ただの泡なので、調査行ってきます!
ただの泡にものすごく肯定された俺は苦笑いするしかなかった。
嬉しくもあるが、そんなにできた男ではないと思っている。しかしただの泡が何とかしてほしいと言うのならば、何とかできる方向で考えて行くだけだ。何事も最初からできないではなく、どうアプローチをしていくかを考えるのが成功の秘訣だ。
「そんなに立派に育ったのね」
『はい。王子はとっても立派です。それに皆言葉が足りないんですよ。王子は別枠として、他の人もちゃんと話し合わないから疑心暗鬼になる。公爵子息も弟君もバリバリの王子派ではありますが、それぞれは微妙な関係です。友達の友達は友達ではない的な? だから王子はいた方がいいんですが、裏の裏の裏の裏とか読みあっている前に話し合った方がいいんですよ』
「まて。なんて俺だけ別枠なんだ」
『王子は……何というか、あれですね。もう少し私以外にも興味を持って、自室と仕事場の往復だけの生活から抜け出すという点からスタートと言いますか。大丈夫です、大抵は王子派なんで。部屋の外に怖いものはなにもないですよ?』
何故だろう。なんか馬鹿にされているようでムカつく。
俺はツンツンとただの泡を突っ突いた。
『うひゃ。くすぐったいですよ』
「突っ突くとくすぐったいのか?」
なんとなくやってみたけれど、そうかくすぐったいのか。ただの泡の感覚がどうなっているのか分かりにくい。
『王子は誰に対しても平等に無関心ですからね。割り切っている分、仕事は凄く合理的なんですけど。でも寂しすぎるし、王子の地位にも執着しないし、そのうち自分の命にも執着なくしちゃいそうで。こうなってるのは、絶対貴方や王様の所為だと思います。でも誰かの所為だって言っていても何も変わりませんし、王子の代できっちり決着をつけて、王子はちゃんと私と王子の子供を愛して一緒に育てて欲しいって思うんです』
「えっ。産むのか?」
『産めるようになればですけど。魔女さんの結果次第ですかねぇ』
そう言えば一世一代の告白の時にそんな話が出たな。
ただの泡のままでは無理だし、かといって卵生も難しい。
つまりはシャボンの状態で、ちゃんと体の中身も人間と同等の状態にという事だが——その後も、色々問題が横たわっている気がする。
ちゃんとシャボンは好きだけど、好きだからこそ……伝えねばならぬことが色々あって、俺は頭を抱えたくなった。俺も未経験なんだよ……。シャボンの子供は欲しいけど!!
『子供の気持ちはどうなるか分かりませんけど。でも子供に対してお前さえいなければ的な馬鹿げたことを言う人にはなって欲しくないので、やっぱり王子はもっと素直に心を開けるようになってもらいたいですね』
「流石に子供に対してそんな事を言う事はないと思うが? どういう事象を考えても、子供が生まれてくるのは子供の意志ではなく、親の意思だ。生まれる生まれないの状況に子の意志は関係しない。ならば責任が伴うのは親だろう?」
例え合意ない状況で生まれた命でも、子供に選択肢がない限り、責任所在は親達で、子供に向けるのは間違っている。
『王子は、自分の事、そう思っていました? 罪はないと』
シャボンに言われてギクリとする。
俺は母にとって俺の存在がなければよかったのではないかと思った事がある。でも子供に罪はないというのならば、それは矛盾する考えだ。
『というのが王子の根底なんですよ。貴方と王様の所為で。もしも王子さえいなければなんて言った日には、私は貴方を殺しますから』
「シャボン?」
『最初に言った通り、私は貴方に対してすっごくムカついていますから』
「分かってる。そんな事言わないわ」
『不用意な事は言わない事です。ただの泡ですが、そこそこ強いつもりなので』
ドラゴンとただの泡では、ドラゴンの方が強そうだ。しかし俺の泡も侮れない強さを秘めている。
「いや。そういうのはいい。流石に俺のケジメは俺で付けるから。そういう事で、自分の手を汚さないでくれ」
「……母の事を心配してじゃないのね」
「死んで欲しいとは思っていませんが、俺にとってはただの泡の方が大切なので」
とっさに止めた理由に対して母がぼやいたため、俺は説明を入れたが、何故かすごく生温かい目で見られた。
「相当入れ込んでいるのね」
『違います。相思相愛です!! 王子だけじゃなくて、私も王子大好きです!!』
「そ、そうか」
ぷんすこ震えながら怒っている泡が可愛すぎる。可愛さに耐えていると、母が死んだような目をして俺達の方を見ていた。
「……まあ、元気そうで、何よりだわ。それで、どれぐらいここに居るの? 貴方達の事を他の魔物も気にしているみたいだけど」
「魔物の気配が分かるのですか?」
そういえばただの泡も俺より先に魔物の気配に気が付いていた。
「魔物になると気配に敏感になるみたいなの。多分視力や聴覚が、人間だった頃より上がっているわ」
なるほど。魔物はタフで倒しにくいのもこの辺りが理由なのかもしれない。
「とりあえず二日間は休める体制にしてきたので、魔女を探す為に泊まろうと思います」
「食料とかはどうするつもり?」
「森で狩ろうかと。一応、携帯食も少しはもってきましたが、二日だけなら問題なく過ごせますので。個人的にはウサギの肉がいいですが、小骨が多い蛇でも文句を言ったりしませんから」
豊かな森だし、鳥が飛んでいるのは見たので、何とかなるだろう。
「……逞しく育ったのね」
「まあ、王子なので」
母は複雑そうな顔をしたが、王子なら生きて行くためにこれぐらいでできて当然だ。もしも王宮での暮らしが嫌になった時にどうするかシュミレーションするにも丁度いいなと俺は思いながら、野営の準備を始めた。




