ただの泡ですが、確保ぉぉぉぉぉぉ!!
ただの泡が調査に行っているので、俺は戻ってきた時にただの泡がリラックスできるよう、できるだけ快適にしておこうと思う。
先ほどさばいたウサギを鞄の中に入れて来たハーブソルトで味付けし焼いていく。
「もしもこういう場所で生きて行くなら、拠点を作って、かまどなども用意するべきだな」
『ぐるるる?』
独り言をつぶやくと、未だ飛び立たずこちらを見ている母が、喉を鳴らすような鳴き声を発した。しかし流石にドラゴンの言葉など分からないし、表情も読めない。
「独り言ですのでお気になさらず。王子を辞めた後のプランを考えていました」
『ぐる?!』
自足自給となれば、もっと料理の腕を磨くべきだろう。ただの泡はご飯を食べなくてもいいが、折角だから美味しいものを食べさせてあげたい。
パンぐらいは焼けるようになっておきたいが、パンを焼くには小麦などが必要になってくる。そうすると外貨を得る必要がでてくな。小麦を一から育てるのは色々難しいだろう。
どういう商売をすれば、それなりに快適な生活ができるだろうか。
それから、拠点を決めたら、家を作る必要も出てくるな。一応は作り方も分かっているが、一人で作るとなれば、もう少しちゃんと学んでおいた方がいいだろう。
余裕があるならば、作物も育てたいところだ。やはり肉ばかり食べていては栄養が偏るからな。
『ぐるぐるぐるる』
「どうされました? ウサギ肉が食べたいのですか?」
俺が聞くと、ドラゴンは首を振った。違うらしい。やはり言葉の壁は大きいな。
ただの泡との生活を考えてみるが、やはり俺が主夫になった方が万事うまくいきそうだな。泡の体を構成するものを俺が全て用意し、つやのいい泡にするのも楽しみだ。そう言えば、魔物被害がある場所ならば、魔物を狩る仕事があると聞いた事もある。それを定期的に取り入れながら、自給自足をしていくか?
色々自給自足を目指すにも、バランスが難しいな。
『王子、ただいま戻りました』
「ああ。おかえり……。これ、いいな」
『何が良いんですか?』
「ただの泡との自給自足生活を想像していたんだが、こう、君が帰って来るのを待つというのもありだなと」
幸せだなぁ。
そんな事を考えていると、ぐるぐるというドラゴンの鳴き声の他にキーキーという動物の鳴き声が聞こえた。よく見れば。ただの泡に何かが包まれジタバタしている。死なないように顔だけ出しているが、体はすっぽり覆われてしまっていた。
「それは……なんだ?」
ウサギのように耳は長いが、耳の途中で白から黒に変わっている。顔は白い毛でおおわれており、ウサギというより猫のような顔立ちだ。目は緑色で額に青い宝石のような石がはまっていた。体は泡の所為で見えないが知っている生き物ではないので、やはりこれも魔物なのだろう。しかし愛玩動物っぽさがあり、王都に持ち帰ればペットにしたいという貴婦人が多く現れそうな外見だ。
『たぶん、魔女です。お母様もこの方の事を言ってみえたのですよね?』
ただの泡の言葉にドラゴンは首を縦に振った。……今更ながらに変身薬というのは何でもありなものだと思う。泡にもなれば、ものすごい大きなドラゴンにもなり、愛玩動物的な小動物にもなるのだから。
質量等無視されている。
その原理は理解しがたいものだが、科学だけでなく呪術なども取り入れているからこそなのだろう。
「よくこの小動物が魔女だと分かったな」
『魔物を見て回ってたら、何となく気配で元人間かそうでないかが分かるようになってきました。お母様を最初に見てましたし。それにこの魔物は小さいにも関わらず他の魔物から一目置かれている様子なので、魔女である確率が高いと思ったんです!』
「流石だな」
『えへへへ』
俺の泡は最強だ。
ふわっと泡を傾け、照れた姿も可愛い。
何か言いたげにグルグルとドラゴンが鳴いたが、異論は受け付けない。うちの泡は世界一可愛い泡である。
「とりあえず、丁度ウサギが焼けたから、食べてからその魔物をどうするか考えよう」
『わぁ。王子の手料理ですか?! 凄いです』
「だろう? 今は手元にある調味料が少ないからこんなものしかできないが、いつか最高の料理を作ってやるな。とにかくこういう素朴なものは、温かいうちに食べるのが一番だ」
ただの泡に褒められ気分がいい。
コース料理だけではなく、ケーキなどの菓子も学んでおこう。幸いにも王宮には一流の職人がいるしな。
将来の為に色々計画をしている俺をドラゴンが何か言いたげに見ていたが、喋れないので勿論何が言いたいのかは分からなかった。




