僕はただの弟ですが、兄は超優秀な王太子です。
王子の弟視点です。
僕は小さい頃母上から寝物語のように、兄上の色んな話を聞かされてた。
「貴方のお兄さんは、とても素晴らしい人よ」
「貴方のお兄さんは、とても頭が良い上に、勤勉よ。いつまでも学び続ける事を忘れないわ」
「貴方のお兄さんは、とても冷静な方よ。とても平等に物事を見るのに長けているわ」
「貴方のお兄さんは、とても武術が得意よ。でもそれをひけらかそうとはしないわ。必要な時必要な場所で使えるよう、いつも鍛練されているの」
基本は兄上を褒めるものばかりだ。
母は昔、兄上の乳母をしていたという。だから余計に兄贔屓な部分があるのかもしれないが、兄は城の者達からも優秀だと言われていた。兄は物静かな方で、あまり人と接しない。だからそれに対して影口をいう貴族もいるけれど、仕事はしっかりこなし成果を出すから中々表立って文句が言えないみたいだ。
その上兄上は人と接しないからか、情やゴマすりで判断を変える事がないので、不正とか色々やりにくいらしいね。
兄上は目的を決めたら、そこに行くまでの方法を機械のようにこなしていく。ただし機械の様だといっても融通が全く効かないわけではない。問題が起これは、立ち止まり軌道修正する。情では判断せず物静かだけれど、必要ならばちゃんと言葉にする。ある意味、徹底的な能力主義ともいえる。
そんな完璧な兄の異母弟。世の中の人は、僕がコンプレックスまみれで、兄を妬んでると思うんだよね。さらに僕はまだ年齢が若い。だから僕なら御しやすいだろうと思って、僕が王位につけば裏から操れると野心をたぎらせている人も多い。
だけどそんな事を考えている人は、頭かち割って足りない脳みその代わりに胡桃でも詰めておけって思うんだ。そもそもさ、兄上が優秀だったのは僕の年ぐらいからもう完璧人間だったんだよ? 分かる?
兄上がスラム街の縮小政策を始めたのもその頃。
えっ? 知らない? 勉強が足りないよ。頭の中何詰まっているの? 今まで何を見てきたの? その目ちゃんと見えていないなら、銀紙でも貼っておく?
大きく騒がれ始めたのは、本格的に政策が動き出してからでしょ? 簡単にスラム街がなくなるなら、今までの王が何もしないわけないじゃん。
兄上は、まずスラム街の現状調査を始めたんだ。人口比率や就職率、薬や犯罪率。人を使い情報を集め、自分も実際に暮らして、何が足りて何が足りないかを確認したそうだよ。普通はそんな事できないよね?
そして兄上は、ひとまず先に子供の救済処置から始めた。結局は行く当てがない人、働けない人があそこに溜まるからね。孤児などは養護施設に入れ、親がいても親が働き養ってないなら養護施設に入ってもいいしそのままの状態で学校へ通うように義務付けた。学校へ通えば、必ずご飯を付ける。それを持ち帰って親に渡す子もいる。だから学校では定期的に、発育検査を行い、成長度合いも見ていく。
結局はスラムで育った子はスラムでの生き方しか知らないから、スラムの人口が減る事がない。そういうわけで、兄上はスラム育ちを減らすことから始めた。
その次に仕事斡旋と住居の斡旋。結局は地方で仕事がないから都会に来たけれど、都会も人が溢れすぎて超過している為に働けずスラムを作る。なので兄上は、地方に仕事を作り、移住をさせて行く。何らかの問題で働けない人は、立ち直る為の斡旋と生活保護。
犯罪は貧民だろうときっちり取り締まり、でも状況によっては職業訓練などをさせ、働き口を紹介する。
完璧にスラムが消えたとは言いきれないけれど、かなりの改善ができたと思う。それに兄上はまだまだ対策をとっていく予定みたいだしね。そしてそれは僕には絶対できないと思うんだ。
僕は兄上よりも感情的に動いてしまうし、必要だからといってスラムで生活しようという勇気もない。
というわけで、分かるかな?
僕は感情的に動いてしまうんだ。大切な事だから二回言ったよ?
そして僕にとって兄上はヒーローで、憧れなんだ。妬みはないのか? うーん。そもそも、兄上のようになりたいけど、兄上になりたいわけじゃないし。兄上は王太子だから、その所為でとても苦労が多いんだ。兄上は誰よりも忙しく、誰よりも孤独で、だけどそれでも他人を思いやれる素晴らしい方なんだよ?
そんな兄上に成り代わりたいとか、馬鹿じゃない?
ああ、馬鹿だから、僕をそそのかして兄上をどうにかしようとしてるんだよね?
正直に言うとね、僕、すっごく、怒ってるんだ。
うん。とーっても。
でね、僕はまだ子供だからさっきも言ったけれど、感情的に動いてしまうんだよ。ムカつくゴミムシがいたらね、プチっと潰したくなるんだ。
ほら、子供って残酷でしょ?
仕方ないよ。子供だもの。
それにね、父上も、僕ではなく兄上に王位を渡そうとしているんだよ? すでに、もうこれは決定事項なんだ。まあ地盤を盤石にする為に結婚相手を勝手に用意しようとしたのは僕としても納得できないけどね。というか、兄上の隣に立てる女性なんて、この世にいないんじゃないかな? だって兄上だよ? 勿論兄上が心に決めた人なら文句は言わないよ。泡でも人魚でも。だって兄上だって、弱さを見せたい事もあるだろうし、それはきっと年下の僕ではなれないだろうから。
王兄?
ああ。そんな人もいたっけ? でも、あの人、僕の兄上より民に何かしたっけ?
はっきり言って、自分の感情優先して、周りの迷惑考えず公爵令嬢と結婚したんでしょ? だったらそれなりの根回しやフォローをちゃんとすればいいのに、それができなくて、公爵家にいいように使われてたって話じゃん? 父上と兄上の母上が、この国で内乱がおきないようにうまく立ち回ったんでしょ?
そんな先見性がなくて、自分の欲だけ優先する人が王? 笑わせてくれるね。
まあ公爵子息はそれなりの人みたいだけど、僕の兄上に何かしたら、潰すよ? 別に公爵家が彼らでなければいけないという事はないでしょ? 世の中、だからちゃんとスペアで分家を残してるんだし。
というわけでさ。
兄上の邪魔をするなら、僕は容赦しないよ?
「とりあえず、海に沈む?」
「やめなさい」
「あっ、兄上!! ど、どうされたんですか?!」
僕がちょっとおいたをした貴族相手に、している事の無駄さについて語っていると背後から兄上に声をかけられて、びっくりした。
僕の護衛に誰も部屋に入れるなと言っておいたけれど、兄上は別枠だもんね。仕方ないよね。
それにしても、いつも会いたくても会えないのに、わざわざ会いに来て下さるなんてどうしたんだろう。僕、変な恰好していないかな?
久々に会った為にそわそわしてしまう。同じ城にいるにも関わらず、僕が兄上に合える日はほとんどないのだ。
「シャボンから、無茶をしていると聞いて来たんだ。……こういうことはしなくていい。面倒な貴族が来たら俺に声をかけなさい」
「えっ。声をかけてもいいんですか? あっ、でも、兄上の手を煩わせるのは……」
「大丈夫だ。貴族の人間関係、金回り等の情報は全て把握してある。勿論弱みも。正確に報告してくれればどうするか俺が判断する」
僕が頼りなくて信頼されてないからそういう事を言われるのかなとも一瞬思ったけれど、僕の報告を待つという事は、僕が言ったことを信用してくれているという事なんだよね。つまり兄上は、子供の僕がこういう汚れ役をやらなくていいと言っているんだ。
本当に、優しいよね。
でも知ってるんだ。僕のお母さんがお父さんと結ばれるために、兄上のお母さんを利用していた事。その子供なのだから嫌われたって仕方だない。だから会いたくても僕はずっと我慢してたんだ。嫌いな奴の顔なんて見たくないでしょ?
「ヘンリック」
「は、はい!」
「この先俺が王になるならば必ず助けてもらわなければならなくなる。だから……ヘンリックの事を、信頼したいと思っている。色々人としてかけたところもある俺だが、助けてくれないだろうか?」
「当たり前です!! 僕は、兄上を助けたい」
少し困った顔で言われて、僕は反射的に答えた。
ずっと昔から、僕の夢は王になる事じゃなくて、兄を支える事だ。
「だったら、ちゃんと報告してくれると嬉しい。俺も子供だからという理由で、相談なく処分を決めないようにする。俺だけの判断では間違える事もあるだろう。頼りにしている」
「はい!」
頼りにしているという言葉を聞いた瞬間、凄く胸が熱くなった。
そっか。頼りにしてくれるんだ。
僕から話しかけてもいいんだ。
僕が元気よく返事をすると、兄上は小さく笑みを作り、僕の頭を撫でられた。




