の様子を毎日眺め、いいところを探し続け、その結果――。

「私の殿下は、賢いし可愛いなぁ」

 もう、何ていい子なのだろうといつも思う。

 子供を持つような年になっても。

 だからこれからも支えて行こうと思う。幸い泡の奥方のおかげで、殿下の心に余裕が出て来て、少しずつ苦手としていた貴族とのつながりにも心を配るようになった。

 疲れすぎてしまわないよう、これからも手助けをしていきたいと思う。そうすればきっと殿下の周りはさらにいい方向に進むと思う。


 最近母が、そろそろ結婚をというけれど、私が一番好きなのは殿下だからなぁ。

 父はそこまでのめり込むとは思わなかったと苦笑しているが、結婚結婚と五月蠅く言わないので、もうしばらく殿下を愛でつつ助けつつしながら、こんな私でも受け入れてくれる女性をのんびり探そうと思う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 殿下を一緒に愛でてくれるようなお嫁さんが来ますように。 公爵とうさまは、いいこといいますね(´▽`) 悪いとこよりいいとこ探し。 見つけすぎて、不動の一番。最優先で、並みのご令嬢ならわたし…
[良い点] 公爵子息、弟以上で別方向にやべえ奴だった(^^; 前半あれだけいい話で進めといて、このオチはひどいwww 公爵もこんなことで苦労するとは思わなかっただろうなwww
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